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〇〇は『護衛任務』をするそうです その1

 ____四月十七日。午後十三時。『モンスターチルドレン育成所』を後にしたナオトたちは昼ごはんを食べていた。

 次の目的地である『橙色に染まりし温泉』に着くまでしばらく時間がかかるため、ゆっくり食べている。

 え? どこで食べているのかって? うーん、それじゃあ、高速詠唱開始!

 彼らは巨大な亀型モンスターの甲羅の中心と合体しているアパートの二階の部屋で十人のモンスターチルドレンとその他の存在たち(エージェンツ)と共に住んでいるため、移動は楽なのである。

 ちなみに、その体長五百メートルほどの巨大な亀型モンスターは次の目的地である『橙色に染まりし温泉』に向かって進んでいる。


「いい? ナオト。あんたはミカンと……いや、モンスターチルドレンと一時的に融合したことで、あたしたちと同じ体のつくりになっているはずだから、しばらく何も食べなくても平気よ」


 巨大なちゃぶ台の周りに座って昼ごはんを食べていたミノリ(吸血鬼)は急いで昼ごはんを食べ終えると隣に座っているナオトにそう言った。


「何も食べなくても平気だと? いやいやいやいや、お前らが何も食べてない日なんて今までなかったぞ?」


「それは……あんたと一緒に食べたかったからよ」


「なるほど……。じゃあ、モンスターチルドレンは何をエネルギーとしているんだ?」


「うーん、そうね。そこら中にある『魔力』……かしらね」


「なんだ? 魔力だけじゃないのか?」


「え? あ、いや、まあ、それだけじゃないけど」


「まどろっこしいですね。はっきり言わないと何も伝わりませんよ?」


 ぴしゃりとミノリ(吸血鬼)にそう言ったのはコユリ(本物の天使)だ。


「う、うるさいわね! 銀髪天使! 今、言おうと思ってたのよ!」


「そうですか。てっきり自分たちの秘密を知られたくないから、躊躇ためらっているのかと思いました」


「ふ、ふん! あんたに言われなくたって、あたしはちゃんと言えるわよ」


「そうですか、なら早くしてください。ほら、早く」


「あー! もうー! かさないでよ! 今、言うから!」


 ミノリ(吸血鬼)はそう言うと、咳払いをした。


「そ、それじゃあ、話すけど、準備はいい?」


「ああ、いいぞ」


 ミノリ(吸血鬼)は深呼吸すると、ナオトに自分たちの秘密の一つを言おうとした。しかし……。


「ねえ、ご主人。僕の足元にどこかの国のお姫様が寝てるんだけど、どうする?」


 ミサキ(巨大な亀型モンスターの本体)がナオトにそんなことを伝えてきたため、ミノリは一旦、会話を中断した。


「どこかの国のお姫様だと? それは確かなのか? コスプレとかじゃなくて?」


「うん、これはコスプレなんかじゃないよ」


「そうか。けど、なんでコスプレじゃないって断言できるんだ?」


「だって、わたくしは誇り高きビッグボード国のプリンセス! エリカ・スプリングよ! がたかーい!! ……なんてことを寝言で言ってるからだよ」


「お前、人の寝言を盗み聞きできるとか耳良すぎだろ」


「ふふふ、それほどでもないよ」


「いや、褒めてないからな……。それで? 俺にどうしろと言うんだ? 正直、面倒ごとに付き合ってる時間なんて」


 その時、()()()がものすごい勢いで飛んできて、草原に着地した。

 その風圧はナオトたちが住んでいるアパートにも届いた。


「い、今のはいったいなんだ? 何が降ってきたんだ? 隕石か何かか? ミサキ、状況報告」


「了解……。視界共有開始」


 ミサキは自分の外装である巨大な亀型モンスターの視界とナオトの視界を共有させた。


「うーんと、あれは……人か? いや、違うな。あれは」


 草原に立ち上る砂けむりの中をお姫様に向かって歩いてくる人物は黒いウロコと金色の瞳が特徴的な……竜人リザードマンだった。


「なるほど。人は人でも竜人リザードマンか。でも、あいつ二本の剣を腰にぶら下げてるな……。どこかの国に雇われた暗殺者かもしれないけど、戦いはできるだけ避けたいな……」


「なら、俺が……ろうか?」


 名取はナオトの耳元でそう囁いた。


「……いや、お前はまだ、さっきのゴブリン戦での疲れが残ってるだろう? だから、ここは俺に任せてくれ。それに名取式剣術は一撃、一撃に全力を込めないと精度が落ちるんだろ?」


「……分かった。気をつけろよ……ナオト」


「ああ、忠告ありがとな。お前もゆっくり休めよ」


 名取は、スゥーと消えるかのように、部屋の隅に移動した。


「さてさて、かなり強そうな二刀流使いに勝てそうでなおかつ体力がほぼ満タンなやつはこの中にいるかな」


 みんなは分かっていた。自分たちが名乗り出ても、ナオトは必ず俺が行くと言い出すだろうと。

 だから、みんなは何も言わなかった。

 それに疲労が溜まっているのは事実だ。

 先ほどまで五十万ものゴブリンたちを相手にしていたのだから。


「誰も名乗り出ないってことは、俺が行くしかないってことでいいな? じゃあ、ちょっくら行ってきますか」


 ナオトはスッと立ち上がると、玄関へと向かった。しかし、ミノリ(吸血鬼)は彼の前に両手を広げて立ち塞がった。


「なあ、ミノリ。そこを退いてくれないか?」


「……いやだ」


「どうしてだ? 俺はただ人助けを……」


「あんたはいつもそう……人のために何かをしようとする……。自分の体がどうなろうと知ったこっちゃないし、自分の命と引き換えにしてでも何かをしようとする。あんたは傷ついてるのに、他の人は無傷……。それはあんたにとってはいいかもしれないけど、あたしたちにとって、それは……」


「ミノリ。お前の言いたいことはよくわかる。だがな、これ以上、お前に構ってはいられないんだ。説教なら後で聞く。だから、今は行かせてくれ。頼む」


 ミノリ(吸血鬼)はゆっくりと両手を下ろすと、ナオトに抱きついた。


「絶対に無茶はしないこと……いいわね?」


「いつもそれを言うよな、お前は……。そんなに心配しなくても大丈夫だよ。今の俺は、アイ先生以外には負けない気がするから」


「慢心……ダメ……絶対……!」


 ナオトはミノリ(吸血鬼)の頭を撫でると、耳元でこう囁いてから部屋を飛び出した。


「ああ、そうだな。お前の言う通りだよ。油断は禁物だ。だけどな、目の前に助けられる人がいるのに助けに行かないことは俺にはできないんだよ。だからよ、ちょっとここで待っててくれないか? 必ず……生きて帰るから」


 俯いたまま、その場に立ち尽くしていたミノリ(吸血鬼)は、ぼそりとこう言った。


「……ナオトのバカ……帰ってこなかったら、絶対に許さないからね」


 その様子を見ていた他のみんなには、ミノリ(吸血鬼)が微笑んでいるように見えた。

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