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〇〇は『護衛任務』をするそうです その10

「なあ、エリカ。お前の部屋はどこにあるんだ?」


「え? あー、えーっと、大きなバルコニーがあるところにあります」


「そうか……なら、しっかりつかまってろよ」


「えっと、それはどういう……って、きゃああああああああああ!!」


 ナオトはエリカ姫をお姫様抱っこした状態で四枚の黒い翼を羽ばたかせると、城にある大きなバルコニーに向かって、飛び始めた。

 ちなみに、他の三人はナオトを見失わないように、ちゃんとついてきていた。


 *


「……はい、到着っと……。足元、気をつけろよ」


「は、はい、ありがとうございます」


 エリカ姫は黒いローブを脱ぐと、それを床に置いた。


「……そろそろ他の三人も来ると思うから、もう少しここにいてくれ」


「は、はい。あ、あの……」


「ん? なんだ?」


「あー、その……えーっと、い、色々とありがとうございました」


「え、えーっと、俺は別に大したことはしてないぞ?」


「いえ、誰かに助けられたら、誰であろうとちゃんとお礼を言うのがわたくしの……」


「流儀……だろ?」


「はい、その通りです」


 二人が少しの間、笑い合っていると他の三人が到着した。

 その直後、エリカ姫はナオトをギュッと抱きしめた。


「お、おいおい、急にどうしたんだよ。何か変なものでも食ったのか?」


「いいえ、違います。ただ……」


「ただ?」


わたくしはあなたにわがままばかりを言ってしまったので、その……せめてもの罪滅ぼしです」


「罪滅ぼしって、大袈裟だな。エリカは」


「いいのです。それが今のわたくしにできる唯一のことなのですから」


 その時……ハイド・シューティングスターが息を切らしながら、大きなバルコニーに到着した。


「エ、エリカ様! いつお戻りになったのですか? いえ、それよりも……そこにいるのは『漆黒の堕天使』だな! エリカ様に何をした!」


「いや、別に何もしてねえし、する気もねえよ。それより、その聖剣……少しは使えるようになったのか?」


「わ、私をあなどってもらっては困る。なにせ、この聖剣は代々、我がシューティングスター家に受け継がれてきたものだからな! その切れ味をその身をもって味わうがいい!」


 ハイドは『聖剣スターブレイカー』をさやから引き抜くと、そのやいばをナオトに向けた。


「どうしても……戦わないといけないのか?」


「ああ、そうだ。私と戦え! 漆黒の堕天使! そして、私が勝ったら、エリカ様を返してもらうぞ!」


「じゃあ、俺が勝ったら?」


「私を殺すなり、この国を滅ぼすなり、好きにするといい! まあ、十万の兵を倒した貴様なら、どちらも容易いことだろうがな!」


「はぁ……こんなやつがエリカを利用して、この国の王になろうとしてたやつだなんてな……」


「……! き、貴様! いったい何の話をしているのだ! 私はそのようなことは決して……」


「なら、なんであんたは俺との一件が終わったら、すぐに国に帰ったんだ? エリカの補佐官であるはずのやつがエリカを探さずに帰るなんて、それは職務放棄ってやつになるんじゃないか?」


「な、なんのことだか、さっぱりだ。貴様はいったい何を言っているのだ?」


「とぼけるなよ。あんたは今年で十八歳になるエリカを殺して、この国の王になろうとしたんだろ?」


「……! 今、思い出しました。あなたは、幼い頃からわたくしのことを憎んでいましたよね? ハイド・シューティングスター」


「エ、エリカ様。いったい何をおっしゃっておられるのですか? 私は決してそのようなことは……」


「黙りなさい! わたくしをわざと『ハイノウ』国に行かせて、そのまま置き去りにしたあなたを信頼などできません! 今すぐ、この国から出ていきなさい!」


 ハイドはそれを聞くと、不気味な笑みを浮かべた。


「それがどうした? お前さえいなければ、私がこの国の……いや、この世界の王になれるのだから、手段を選ばないのは当然だろう?」


「それがあなたの本音ですか。わかりました……ナオト!」


「おう、なんだ?」


「あの男を今すぐおとなしくさせなさい!」


「殺さなくてもいいんだな?」


「ええ、あんな人、殺す価値もありません」


「わかった……。名取なとり、ブラスト、ドライ。エリカのこと、頼んだぞ」


 三人は親指を立てると、エリカ姫を連れて、バルコニーから飛び降りた。


「……さてと」


 今のナオトは『黒影を操る狼(ダークウルフ)』の鎧を身にまとっているため、黒影を自由自在に操ることができる。


象徴武器シンボルウェポン 【超大型の鈍器(ギガント・メイス)】」


 一見、黒い槍のような形状をしたそれの頭部にはスピノサウルスののようなものが四つ付いており、中心には魚の『ダツ』のようにとがった黒い棒のようなものが収納されている。

 つまり、【出縁型超巨大戦棍(フランジバトルメイス)】である。


「ふん、さすがは『漆黒の堕天使』だな。黒影を操れるとは……」


「別にこれは俺の力じゃないけど、あんたを止めるために必要だと思ったから、作っただけだ」


「ふん、あまり私を舐めていると痛い目にうぞ?」


「まあ、それは戦ってみないとわからないけどな」


 両者は武器を構えると、深呼吸をした。

 別に一撃で仕留めようとは思っていない。

 ただ、相手の力量がどれほどのものかを見定めなければ戦いというものは一瞬で終わってしまう。

 だから、慎重かつ冷静に相手の様子をうかがっていた。

 そして……ついに、その時がやってきた。


「死ねえええええ! 漆黒の堕天使!!」


「悪いな! 俺が死ぬのは……今日じゃない!!」


 両者はほぼ同時に床を蹴ると、勢いよく相手に向かって走り始めた。

 ぶつかり合う武器と武器。

 両者が同時におのれの武器を相手の武器にねじ込んでいるため、火花が飛び続けている。


「この聖剣と渡り合えるとは、貴様のそれはいったい何だ!」


「黒い影でできている、としか今は言えないし、わからない。だから、今は戦いに集中しようぜ!」


「ああ、そうだな。貴様のその鎧を粉々にしてくれるわあ!」


「そうか……。なら、俺がその聖剣を折ってもいいんだな?」


「ふん、バカなことを。この星をも砕くという伝説がある『聖剣スターブレイカー』を本当に折れるとでも思っているのか?」


「それは……やってみなくちゃわかんねえ……よ!」


「なっ……!!」


 ナオトは先端がドリルになっているシッポを彼の剣に巻きつけると、彼から奪った。


「この程度のことで、剣を奪われるなんて、剣が泣くぞ?」


「だ、黙れ! 卑怯者! 私の聖剣を返せ!」


「別に返してやってもいいが、それはお前がこれから一生、エリカを命がけで守ると誓うか誓わないかで決まる」


「あんな小娘を守る価値がどこにあるというのだ! 生まれた時からぜいたくな暮らしをしてきた、あの小娘に私の気持ちなどわかるわけがないだろう!」


「ああ、そうだな。あんたがどんな人生を歩んできたかなんて他人にわかるわけもない。だけどな……それを言い訳にして、人を殺そうとするお前は間違ってる! だから、ここで俺が止めてやるよ。お前がもう二度とこんなことを起こさないように、徹底的に体に教え込んでやる!」


 その時、ナオトの黄緑色の瞳が一瞬、光った。

 その直後、彼はシッポで巻きつけていた聖剣を離した。

 それと同時に、彼の脳天に即死級の一撃……つまり、自分の武器で彼を叩き潰そうとした。


「そこまでです!!」


 エリカ姫が城の内側からナオトとハイドがいるバルコニーにやってくると、そう言った。


「遅かったな、エリカ。危うく、殺すところだったよ」


 ナオトは自分の武器を影に戻すと、エリカ姫にそう言った。


「はぁ……まったく、あなたという人は。演技とはいえ、今のはやりすぎですよ?」


「いやあ、ごめん、ごめん。久しぶりにわくわくしちゃってさ」


「うーん、まあ、とりあえず二人とも無事でしたから、よしとしましょう。ナオト、ここはもういいですから、あなたは仲間のところへ行きなさい。この城の最上階にいますから」


「ああ、わかった。気をつけろよ」


「はい」


 ナオトはそう言うと仲間のところへ走っていった。

 エリカ姫は未だに怯えているハイドのところに行くと、グイと襟首をつかんでこう言った。


「いいですか? あなたはこれからわたくしの剣として、そして盾として、その一生を終えるまで私を守りなさい。そうすれば、今回の件はお父様には黙っておいてあげます」


「は、はいっ!! 承知しました! エリカ様! 私の人生を全てあなたにささげます!」


「よろしい。では、最上階までついてきなさい」


「は、はいっ!!」


 先ほどまでの光景が嘘であったのように、バルコニーは静まり返っていた……。


 *


 ビッグボード城……最上階……王の間……。

 そこに集まったのは、ナオト、名取なとり、ブラスト、ドライ、エリカ姫、ハイド補佐官……そして、ビッグボード国、国王『ガダル・スプリング』であった。

 国王の玉座ぎょくざの前でひざまずいている六人は、それぞれ国王の質問に答えた。

 結果として、ハイド・シューティングスターによるエリカ姫抹殺計画は、ナオトたちの活躍により、未然に防ぐことができた。

 ハイド補佐官は姫を一人にした罰として、エリカ姫の生涯の補佐官に任命された。

 これは、ナオトたちが彼を改心させるきっかけを与えたことで成立したものであるため、本来なら地位の剥奪はくだつや国外追放……死刑もあり得た。

 二度と今回のようなことが起こらないように、国王は竜人リザードマンの『ドライ・チェイサー』をエリカ姫の護衛役として、そばに置くことにした。

 なお、この一件はその場にいた者たちだけが知っていることであるため、国民はもちろん、他国にも一切の情報提供をしていない。

 今日は『エリカ姫生誕祭』であったため、それを利用して、今回の一件は演出だということを国王が直々に国民たちに述べた。

 これにより、ナオトたちの『護衛任務』は達成されたのであった……。


「じゃあな、ドライ、エリカ」


「ああ、またな。ナオト」


「うう……ナオトはわたくしのことが嫌いなのですね」


「なんでそうなるんだよ。俺は別にエリカのことをそんな風に思ってないぞ?」


「では、なぜわたくしを置いていくのですか?」


「それは、次はお前の番だからだよ。だろ? 次期ビッグボード国、女王『エリカ・スプリング』様」


「うう……そうですね。次はわたくしがこの国を引っ張っていく番です」


「だったら、いつまでも泣くな。お前は、これから人の上に立つんだから、もっと堂々としてないとダメだ」


「で、ですが……わたくしは自分に自信が持てません。どうしたら、いいでしょうか?」


「うーん、そうだな。じゃあ、一つおまじないを教えてやるよ」


「おまじない?」


「ああ、そうだ。もうダメだって思ったら、自分の心臓に手を当てて、その鼓動を手で感じてみるといいぞ。俺の経験上、しばらくそうしていれば心を落ち着かせることができるから」


「はい、わかりました。では……ここでお別れです。また、どこかで会いましょうね、ナオト」


「ああ、それじゃあ、またな!」


 ナオトたちは、ビッグボード国の祭りが終わらないうちに、みんなでアパートへと帰っていった……。

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