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〇〇は『ケンカ戦国チャンピオンシップ』を観に行くそうです その15

黄色い無邪気な香雪蘭(イエロー・フリージア)


 前回、ナオトが新たに得た『第三形態』の力は暴走していた。

 黄色い鎧を身にまとっている彼のひとみは真紅に染まっており、口は竜のようなものになってしまっている。

 そんな状態で闘技場を雷の如く縦横無尽に走り回るナオトを『オメガ・レジェンド』は必死に追いかけ、攻撃していた。


「どうした! 少年! 君の力はそんなものか!!」


「ゔおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 エ○ァ初号機のような雄叫びをあげながら、彼に突進していったナオトはその勢いを逆に利用されてしまい、顔面を殴られてしまった。

 それでも、すぐに立ち上がるナオトからは獣としか言いようがない『おぞましさ』や『殺意』などが感じられた。


「少年よ、もうやめにしないか? 自我を失った状態では私に勝つことなど不可能だ。だから……」


「……あや……まれ」


「ん? なんだね?」


「モンスターチルドレン全員に……謝れ!!」


「……ほほう、まだ自我が残っていたのか。なかなかしぶといではないか。さすがは天使型モンスターチルドレンを圧倒した力の持ち主だ」


「お前は……絶対に……俺が……倒す!!」


「やれるものならな?」


「ゔおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 ナオトは再び彼に向かって突進した。

 なんの躊躇ためらいもなく、ただ一直線に。


「終わりだ! 少年!!」


 彼はナオトのその勢いを利用して、ナオトの攻撃をギリギリでかわすと、腹を拳で貫いた……。


「ゔおっ!?」


「もう楽になれ、少年。君はもう、戦えない」


 ナオトは一度、気を失いかけたが激しい『怒り』が彼に力を与えた。


「ふざ、けるな! 俺は、モンスターチルドレンのことを……化け物呼ばわりする、あんたのことを……許すことはできない!!」


「そうか……ならば、君を人類の敵と見なすほかあるまいな」


「せめて、腕の一本……道連れに……してや……」


「あの世で悔やむがいい。では、さらばだ」


 彼はナオトの腹を貫いていたこぶしを引き抜くと、その手で彼の心臓を貫いた。


「ゔああああああああああああああああああ!!!」


 ナオトの断末魔は会場全体に響き渡った……。

 会場全体が沈黙に包まれた直後、オメガはナオトの心臓を貫いた拳を引き抜こうとした。しかし……。


「ん? おかしいな。まったく、抜けな……」


 次の瞬間、オメガを襲ったのは今まで感じたことのない『激痛』であった。

 オメガの右拳はナオトの心臓に食い千切ちぎられ、元に戻すための材料にされてしまった。


「ぐっ!!」


 オメガは右手首を左手で押さえながら後退すると、ナオトの様子をうかがい始めた。


「俺は……お前を……絶対に……許さない!!」


「少年よ! 話を聞け! 今からでも遅くはない! 戦いをやめるんだ! でなければ、君は!」


「もう……遅い!! はあああああああああああああああああああああああああ!!!」


 ナオトの体は黒いまゆに包まれた。

 しばらくすると、そのまゆはポップコーンができる時のように弾け飛んだ。


「ヴオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」


 その中から現れたのは『体長三十メートルほどの黒いへび』のような生物だった。

 目と口の周りが朱色。俵のような胴体。頭と尾は細く、鋭く尖った鼻先が特徴的だった。

 それを見た観客たちは不安や恐怖を抱いていたが、はぐれモンスターチルドレン討伐隊司令である『オメガ・レジェンド』なら、なんとかしてくれると思った。しかし……。


「これ以上の戦闘は私の命に関わるな……。致し方ない、撤退する!!」


 彼はそう言うと、医務室へと走り始めた。


『えええええええええええええええええええ!!!』


 観客たちは予想外の展開に驚嘆すると同時に、会場から逃げ始めた。


「どこだ……オメガ・レジェンド!! お前は絶対に許さ……」


「いい加減、目を覚ましなさいよ! バカナオトおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


「ゔおおっ!?」


 会場に来ていたミノリ(吸血鬼)に顔面を殴られるとナオト(巨大な黒いヘビの形態)は横たわった。


「ミノリ、なぜ……俺の邪魔をする!」


 ミノリ(目の周りを仮面で隠している吸血鬼)は変わり果てた彼の姿を見ながら怒鳴った。


「あんたの心臓が蛇神じゃしん夏を語らざる存在(サクソモアイェプ)』の心臓だってことは、フィアと出会った時に知ったけど、その力を使ってまで、あのおじさんを倒そうだなんて考えないでよ!!」


 ※フィアとはミカエル、ラファエル、ガブリエル、ウリエルの遺伝子を融合させて誕生した、ナオトの守護天使である。


「だ、だけど、そうしないと……」


「ナオトは黙って、あたしの話を聞きなさい!!」


「は、はい。分かりました」


「なら、早く元に戻ってよ」


「それは……ちょっと」


「戻らないと、あんたの血を全部吸い尽くすわよ?」


「わ、分かりました! 今すぐ元に戻りますから勘弁してください!!」


「よろしい。なら、さっさと元に戻りなさい」


「は、はい」


 ナオトが「元に戻れー、元に戻れー」と心の中で数回言うと数秒後に元に戻った。

 つまり、身長『百三十センチ』の少年の姿に戻ったのである。


「ミノリー、元に戻ったぞー!」


 ナオトがそう言いながらミノリの方へ歩み寄ると、ミノリはナオトのほっぺたを全力で叩いた。


「な……何すんだよ! 痛いじゃないか!!」


 ナオトが左の頬を押さえながら、そう言うと。


「あんたはいつもそうよ! 一人で無茶して、頑張って、なんとかしようとして、しょい込んで、全部、自分でやろうとする。あんたは他人を頼ろうなんて、これっぽっちも考えようとしない、大バカ者よ!」


「ミノリ……俺は、ただ……」


「あんたの話なんて聞きたくない! これからは他人を頼るってちかってくれないと、あんたの話なんて聞かない!!」


「俺は……あのおっさんが、お前たち、モンスターチルドレンのことを化け物呼ばわりしたから……」


「あたしたちがどんなことを言われても、あんたがいなくなるよりかはマシよ!!」


「でも、俺はそれが許せなくて……」


「だからどうしたって言うのよ! あんたが暴走してまで戦うようなことは今までなかったから、てっきり今回もそうなるんだろうって思ってた。けど、あんたはそうしなかった! 怒りの感情に支配されて、まるで獣みたいに本能のおもむくままに暴れ狂って……」


「……ミノリ」


「あたしの名前を呼んでいい権利は、今のあんたにはない」


「……」


「あんたは、これからもずっと一人でなんとかするつもりなの?」


「…………」


「ナオト、あたしの質問に答えて」


「………………」


「答えなさいよ!!」


「……俺は、お前のことが好きだ」


「…………え?」


「いつも調子に乗ってるけど、いざという時には頼りなる、お前が好きだ」


「ナオト、いきなり何言って……」


「俺は高校時代の担任だった先生のことも好きだ。どうしても名前が思い出せないけど、その人は俺の全てを救ってくれた」


「あんた、頭がおかしくなったの?」


「だけど、俺は二人のことが同じくらい大好きだ」


「…………」


「俺が一人で全部やろうとするのは、昔からのくせだから直すのは難しい……。だけど、お前が俺から離れていってしまうのなら、俺はなんだってやってみせる。お前になら、全身の血を吸われてもいいし、体をバラバラに解剖されてもいい。……だから、そんなどうしようもないダメ人間の俺をどうか見捨てないでくれ。俺は、一人になるのが一番、怖いんだ」


「……だから何? あんたはこれからどうしたいの? あたしたちに何をしてほしいの? 具体的に言わないと、あんたはここであたしが殺すけど、あんたはそれでいいの?」


「……」


「ねえ、教えてよ、ナオト」


「…………」


「黙ってないで、なんとか言いなさいよ! この臆病者!! あたしたちの理想のマスターであり続けたいのなら、ここであんたの本音を言ってみなさいよ!」


「……俺は」


「俺は?」


「……俺は、みんなと、ずっと、一緒に、いたい」


「それから?」


「……これからは、他人を頼る」


「それから?」


「……俺を見捨てないで、ほしい」


「それから?」


「……これからも、よろしく、お願いします」


「言いたいことは、それだけ?」


「……えっ?」


「あんたが今、一番したいことは何?」


「そ、それは……」


「あたしたちは、家族なのよね?」


「義理……だけどな」


「義理だろうと、なんだろうとどうでもいいの。あたしたちは家族なのよね?」


「……うん」


「なら、遠慮する必要なんてない……そうでしょう?」


「……うん」


「じゃあ、あんたが今、一番、あたしにしてほしいことを言ってみなさい」


「……本当に、いいの?」


「もちろんよ」


「そ、それじゃあ……僕のこと、ギュッて抱きしめてくれる?」


「ええ、そのくらい、お安い御用よ」


「じ、じゃあ、行くよ?」


「ええ、いいわよ。ほら、おいでー」


 ナオトは『第三形態』になった副作用のせいで途中から『無邪気』になってしまっていたが、自分の本音をミノリに伝えることができた。

 ナオト(完全ショタ化)はミノリの腕の中に。


「ミノリお姉ちゃああああああん!! すっごくこわかったよおおおおおおおおおおおおお!!!」


 そう言いながら、飛び込んだ。


「よーしよし。もう大丈夫よー」


 ミノリ(身長『百三十三センチ』の吸血鬼)はそう言いながら、ナオトの頭を撫で始めた。


「さてと、それじゃあ今から、あんたを傷つけた『オメガ・レジェンド』おじさんをぶっ飛ばしに行きま」


 その時、ナオトの背中にどこからか飛んできた矢がブスリと刺さった。

 ※ナオトの体の中には『若葉色に染まりし洞窟』で手に入れた『エメラルド』の『安定』の力が常時発動しているため、出血しない。


「い、痛い! 痛いよおおおおおおおお!!」


「ナ、ナオト! くっ! いったいどこから……」


 ミノリ(吸血鬼)が辺りを見渡すと、なぜか右手が再生していた『オメガ・レジェンド』が弓を持っていた。

 ミノリは、その時の彼の表情を一生忘れないだろう。

 だって、化け物を打ち取った英雄であるかのような笑みを浮かべていたのだから……。


「ナオト、あたしはあいつをぶっ飛ばしてくるから、あんたはここで待ってて」


「ミノリお姉ちゃん、僕を置いていかないで! お願いだから、一人にしないで!!」


「ナオトー、ちょっとおとなしくしてー」


「あー、うん、分かった」


 ミノリ(吸血鬼)はナオトの背中に刺さった矢を引っこ抜くと、その傷口をふさぐために自分の親指の先端を噛んだ後、その血液をナオトの傷口に栓をするかのように固定した。

 ※ナオトの衣類は全て彼の母親が特殊な素材で作ってくれているため、ある程度なら再生する。


「これでよし。あたしの血であんたの傷口を埋めたから少しはマシになるわよ。でも、あたしはちょっと用があるから、ここで少し待っててね」


「……う、うん、分かった。僕、ここで待つことにするよ」


「あんたはいい子ね。それじゃあ、行ってきます」


「あっ、えーっと、き……気をつけてね」


「ありがとう。……それじゃあ、行きましょうか!」

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