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〇〇は『蒲公英色に染まりし花畑』に行くそうです その16

「やっと……見つけた。だけど、私の方が……強い。ふふふ」


 黒いローブで体のほとんどを隠している幼女は、ナオトの左の脇腹にナイフを押し込む。


「『エメライオン』の力のおかげで致命傷になるような出血は絶対しないけど、痛みはちゃんとあるんだから、次からは殺す気でやれよ?」


 ナオトはそんなことを言いながら、彼女の左腕の手首付近をつねった。


「私にそんなことをしても無駄。痛みには慣れている」


「そっか。それじゃあ、これはどうかな」


 その直後、ナオトはものすごい勢いで振り返りながらナイフを引き抜いた。

 彼は黒いローブでほぼ全身を隠している『マリー』を押し倒すと、脇をくすぐり始めた。


「それそれー、どうだー、まいったかー」


「あ、あはははは! や、やめて! くすぐったいからー! あははははは!」


 その様子を羨ましそうに見ていたみんなはどこか寂しそうだったが、その子がまいったと言うまで待つことにした。(約十五分かかった)


「はぁ……はぁ……はぁ……も、もう、許して」


「ふぅー、やっと降参したか。というか、お前はいったい何者なんだ?」


 その時、みんなは思った。

 初対面の人にくすぐり攻撃ができる人にそれをかれた時って、どんな気持ちなんだろうと。


「おーい、聞こえてますかー?」


 ナオトはあぐらをかいて座りながら、その子にそう言った。

 すると、その子は急に起き上がって、ナオトに抱きついた。


「おいおい、どうしたんだ? 言っておくが、俺はこう見えても大人なんだぞ?」


「そんなことは知っている。私はあなたの強さに興味がある。だから、私を……あなたの弟子にしてほしい」


「俺の……弟子?」


「うん」


「俺は弟子をとらない主義なんだけど……」


「お願い……します。なんでもしますから、私をあなたの弟子に……してください」


「なんでもする……か。それじゃあ、お前は今から俺とキスできるか?」


「できる」


「そ、そうか……。それじゃあ、今から服を脱げと言われてもか?」


「もちろん」


「……それじゃあ、俺がお前に死ねと言ったら?」


「それじゃあ、弟子になれてもあなたと一緒にいられなくなる」


「ほう、そこはちゃんと否定するんだな」


「私のこと、弟子にする気になった?」


「うーん、そうだなー。それじゃあ、俺と戦ってみようか」


「入門試験?」


「まあ、そういうことだ。それで? やるのか? それとも、やらないのか?」


「やるよ、あなたの弟子になれるのなら」


「そうか。じゃあ、とりあえず離れてもらっていいか?」


「いやだ」


「はい?」


「このまま運んで」


「いや、別にいいけど、今から戦う相手にしてもらうことか?」


「お願いします、お願いします、お願いします、お願いしま……」


「あー! もう! 分かったよ! 運べばいいんだろ! 運べば!!」


「……えへへ♪」


 ナオトは彼女をお姫様抱っこすると、彼女が指定した場所まで運んだ。

 その後、自分も指定の場所に行った。


「なんか今日は変なやつによく会うな。まあ、いつものことか……。それで? 決着はどうつけるんだ?」


「どちらかを戦闘不能にすれば……勝ち」


「なるほど、ポ○モンバトルだな。分かった。それじゃあ……やりますか」


 両者は拳を構えると、名乗り始めた。


「『殺し屋の中の殺し屋』……マリー」


「え? あー、えーっと、CGS……じゃなくて『蛇神じゃしんの心臓を持つ異世界人』……本田ほんだ 直人なおと


 みんなには、どうして決闘が始まりそうになっているのか分からなかった。

 両者は初対面の相手と戦うというのに、笑みを浮かべている。


「……行くよ……ナオト!」


「……来いよ……マリー!」


 両者は同時に大地を踏みしめると、思い切り地面を蹴って前に進み始めた。


「『肉体変形魔法』……『急成長グロウ』!!」


「『大罪の力を封印する鎖トリニティバインドチェイン』!!」


 マリーの身長が百六十センチほどになると、服もそのサイズに合わせて伸びた。

 ナオトはいつも通り背中から十本の銀の鎖を出した。その直後、彼の瞳の色は黒から赤へ、髪の色は黒から白になった。

 両者は急接近すると、拳と拳をぶつけ合った。


「急成長したのはいいが、そんな軽いパンチじゃ、俺を倒せねえぞ?」


「あなたこそ、その体にまだ完全に慣れてなかったから昨日の大会で苦戦してたんじゃないの?」


「そうか、お前にはそう見えたのか。けど、お前は少し勘違いしてるぞ?」


「……?」


「俺が昨日の大会で苦戦していたのは体に慣れてなかったからじゃない。新たに手に入れた力をうまくコントロールできてなかったからだ」


「……そう……なんだ」


「ああ、そうさ。だから、今はそんなの関係なく、俺は戦えるってわけさ!」


「あっ、そう。じゃあ、これなら、どう? 肉体変形魔法……『ちいさくなる(スモーラー)』」


「なにっ!?」


 マリーは一寸ほどの大きさになると、ナオトの体を高速で攻撃し始めた。


「地味に痛いな……これは」


 彼は両腕を胸の前でクロスさせてガードするが、彼女の攻撃はどんどん速く、重くなっていく。


「これが私の奥の手……どう? すごいでしょ?」


 攻撃しながらそんなことを言ったマリーに対し、ナオトは。


「ああ、そうだな。今まで戦った中で結構厄介なやつだよ、お前は。……けどな、対抗策がないわけじゃないんだぜ?」


「何をしても無駄。攻撃は最大の防御」


「いーや、違うね。防御は最大の攻撃だ!」


 その直後、ナオトは十本の銀の鎖で自分の周りを囲むと、自分とマリーがその半球の中に入れるようにふたをした。


「し、しまった。これじゃあ、外に出られない」


 一旦、攻撃を中止したマリーがそう言うと。


「ああ、そうさ。これで俺とお前は袋のねずみだ。それに俺の意志次第でいつでも収縮可能だから、二人ともペシャンコになるぞ?」


 ナオトは少し悪役っぽい顔でそう言った。


「……ひ、卑怯者」


「卑怯? 俺は自分の力を使って戦ってるだけだぞ? 何か問題あるか?」


「く……そ……! もう少しで勝てたのに!」


「まあまあ、そう言うなよ。弟子というか家族にはなれるんだからよ」


「家族……?」


「ああ、そうだ。家族だ」


「そっか。家族か……なら、名前を付けてもらっていいかな?」


「ん? ああ、いいけど……。マリーっていう名前も結構いいと思うぞ?」


「ブラッディー・マリーにはなりたくない……」


「あー、アメリカに伝わる都市伝説か。でも、あれは人の名前じゃないぞ?」


「それでもいやだ。もっと可愛い名前がいい」


「お前、今、全世界のマリーさんを敵に回したぞ」


「別にどうでもいい。早くして」


「あー、分かった、分かった。今考えるから、ちょっと待ってろ。えーっと、可愛い名前、可愛い名前」


 俺はマリーにつける新しい名前を考え始めたが、いつも通りすぐに思いついてしまった。

 これって俺の能力なのかな? これ。まあ、いいか。

 俺は数秒で思いついた名前をマリーに伝えることにした。


「マリー、今からお前に新しい名前を伝えるけど、準備はいいか?」


「うん、大丈夫。いつでもいいよ」


「よし、分かった。なら、言うぞ。今からお前の名前は『ニイナ』だ」


「新しい名前だから、『ニイナ』なの?」


「よく分かったな、その通りだ」


「『新名にいな』……か。うん、悪くない。ありがとう、ナオト」


「そっか、それはよかった。というか、もう元の姿に戻っていいんじゃないか?」


「うん、そうだね。そうするよ。ついでに、ナオトも元の姿に戻ったら?」


「ん? ああ、そうだな。それじゃあ、元の姿に戻るとするか」


 二人は元の姿に戻ると握手をした。


「これからよろしくな、『ニイナ』」


「うん、こちらこそよろしくね、ナオト」


 その時、みんなが心配してくれているのを察したナオトはみんなの元へ向かうと、一人ずつハグし始めた。


「……これが家族……なのかな? でもなんか、心があったかくなるな……。うん、悪くない」


 その時、全員にハグをしたナオトが『ニイナ』の元にやってきて。


「ほら、ニイナ。お前も今日から俺の家族なんだから飛び込んできていいぞ」


 そう言いながら両手を広げていた。

 ニイナは家族というものが何なのかよく分かっていなかったため、彼女の心の中は幸せでいっぱいになっていた。

 彼女は目に涙を浮かべながら、ナオトの腕の中へ飛び込んだ。


「よしよし、ニイナはいい子だな」


 黒いローブについているフードを被っているため優しく頭を撫でてくれるナオトの手の感触がどんなものかはあまり分からなかったが、とても心地よい気分になっていくのは感じた。

 この人になら、自分の全てを受け入れてもらえる。この人になら、自分の全てを委ねられる。

 この人になら、殺されてもいい。そんなことをこの時の彼女は考えていた……。

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