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〇〇の本性? その12

 午前(れい)時。

 俺は、残りのモンスターチルドレンの願いをかなえるために、寝室に向かった。(下記の七人分の願いは叶えてやった)


 ミノリ(吸血鬼)


 マナミ(茶髪ショートの獣人ネコ


 シオリ(白髪ロングの獣人ネコ


 ツキネ(変身型スライム)


 コユリ(本物の天使)


 チエミ(体長十五センチほどの妖精)


 カオリ(ゾンビ)


 えーっと、十人中、七人の願いを叶えてやったから、あと三人か。

 俺が、そんなことを考えながら寝室に向かっていると、どこからともなく出現したドッペルゲンガー型モンスターチルドレン製造番号(ナンバー) 一の『シズク』が俺の背中にしがみついた。


「ナオトー! 遊んでー!」


「……うおっ! お、お前、いつから俺のかげかくれてたんだ?」


「えっとねー、ナオトがお風呂場ふろばから出てきた時からだよー」


「そうなのか? 正直、まったく気づかなかったぞ」


「私、ドッペルゲンガーだもん。他人のかげに入るのなんて、朝飯前だよー」


「そうか、そうか。それで、シズクは俺に何をしてほしいんだ? ……って、お前も目の色が変わってないな。どういうことだ?」


 モンスターチルドレンは毎月十五日の午後九時から翌日の午前三時までの間『心の暴走』状態になる。

 この時、彼女たちの心のうちにまっていた感情があふれ出すそうだ。

 要するに、マスターに自分の本当の気持ちをぶつけられることのできる特別な時間なのだ。

 その特徴としては、目の色が赤、青、緑、黄、黒の五色で分割された色になる。

 しかし、妖精型モンスターチルドレンや最近まで、この世界を放浪ほうろうしていたものにはその現象は起こっていなかった。


「うーん、たぶん、私はもう満足してるんだと思うよ」


「え? そうなのか?」


「うん、そうだよ!」


「そうか。なら、いいのだが」


「ねえ、ナオト」


「ん? なんだ?」


「私のこと、好き?」


「おいおい、いきなりどうしたんだ?」


「いいから、答えて」


「あー、まあ、その……家族としてなら、好き……かな」


「それって、私の恋人にはなりたくないってこと?」


「まあ、今のところは……な」


「そっか。今のままじゃ、ダメなんだ」


「ん? 今なんか言ったか?」


「ううん、なんでもないよ。ねえ、ナオト。今から私と遊ぼうよ」


「ん? ああ、いいぞ」


「やったあ! ナオトと遊べるー! 嬉しいなー!」


「はははは、今日はよくしゃべるな」


「だってー! 今は私がナオトを独占しても誰も邪魔できないし、怒れないんだよ? うれしくないわけないじゃない!」


「そうか。まあ、理由はともかく、何して遊ぶんだ?」


「それはもう決めてあるよ! あっちに進んでー!」


 俺はシズク(ドッペルゲンガー)が指差した方を向いて。


「えーっと、お茶の間に行けばいいのか?」


「うん! そうだよ! 早く早くー!」


「はいはい、分かったよ」


 こうした二人は、お茶の間へと向かったのであった。


 *


「シズク、これはいったい」


「え? おままごとだよ?」


「いや、でも、これは」


「ナオトは、私の旦那だんな様で、私がナオトのお嫁さんだよ」


「いや、でも、服まで変えることはないだろう」


「ムードを作るためだから仕方ないよ。それに服はかげに絵具を塗っただけだから洗濯しなくていいんだよー。それじゃあ、始まりー、始まりー」


「……何か始まった」


「第一回『私とナオトのおままごと』!」


「いやな予感しかしないな」


「じゃあ、ナオトは仕事帰りのサラリーマンね」


「あ、ああ」


「ドアを開けて家に帰ってくるところから始まるよ」


「展開が読めた気がする」


「いいから早くやって!」


「……はいはい。ガチャ、ただいまー、今帰ったぞー」


「おかえりなさい! あなた!」


「おう、ただいま」


「え、えーっと、ごはんにする? お風呂にする? そ、それとも、わ、わた、わた……」


「お前が照れてどうするんだよ」


「だ、だってー! いざやってみると、恥ずかしいんだもん!」


「あー、その……スク水の上にピンクのエプロンを着るのは、前に見た時にバシッ! ときたから大丈夫だ。だから、その……自信を持っていいぞ、シズク」


「え? 私、褒められた? ねえ、今のって、褒め言葉なの?」


「ん? ま、まあ、そんな感じかな」


「本当? うそじゃない?」


「ああ、うそじゃないよ」


「本当? じゃあ、私の眼帯の下にあるものを見ても、そんなことが言える?」


 ※シズク(ドッペルゲンガー)は、左目を黒い眼帯でかくしています。


「え? いいのか? 見ても」


「う、うん、大丈夫。ナオトになら見られてもいい」


「言い方がアレだが……まあ、どっちかって言うと見たい……かな」


「……分かった。じゃあ、はずすね」


「お、おう」


 シズクの眼帯の下に何があるのかは、分からない。魔王の力が封印されているとかだったら、結構やばい気がするが。

 まあ、大丈夫だろ。きっと、多分。

 俺はシズクの眼帯がポロリとゆかに落ちた瞬間しゅんかん、それを見てしまった。


「……シズク……お、お前」


「びっくりした?」


 シズクの右目は紫色だが、左目は水色であった。

 そして一瞬いっしゅんだけ、その目の中で巨大なヘビのようなものが動いた気がした。

 俺は、その生物に見覚えがあった。


「ま、まさか……! あ、ありえない! なんで!」


「信じられないかもしれないけど、これが真実。私はモンスターチルドレンになった直後から、この目の力に覚醒めざめたんだよ」


「シズク。お前は、それがどれだけ危険なものか分かってるのか?」


「……もちろん分かってるよ。これは、私の目じゃないし、魔王や神の目でもない。これは『嫉妬しっとの姫君』である私の運命……なんだと思う」


「たしか、嫉妬しっとの魔王『レヴィアタン』はどんな悪魔(ばら)いも通用しないと恐れられていたな。そして、そいつと同一視されていたのが」


「そう、この目は中世からその『レヴィアタン』と同一視され始めた、神が創造せし、大海獣『リヴァイアサン』の左目だよ」


「『リヴァイアサン』はそのかたうろこと巨大さから、いかなる武器も通用しない最強の存在として恐れられていた。けど、たしかやつは」


「そう、ベヒモスとジズと共にきょうされたはずだった……けど」


「片目だけ食われていなかったってことか?」


「ううん、正しくはたましいだけ生きていたんだよ。そうじゃなかったら、私の目はこんなにうずいてないよ」


「じゃあ、お前の本当の目は……」


「たぶんだけど『リヴァイアサン』に食べられちゃったんだと思う」


「……シズク。俺はあえてお前にたずねるが、どうして俺なんかにそんなことを教えたんだ?」


「そんなの……ナオトのことが一番信用できるからだよ」


「いや、問題はそれだ」


「えっ? どういうこと?」


「俺が今まで出会ったモンスターチルドレンたちは、みな何かしらの過去や大罪になやまされていた。だが、なぜかみな、俺に好意をいだいている。そうだな?」


「そうだけど。それがどうかしたの?」


「どう考えてもおかしいんだよ。俺のことをこれっぽっちも知らなかったやつらが俺に会うことで改心したり、大人しくなったりすることが」


「そうかな? 私には、よくわかんないけど、この気持ちは本物だよ。だれかにあやつられているわけじゃないと思う」


「いや、もっとこう、魔法レベルじゃないような力が働いている気がするんだ」


「ナオト、この話は保留ほりゅうにしようよ。ね?」


「いや、そうは言ってもな」


「ナオトは、今話している内容と私と遊ぶのと、どっちが大事?」


「そりゃあ……シズクとあそ……」


「ナオト、うそは良くないよ。本当のことを言って」


「いや、だから、シズクと遊ぶ方が大事だって言って……」


うそつきには……しかるべきばつを……与えないといけないね。ふふふふふ」


「お、おい、待て! シズク! 俺は!」


「ナオト、お願いだから、動かないでね?」


「お、おい、シズク。俺に何をする気だ! こ、こっちに来るな!」


 俺は、しりもちをついてしまったせいか、こしけてしまった。

 ジリジリと近づいてくるシズク(ドッペルゲンガー)からは、もうげることはできなかった。


「私と一緒にあの世でしあわせにらそうねえええええええ!!」


「うわああああああああああああああああああ!!」


 俺は、その時、たしかに死んだはずだった。


「ナオト、大丈夫?」


 先ほど俺を殺したはずのシズク(ドッペルゲンガー)の声が聞こえたことに驚きつつ、俺はそっと目を開けた。

 するとそこには心配そうに、こちらの顔をのぞんでいるシズクの姿すがたがあった。

 あれは夢だったのだろうか? 俺は、ゆっくりと起き上がると、シズクにこう言った。


「シズク、俺はどのくらいてた?」


「えーっと、たぶん五分くらいだよ」


「そうか」


「え、えーっと、その、ごめんなさい! ナオト!」


「ん? 急にどうしたんだ? シズク」


「だって! 私が無意識に『目の力』を使っちゃったせいで、ナオトは意識をうしなっちゃったんだよ! あやまるのは当然だよ!」


「そうか。途中までは夢じゃなかったんだな」


「え? なんの話?」


「いや、こっちの話だ。それで、その目の力っていうのは、どんなものなんだ?」


「え、あ、うん。えっと『リヴァイアサンの左目』には相手に『恐怖きょうふと死』のどちらか、もしくはその両方を相手に体験させることができるよ」


「そうか、そういうことだったか。なるほどな」


「さっきから何をブツブツ言ってるの? 大丈夫?」


「大丈夫だ、問題ない。それより、シズク。遊びの続き、しなくていいのか?」


「えっ? まだやってくれるの?」


「お前が満足しなきゃ意味ないからな」


 シズク(ドッペルゲンガー)は、とびきりの笑顔でこう言った。


「ありがとう! ナオト! 大好きー!」


「うおっ! おいおい、いきなり抱きつくなよ」


「ほっぺすりすりー。んふふー、しあわせー」


「ったく、お前ってやつは」


 こうして、俺はシズクが満足するまで『おままごと』に付き合うことになった。

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