〇〇の本性? その11
さてと、俺は俺のすべきことをするとしようか。そう思った直後。
「よう、マスター。やっと私の番みたいだな」
背後から声がした。俺がそちらを向くと、そこにはゾンビ型モンスターチルドレン製造番号 一の『カオリ』が立っていた。
「あ、ああ、そうだ。次はお前の番だぞ……って、目の色が変わってないな」
「ん? ああ、そうだな。あたしは、ここに来る前はこの世界をぶらぶらしてたから、その影響かもしれねえな」
「そっか。なら、何もしなくてもだいじょう……」
「おい、マスター。あたしがこのまま何も頼まないとでも思ってたのか?」
「え、えーっと、それは、つまり」
「あ、あたしもマスターに何かしてほしいな……なんて」
いつも不良っぽい口調で話してくるカオリ(ゾンビ)が頬を真っ赤にした状態で、こちらをちらちらと見てくる。
やっぱりカオリも女の子なんだなと思った瞬間であった。
「それで? カオリは俺に何をしてほしいんだ?」
「え? あー、えーっと、そうだな……」
「何にするのか迷っているのなら、待つぞ?」
「い、いや! そんなことはない! あっ、そうだ。なあ、マスター。あたしと戦ってくれないか?」
「戦う? 俺と?」
「ああ、そうだ! 今のままじゃ、あたしはこの先足手まといになるから……」
「そうか? 今のままでも、かなり強いと思うが……」
「いや、あたしはもっともっと強くならないといけないんだ!!」
「それは、お前が『憤怒の姫君』だからか?」
「それもある……けど」
「けど?」
「あたしは、マスターにふさわしい存在になりたいんだ……」
「……そうか。うーん、まあ、お前がそこまで言うのなら」
「いいのか!」
「うおっ! お、おい、いきなり顔を近づけるなよ」
「あっ! す、すまねえ、つい」
「いや、今のは別にお前は悪くない。俺がびっくりしただけだから。えーっと、それで? 俺は何をすればいいんだ?」
「え? あー、そうだな。じゃあ、とりあえず外に出ようぜ」
「そうか。よし、分かった」
彼がそう言うと、二人は外に出た。
「それで? 俺は何をすればいいんだ?」
俺たちが向かい合って立っている草原からは気持ちの良い夜風と月明かりによって普段とはまた違った風情を感じられた。
「マスターは、鎖を全部出して、あたしの攻撃を防いでくれ!」
「え? それだけでいいのか?」
「マスターのその力は、大罪の力を封印できちまう、いわば、あたしを含む『大罪の力を持つ者』にとっての天敵だ。そんなマスターが相手なら、あたしも進化できるってもんだぜ!」
「そうか。なら、いいのだが」
「よし、決まりだな! それじゃあ、行くぜ! マスター!」
「えっ? もうやるのか? 準備運動とかは……」
「いらねえ!」
「勝敗の基準は?」
「どちらかが疲れ果てるまでだ!」
「俺は動いてもいいのか?」
「ああ! いいぜ!」
「そっか。なら……やるか」
俺は、服を破らないように鎖を出す場所を自分で決めてから、こう叫んだ。
「『大罪の力を封印する鎖』!!」
銀色の十本の鎖が腰の辺りから出現したかと思うと、彼の目は赤く染まり、髪は黒から白に変化した。
少しの間、白いオーラが彼を包み込んでいたが変身が終わると同時に、ふっと消えた。
この力は魔法もスマートフォンもスキルも使えない彼の唯一の武器であり、相棒でもある。
「へ、へへ、やっぱすげえよ、ミカ……じゃなくて、マスターは」
鉄○のオ○フェンズを知ってるのか……。
「それじゃあ、行くぜ! マスター!」
「ああ、お手柔らかに頼む」
カオリ(ゾンビ)は両拳を地面に叩きつけると、こう叫んだ。
「固有武装『火山の力を司りし手甲』!!」
その後、カオリの両肘の手前までマグマのようなものが這い上がってきた。
彼女は何かを持って戦うより、自分の拳で戦う方がしっくりくるらしいので固有武装は『手甲』なのである。
「さあてと、やるか! マスター!」
「全力でかかってこい。ただし、無茶はするなよ?」
「へへ、忠告、ありがと……よ!」
カオリは、ありがと……を言う時、大地を踏みしめ、よ! で走り出した。
「えーっと……鎖よ! 目前の敵の攻撃を防げ!」
「防げるもんなら、防いでみやがれええええええええ!!」
カオリの一撃が俺に直撃する寸前で、一本の鎖がカオリの攻撃を受け止めたかと思うと、次は二本の鎖が彼女の脇の下と、おヘソがある部分に巻きついて、そのまま空中に放り投げた。
「くそ! まだだあああああああああああああ!!」
カオリ(ゾンビ)は、片方の手甲に魔力を集中させて、火炎弾を放った。
「へえー、あんなこともできるのか。すごいな」
俺は、そう言いながら鎖を操作した。
「あらよっと! ホームラーーーーーーーン!!」
俺は火炎弾を十本の鎖で縛ると、そのまま遥か彼方に投げ飛ばした。
その直後、カオリは着地と同時にこちらに向かって全速力で走り始めた。
「これでも、くらえええええええええええええ!!」
そう言いながら、片方の拳に魔力を集中させている。
なるほど、先ほどの火炎弾を俺に直接ぶつけるつもりだな。よおし、それなら、こっちにも考えがあるぞ。
俺は瞬時に思いついた秘策を試してみることにした。
「あっ! カオリ! お前の後ろに……」
「その手は通じねえぞおおおおおおお!!」
俺めがけて突進してくるカオリを見て気づいたことは、俺の話を最後まで聞く気がないことであった。
しかし、それでも俺は自分の秘策を信じ、実行し続けることにした。
「……お前の後ろに、なぜか全ての『ガ○ダム・フレーム』が集結してるぞおおおおおおお!!」
俺がそう言うと、カオリ(ゾンビ)は。
「なにい!? どこだああああああああああ!!」
急ブレーキをかけながら、自分の背後を見た。
だが、そこには何もなかった。
そして、カオリが我に帰った頃には、もう戦闘は終わっていた。
「ほい、隙あり」
「あいてっ!」
俺は鎖を全て体の中にしまった状態で、カオリの頭にチョップをした。
「くそ! あたしの負けだ! 好きにしやがれ!」
「どうしてそうなるんだよ。まったく、お前ってやつは」
「な、なんだよ! あたしは負けたんだから、何か命令しろよ!」
「誰から教わったんだよ、そんなこと……まあ、いいか。じゃあ、ちょっと失礼してっと」
俺はカオリ(ゾンビ)を『お姫様抱っこ』した。
「な……! マ、マスター! 恥ずかしいから、やめてくれよ!」
「何言ってんだ、お前と初めて会った時にもやったんだから、もう慣れただろ?」
「あ、あの時とは状況が違うだろ! それに……」
「それに?」
「大好きな人にこんなことされたら、ダメになっちまうだろうが……」
「……え、えーっと、それじゃあ、帰るか」
話を晒しやがった……。
「おい、待てよ、マスター。上までどうやって上がる気だ?」
「え? あー、それなら、大丈夫だ。チエミの加護があるからな」
※チエミとは体長十五センチほどの妖精のことである。
「え? じゃあ、なんでさっきは、あたしに……」
「そりゃあ、カオリにそうしてもらいたかったからだよ。イヤだったか?」
「そ、そうかよ。まあ、そういうことにしといてやるよ」
マスターがあたしを頼ってくれた! やっほーい!
「よし、それじゃあ、帰るか」
「ああ、よろしく頼むぜ! マスター!」
「おう、任せとけ」
こうして、アパートに戻った俺たちは、それぞれの役目(俺は残りのモンスターチルドレンの相手をすること、カオリは寝ること)を果たすことにした。