〇〇は『蒲公英色に染まりし花畑』に行くそうです その4
四月十六日。午後四時三十分。
巨大な亀型モンスターの甲羅の中心と合体しているアパートの二階の部屋の中に十一人のモンスターチルドレンとその他の存在たちと共に住んでいる主人公は巨大な亀型モンスターが『例の花畑』に到着するまでの間、今まで留守番していた子たちから罰を受けることになった。(心配させたから)
「えーっと……どうしてこうなったんだ?」
ナオト(『第二形態』になった副作用でショタ化してしまった身長『百三十センチ』の主人公)は、留守番していた九人のモンスターチルドレンとその他の存在たちから一人ずつ罰を受けていた。
「なあ、マナミ。俺の見た目が子どもだからって、こんなことをする必要はないんだぞ?」
マナミ(茶髪ショートの獣人)に膝枕&耳かきをしてもらいながら、そう言ったナオトに対してマナミは。
「今日のナオトさんは今までで一番無茶をしていましたから、私に膝枕と耳かきをされるという刑に処します♪」
「えーっと、それって、ご褒美なんじゃないのか?」
「いいえ、罰です。だって、私が満足するまでナオトさんはずっとこのままですから」
「でも今の俺は……」
「ウーちゃんさんを身に纏ったせいで触れられても何も感じない体になっているそうですね」
黒影を操る狼=ウーちゃん。
「あ、ああ」
「でも、そのおかげで私は今、とても幸せです」
「え? どうしてだ?」
マナミは静かに微笑んで。
「大好きな人を独り占めできる機会なんて、そんなにないからです……」
「……な、なんかごめんな。俺が『ケンカ戦国チャンピオンシップ』に出ようなんて言い出したせいで」
「そんなことないです。ナオトさんの様子はミノリちゃんの水晶を通して、留守番組のみんなで見ていましたから」
「でも、俺は結果的に暴走しちまった……」
「それは私たちのために、ですよね?」
「だとしても、俺は『第三形態』の力をうまく扱えなかった」
「けど、二回目はうまく扱えていましたよね?」
「うん、まあ、そうだな」
「なら、それでいいじゃないですか。私は……私たちはナオトさんがいないと、もう生きていけませんから、急にいなくなったら発狂します」
「大袈裟だな……」
「本当のことです。ナオトさんは私たちモンスターチルドレンのことを普通の女の子として見てくれましたから」
「別に大したことはしてないんだけどな……」
「なら、確かめてみますか?」
「……いや、やめておくよ」
「どうしてですか?」
「……どうせ、襖を少し開けて、ずーっとこっちを見ているんだろう? みんなは」
「はい、その通りです。ナオトさんはモテモテですね」
「ヤンデレ化しないか不安になる時があるがな」
「ふふふ……別に大丈夫だと思いますよ? けど、ナオトさんの命を狙うような不届き者は全員……殺しますけどね?」
殺意が込められたその声は今まで聞いたことがなかったため、少し驚いたが……。
「そ、そんなやつは別にいないと思うから、多分、大丈夫……だと……思うぞ……」
「ナオトさんのあの大会での戦いは全世界に放送されていましたから、きっとナオトさんは賞金首になっていると思います」
「まあ、普通はそうなるよな……」
「なので、ナオトさんはしばらくの間、変装して出かけた方がいいと思いますよ?」
「変……装?」
「はい、そうです」
「た、たしかに俺の今の姿なら多分、大丈夫なんだろうけど……」
「けど?」
「お、女の子の服なんて俺、持ってないよ」
「持ってたら、逆にびっくりしますよ」
「まあ、そうだよな。さすがに女装なんて……」
「大丈夫です。私が耳かきをしている間に他のみんながナオトさんのために服を作ってくれていますから」
「…………え?」
「私は白いワンピースを着たナオトさんが一番いいと思うんですけど、ナオトさんはどんな服を着たいですか?」
「お、おいおいおいおい、なんでそんなことになってるんだ? というか、俺はまだ女装するなんて一言も……」
その時、襖をゆっくりと開ける音が聞こえた。
「な、なあ、マナミ。俺たちの背後に立っているのは、いったい誰だ?」
「耳かきが終わったら、教えます」
「いや、せめてコユリがいるのかどうかだけでも教えてくれないか?」
「さ、さあ、どうでしょうね?」
「マナミ。耳かきはもういいから、早く俺を自由にしてくれないか?」
「ダメです」
「頼むよ! なんでも言うこと聞くから!」
「そうですか。じゃあ、耳かき続行しますね♪」
「はぁ……マナミはいつからドSになったんだ?」
「別に私はいつも通りですよ?」
「そ、そうかなー?」
五分後。耳かきが終わった瞬間、ナオトは何者かに後頭部を攻撃され、気を失った……。
*
____しばらく経って目を覚ましたナオトは、なぜか身動きが取れなかったが、目の前にあるスタンドミラーに白いワンピースを身に纏った自分の姿が映っているのに気づいた瞬間、驚きを露わにした。
「こ、これが……俺……なのか?」
「ええ、そうよ。あんたは今から『ナオミ』よ!」
「そ、その声は……!」
「さすがは、私の……私たちの未来の夫ね! あんたが察した通り、あたしは吸血鬼型モンスターチルドレン製造番号 一の『ミノリ』。又の名を『強欲の姫君』よ!」
そう言いながら、ナオトの右側にトコトコ歩いてきたミノリは彼の体をじーっと見始めた。
「な、なんだよ」
「んー? いやあ、女装したあんたもなかなか可愛いなーって、思っただけよ」
「ニヤニヤしながら言うな! 言っておくが俺にそんな趣味はないからな!」
「へえ、そうなんだー。じゃあ、あんたのアルバムから出てきた写真……見る?」
「何? いや……あれはたしか、お袋に預けたから、ここにはないはず……」
「何ブツブツ言ってるの? ほら、みんな! 例のやつ全部持ってきてー!」
『はーい!』
ミノリ(吸血鬼)の合図でぞろぞろと集まってきたみんなは、一人ずつ俺の前に写真を見せていった。
「や、やめろ……。俺の黒歴史を見せるな……。見せるなあああああああああああああ!!」
その時、誰かに殴られたかのような衝撃が体に走った。(触覚が麻痺しているはずなのに)
「さっさと起きなさいよ! バカナオトオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
その声が聞こえた直後、俺は勢いよく起き上がった。
「うわあああああああああああ!! ……って、あれ? 俺、いつから布団で寝てたんだ?」
「バカナオト! あんた、いつまで寝てんのよ!」
俺は腕を組んだ状態で仁王立ちしているミノリ(吸血鬼)が自分の真横に立っているのを確認すると。
「なあ、ミノリ。俺がいつから寝てたか分かるか? というか、今、何時だ?」
ミノリは瞬時に俺の目線まで屈むと、俺の額に自分の額を当てて、体温を測り始めた。
「うーん、熱はないみたいね……って、顔が真っ赤よ? あっ、もしかして……照れてるの?」
「そ、そんなわけないだろう! というか、今が何時なのか早く教えてくれ!」
「ふふふ、そういうとこ、すっごく可愛いわね。えーっと、ちょっと待ってね。うーんと、今は……午後四時三十分よ」
俺からスッと離れたミノリは、となりの部屋にある時計を見に行って帰ってくるとそう言った。
俺はそれを知った時、先ほどの出来事が全て夢だったことに気づいた。
「うそ……だろ。それは、本当か?」
「ええ、本当よ。なんなら、自分の目で確かめてみる?」
「……いや、いい。お前がそういう嘘をつかないことは、もう知ってるから」
「ふ、ふん! あんたにしては、よく分かってるじゃない。褒めてあげるわ!」
「ははは、そりゃどうも……。というか、もう『例の花畑』に着いたのか?」
ミノリは少し俯く。
「えーっと、実はね……」
「……ん?」
俺はミノリから聞かされた内容に疑問を抱いたが、今はそれを解決すべきだと思い、外に出ることにした。