〇〇は『ケンカ戦国チャンピオンシップ』を観に行くそうです その6
____三十分後。ついにその時はやってきた。
実況は引き続き、水色のショートヘアとテニスウェアのような服と水色の瞳がかわいらしい『トワイライト・アクセル』さんである。(マイクの代わりに風魔法の応用で周囲に声を伝える小さな黒い立方体を持っている)
その隣には、銀の鎧で武装している短めの黒髪と黒い髭と漆黒の瞳が特徴的な『はぐれモンスターチルドレン討伐隊』司令『オメガ・レジェンド』がいる。
『第一回 ケンカ戦国チャンピオンシップ』一回戦は予選で生き残った十六人のチーム戦だ。
とは言っても、十一対五という、あり得ない分け方だがな……。
まあ、それを提案した例の五人組はかなりの実力者だから、ハンデのつもりなんだろうが。
よし、それじゃあ、そろそろやりますか!
「それでは、一回戦スタートです!!」
トワイライトさんの声が聞こえた瞬間、【例の五人組】は合体した。
『これが、究極形態【完璧なる破壊者】だ!!』
前髪で紅い瞳を隠していた黒いやつの目が露わになったと思ったら、他の四人がそいつの体に吸い込まれたようにしか見えなかった、その形態は正直そんなに怖くなかった。しかし……。
『早く来ないと、全員ぶっ殺すぞー!』
彼らがそう言った瞬間、前に出たバカが七人もいた。
「今こそ!」
「俺たちの力を!」
「世に知らしめる時!」
「くらえ! バケモノ!」
「これが俺たち!」
「スキンヘッド兄弟の!」
「最強合体魔法だ!」
『くらえ! 邪を祓う七光!!』
一見、悪役にしか見えない七人兄弟は、彼らと同様に一つになると、虹色のエネルギー弾となって、彼らに突進していた。
しかし、一度に七人も倒せるという好機を彼らが逃すわけがなかった。
『吹っ飛べ! 破壊者の大いなる拳!!』
彼らの攻撃は合体した七人兄弟の攻撃の影響をものともせず、逆に彼らをどこかに吹っ飛ばしてしまった。
先ほどまで盛り上がっていた会場は見事に沈黙に包まれた。
グッバイ、ブラザー。お前たちの努力は無駄にしないぜ……。
さて、一気に七人も倒されてしまったわけだが、こちらの戦力はあと、どれくらい残ってるのかな?
俺がふと、ブラスト以外に残っている人物がいないか探すと、成人男性を二人見つけた。一人は髪と目が黒い正義の味方風の男性。
黒い鎧と剣に血液が流れているかのようなデザインが施された『黒い剣』が特徴的だ。
もう一人は逆立った赤髪と金色の瞳が特徴的な男性。
こちらは白い鎧と白い大槌が特徴的だ。
顔は悪役というより、戦うことにしか興味がないような人物に見えた。
前者は、いざという時に死にそうだし、後者はちょっとしたミスで死にそうだ。
はぁ、仕方ない。俺が行くか……。
俺は勝手に自己完結すると、合体した『少年五人』の方に歩き出した。
その直後、久しぶりに『黒影を操る狼』が俺の足元の影から現れたかと思うと俺の行く手を阻んだ。
「よう、ウーちゃん。久しぶり。悪いが今はお前に構っねいられないんだ。用があるなら、あとにしてくれ」
ウーちゃんは(シズクというドッペルゲンガーが名付けた)真剣な眼差しで、こう言った。
「……我が主よ、我を武器にして戦うといいぞ」
「えっ? お前って、武器になれるのか?」
「いつも主の影の中にいられる我のことを不思議に思ったことはないか?」
「……なるほど、そういうことか。よし、それじゃあ『黒い剣』になってくれないか?」
「……承知した」
ウーちゃんは『黒い剣』へと姿を変えると、俺の右手に収まった。
おっ、ちょうどいい重さだな。よし、これならやれそうだ!
俺がブラストに、そこの二人と一緒に安全な場所まで避難しろ、と目で合図すると、ブラストは俺の合図に気づいた。
その後、例の二人と共に比較的安全な場所へと移動した。(つまり、隅の方)
よし、これでやっとまともに戦えるな。
俺は、真顔でこちらを見つめる『合体して一人になった少年五人』の近くに行くと、こう言った。
「なぁ、お前ら。俺のこと……いや、俺が今から見せる力を見て、何か思うことがあったら遠慮なく言ってくれないか?」
『はぁ? それに応える義務は俺たちにはないし、お前ごときに指図される筋合いもない!』
「そうかよ。じゃあ、質問を変えよう。なあ、お前らって……伝説の『五帝龍』だったりするのか?」
こ、このガキ! 俺たちの正体に気づいていやがるのか!
いや、まだ断言できないな。もう少し泳がせておこう。
「おーい、聞いてるかー?」
『ああ、聞いているとも。まったく、何を言い出すかと思えば、俺たちが伝説の『五帝龍』だと? いったい何を根拠にそう思ったのか、俺たちには見当もつかないな』
「根拠なら、あるぞ」
『なに?』
「俺の考えはこうだ。お前たちは『純潔の救世主』に敗れたせいで、力を失い、洞窟か、どこかでじっと身を潜めていた。んで、最近になってお前たちの誰かが外に出ようとか言い出して、なんとか人間に悪影響を及ぼさないために変身したのが……その姿ってわけだ」
『なぜ、そこまで断言できる?』
「なんでって、そうじゃないとつじつまが合わないだろう? 俺とブラストがエントリーする時、係員さんから、お前らが大人百人を倒したと聞いた時から俺にはお前たちが伝説の『五帝龍』なんじゃないかって思ってたからな」
『何? たったそれだけの情報で、俺たちを『五帝龍』だと思ったのか?』
「だって、そうじゃないと、お前らのその圧倒的な力を説明できないだろう?」
『……なるほどな。人間もまだまだ捨てたものではないということか。じゃあ見せてみろよ。お前の力を』
「それは別にいいけど、俺の力を見た時、きっとお前らはこう言うぞ。『その力は……その力はああああああああ!』ってな」
『俺たちがそんなセリフを言うわけないだろ。バカにするのも大概にしろ』
「俺は別にバカにしているつもりはないんだが……まあ、いいか。それじゃあ、行くぞ」
な、なんだ、このガキから漂うオーラは! こいつ、まさか!
ナオト(ショタ状態)は沈黙に包まれている会場の雰囲気を全く気にせず、ゆっくりと深呼吸した後、合体して一人になった彼らに向かって、こう叫んだ。
「『大罪の力を封印する鎖……紫水晶の形態』!!」
その直後、ナオトは白き光に包まれ、髪は黒から白に、瞳は黒から赤に変化した。
それと同時に彼の全身を『紫水晶の重鎧』が覆った。
そして、白き光が紫に変化した時、背中から十本の紫の鎖が飛び出した。
先ほどまで赤だった瞳はいつのまにか金色に変わっている。
変身後、彼は彼らの方を見ながら「かかって来いよ、五帝龍」と言った。
その時、彼らは思い出した。
かつて、この世界にやってきた自分たちの父親である【帝龍王 エンペラードラゴン】が【二十八の誕生石】のうち【二十七の誕生石】をその身に宿した【誕生石使い】に追い払われてしまった話を……。
そして、その誕生石使いでさえ、使わなかったという【紫水晶】が存在することを……。
その力に出会えた嬉しさと憎しみで彼らは自我を失っていた。
そして、ナオトが予言した通り、彼らはこう言いながら、彼に襲いかかった。
『その力は……その力はああああああああ!』
「さぁて、始めようか!」
ナオトは大地をしっかり踏みしめると、前に勢いよく進み始めた。
こうして、ショタ状態のナオト対ショタ状態の五帝龍との戦いが幕を開けたのであった。