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〇〇は『モンスターチルドレン育成所』に行くそうです その10

「気分はどうだ? ゴブリン王」


 ナオトがゴブリン王の目の前に行って発した第一声がそれだった。

 それに対し、ゴブリン王はこう答えた。


「ああ、最高の気分だ……。これで貴様を終わらせることができる……。せいぜいあの世で後悔するがいい!」


 しかし、ナオトは少しも動じなかった。それどころか、ゴブリン王を挑発し始めた。


「デカくなっても、攻撃が当たらなきゃ意味ねえからな。そこら辺どうなんだ? お・う・さ・ま?」


「ふっふっふっふっふ。我を愚弄して生きて帰れると思っているのなら、それは見当違いというやつだああああああああああああああああああ!!」


 ゆーっくりとナオトの方に迫ってくるゴブリン王の右拳。それを見ていたナオトは深い、深い、溜め息をいた。

 その後、ゴブリン王に対して有効打になるであろう拳をゴブリン王に打ち込むことにした……。


「久しぶりに使ってみるか……あの技を」


 ナオトは空中でスタンディングスタートの構えをすると、空気を蹴ったかのような勢いで、進み始めた。


「『電光ジェット……石火アクセル』!!」


 これは、ナオトが『アメシスト』……『鎖』の力を手に入れた時から使える技で、光に近い速度で進むことができる。

 つまり、『亜光速』である。ちなみに、イスカンダルを目指す宇宙戦艦はこの速さで進む。

 また、星座の聖衣クロスまとって戦う戦士たちの中で十二人だけが『光の速さ』で動ける……らしい……。


「これで終わりだ! ゴブリン王! 覚悟しろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


「負けてたまるかああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 ゴブリン王の攻撃はナオトをかすめもしなかったが、ナオトの攻撃はゴブリン王の額をえぐるように見事に命中していた。


「ぐああああああああああああああああああああああああああああああああ! お、おのれえええええええええええええええええええええええええええええええええ!!」


 ゴブリン王が仰向けで倒れると同時に、ゴブリン王に吸収されていたゴブリンたちがゴブリン王の体の中から一気に溢れ出てきた。

 こうして、ゴブリン王率いる五十万体のゴブリンたちは、二十……いや、二十一人の戦士たちによって、倒されてしまった。(ナオトとミカンは合体しているため、一人と数える)

 ナオトは、ゴブリン王のところへ行くと、なぜ『モンスターチルドレン育成所』を襲撃しようと思ったのかくことにした。

 ナオトはゴブリン王の目の前で静止すると、事情をいた。

 すると、ナオトたちが『例の花畑』で追い払ったゴブリンたちのかたき討ちだということがわかった。

 俺は、自分たちはその時戦ったゴブリンを一匹も殺していないし、殺す気もなかったということを伝えた。

 それを聞いたゴブリン王は倒れたまま、弱々しく、俺たちに詫びを入れてきた。

 今回は誤解が招いたものだから、別に謝る必要などないということを伝えると、ゴブリンたちは泣きながら、俺に……いや、俺たちの前で土下座をし、感謝の言葉を口々に言った。


「あー、はいはい、分かった、分かった。もういいから、早くうちに帰って、ゆっくり休め」


 俺が空中で静止したまま、そんなことを言ってしまったため、彼らは俺のことを【漆黒の堕天使】などと呼び始めた。

 なんか面倒なことになっちまったなぁ……。けど、まあ、死者が出なくて本当によかった。

 俺はなんとかゴブリンたちをうちへ帰るよう促すと、みんなのところへ舞い降りた。


「はぁー、疲れたー。あいつら俺のことを『漆黒の堕天使』だとか言ってたけど、俺が人間だってこと完全に忘れてるよなー。あはははは」


 その時、ミノリ(吸血鬼)が少し俯いた状態で、つかつかと俺の方へ歩いてきた。

 ミノリは俺の前で止まると、拳を振り上げた。このまま俺はミノリに殴られてしまうことを悟り、じっとしていた……。

 しかし、ミノリは俺の予想したこととは違うことをした。


「バカナオト……! 結局、無茶してるじゃない!」


 ミノリはそう言いながら、俺をギュッ! と抱きしめてきた。俺はこの黒い鎧を脱ぐことができない状態であることを悔やんだ。


「無茶? 俺がいつ無茶したんだ?」


 ミノリは涙目になりながら、俺の顔を見るとこう言った。


「だ、だって、あんたは疲れて眠ってたはずでしょ? それなのに、あんたは無茶して、あたしを……あたしたちを助けに来てくれたから……」


「いや、別に体の状態は悪くないぞ。むしろ、今はなんでもできそうな気がするんだ」


「……え? それって、どういうこと?」


「うーんと、お前らがゴブリンたちと戦う前に俺を抱きしめてくれただろ? あの時になんか目に見えない力を感じたんだよ。そんで、それが俺の心と体を優しく包み込んでくれてな。で、気づいたら疲れが吹っ飛んでたってわけだ」


「それは……つまり」


「ああ、お前たちのおかげで俺は戦えたってわけだ」


「……そっか。あたしたち、あんたの役に立てたのね」


「まあ、そういうことだ。……さてと、それじゃあ、ミノリ。そろそろ行こうぜ」


「行くってどこへ?」


「そんなの決まってるだろ? 俺たちの次の目的地だよ」


「え、えーっと、それは……」


「あなたたちの次の目的地は『橙色に染まりし温泉』よ」


 ナオトとミノリ(吸血鬼)の近くに突如として出現した『アイ』は二人にそう言った。


「び……びっくりした……。いったい、いつからそこにいたんだ?」


「そんなことはどうでもいいわ。それに、あなたたちはもう『育成所(ここ)』を離れた方がいいわ」


「……? それはどういう意味だ?」


「とにかく、あなたたちは早急にここから離れなさい。いいわね?」


 モンスターチルドレン育成所の長である『アイ』はナオトの高校時代の担任である。

 ちなみに、ナオトはその時から彼女のことが好きなのである。

 実はアイも彼のことが好きなのだが、今はナオトの記憶を少し操作して、自分のことを忘れさせているため言いたくても言えない……。

 おそらく、ずっと幼女体型なのを隠しておきたいからであろう。


「あ……ああ、分かったよ。それじゃあ、みんな、次の目的地に向けて出発す……」


「ま、待ってください!」


 その時、マナミ(茶髪ショートの獣人ネコ)が声を張り上げた。

 その後、マナミはアイのところへ行くとこう言った。


「あ、あの! 先生はどうして、わ、私の固有魔法を使えるんですか?」


 アイはモンスターチルドレンを生み出した存在でもあるため、マナミを含めたモンスターチルドレンの先生をやっている。


「あら? 言っていなかったかしら? あなたたちの固有魔法は元々、私が使っていたものなのよ?」


「そ、そうなんですか。は、初めて知りました」


「あら? そうだったの? てっきり知っているものだと思っていたわ。ごめんなさいね」


「い、いえ! 私も……その……無知ですみません」


「無知を恥じる必要はないわ。大事なのは自分が無知であることを知ることよ」


「えっと、『無知の知』でしたっけ?」


「ええ、そうよ。よく覚えていたわね。えらい、えらい」


 アイはマナミの頭を優しく撫でながら、そう言った。(ちゃんと白い手袋をしています。そうじゃないと呪いで真っ白にしてしまいますからね)


「ふぇっ!? あ、ありがとうございます!」


「よろしい。なら、早くあなたの居場所へ行きなさい」


「は、はい! わ、私、頑張ります!」


「ええ、あなたなりに頑張りなさい」


「はい! そ、それでは失礼します!」


 そう言って、アイに頭を下げたマナミは、トテトテとナオトの方へと走っていった。

 大きくなったものね……。泣き虫だったはずのあの子が、今ではちゃんと自分の意見を言えるようになった。

 子どもの成長というものは早いものね。


「マナミ、何を話してたんだ?」


「え、えーっと、秘密です」


「そうか……なら、そろそろ行くぞ。えーっと、あの人の名前、聞きそびれたな……。マナミ、あの人の名前、知ってるか?」


「え? あっ、はい、知ってますよ。あの人の名前は『アイ』といいます」


「『アイ』?」


「はい、それがあの人の……私たちの先生の名前です」


「ふーん、そっか。『アイ』か。いい名前だな」


「そ、それは本人に言ってあげてください」


「え? あー、うん。そうだな。そうだよな。んじゃあ、ちょっと行ってくるから少し待っててくれ」


 ナオトはそう言うとアイのところへ歩いていった。


「えーっと、だな。その……色々、世話になったな」


 頭をポリポリときながら、そう言うナオトを見ながら、アイは。


「別にいいのよ。大したことはしていないから。それより、その体のままでいいの?」


「え? あー、まあな。なんかこの体の方が戦いやすいんだよ」


「そう……でも、その鎧は早く外した方がいいから、私がさっき言った場所に行って、いつでも外せられるようにしなさい。私なら、強制的にそれを外してあげられるけど、それは嫌でしょ?」


「たしかに強制的に外されるのは嫌だな……。というか『深緑に染まりし火山』にある温泉じゃダメなのか?」


「あそこは、一人につき一回しかその効果を発揮できないから、オススメしないわ」


「ああ、そうなのか……。色々ありがとうな、アイ先生」


「あら? 私、あなたに名前を教えたかしら?」


「いや、さっき、マナミにいたんだよ」


「そう……なら、いいのだけれど」


「……? まあ、とりあえず俺たちは、その温泉を目指すことにするから何かあったら連絡してくれ」


「ええ、分かったわ。それじゃあ、またね。ナオト」


「ああ、またな。アイ先生」


 彼はそう言うと、みんなのところまで歩いていった。

 その時の彼の後ろ姿を見ていた彼女の瞳から、一粒の涙が溢れ出た……。


 *


 その頃……。ビッグボードという国の城内では。


「ええい! ハイノウ国にお出かけになった姫はまだお戻りになられないのか!!」


「はい、未だに連絡が途絶えた状態でして。魔力どころかオーラも感知できません」


「無邪気の塊である姫が盗賊にでも捕らえられれば、私の首が飛ぶかもしれないのだぞ! とにかく捜索を続けよ! 兵を何人使ってもよい! 姫を見つけた者には、それ相応の報酬を与えると兵に伝えよ!」


「はっ!!」


 まったく……。もう少しで私がこの国を支配できるという時に……。やってくれたな……! エリカ・スプリング姫!!

 待っていろ、必ずこの私『ハイド・シューティングスター』が貴様を見つけてやるからな!


「ハイド様! 皆、祭りの準備をしているため、兵が集まりません!」


「なんだと! 何かいい手はないのか!」


「は、はい! でしたら、指名手配されている『鎖の悪魔』を利用するというのは、どうでしょう」


「『鎖の悪魔』か……。『ケンカ戦国チャンピオンシップ』で『はぐれモンスターチルドレン討伐隊司令』である『オメガ・レジェンド』と渡り合っていたという全てが謎に包まれたあの少年か……。よし! ならば、早速『鎖の悪魔』の手配書を兵たちに配れ! そして、こう言うのだ! 見事その首を討ち取った者には姫との結婚も考えてやるとな!!」


「はっ!!」


 まあ、そんな気はさらさらないのだがな……。


「よしよし、これで私の未来は明るくなったな。ふっふっふっふっふ……。はーはっはっはっはっは! はーはっはっはっはっは!!」


 彼の高笑いは城内に響いていたが、昼寝をしている国王と王女の耳には全く届いていなかった。

 ちなみに『鎖の悪魔』とは、ナオトのことである。

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