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〇〇は『ハーフエルフの村』に行くそうです その1

 俺たちがアパートに戻ると、ミノリ(吸血鬼)たちは晩ごはんの準備をしていた。だが……。


「みんなー、ただい……」


『おかえりなさーーい!!』


「うわあああああ!!」


 俺は帰って早々、留守番組に押したおされてしまった。


「いてててて……おい、お前ら……とりあえず退いてくれ」


「えっ? いてほしいの?」


 ミノリ(吸血鬼)がそう言ったのに対し、俺は。


「違う! 俺からはなれてくれって意味だ。分かったのなら、早くはなれろ」


『ご、ごめんなさい』


 みんなは、そう言って俺から離れた。俺は息をととのえながら、立ち上がった。


「はぁ……はぁ……まったく、お前らはもっと普通の出迎でむかえはできないのか? というか、お客さんが来た時に、今みたいなことはするなよ?」


 その時、ミノリは留守番組を代表して、こうこたえた。


「あんなこと、あんた以外にするわけないじゃない」


「はぁ? じゃあ、どうして俺だけに、あんなことするんだ?」


「そ、それは……その……み、みんな、あんたのことが好きだからよ」


 その時、留守番組の頬が赤くなったため、俺はそこでようやく気づいた。


「そうか、俺たちが無事に帰ってこられたから安心して、ついやってしまったんだな。すまないな、心配させて」


 ミノリ(吸血鬼)たちはニッコリ笑って。


「ううん、あんたたちが無事で何よりよ。おかえり、みんな」


『えっと、た、ただいま』


 ミノリのそんな言葉を聞いて、俺たち探索たんさく組は照れくさそうに、そう言った。


「……ところで、なんか一人増えてるように見えるのは、あたしの目が悪いせいかしら?」


 そう言うミノリの顔は笑っていたが、おこる一歩手前の顔であった。

 俺は、探索たんさく組を代表して彼女を紹介した。


「え、えっと、彼女の名前は『メルク・パラソル』。ハーフエルフ族の成人女性で、俺たちが洞窟どうくつ探索たんさくしている最中に出会った。あっ、ちなみに彼女には名前がなかったから俺が付けてやったぞ」


「はじめまして。メルク・パラソルといいます。以後、お見知り置きを」


 メルク(ハーフエルフ)がそう言いながら、お辞儀じぎをすると、ミノリ(吸血鬼)は。


「へえ、あんたが考えてあげたんだー。ふーん、そうなのー。あたしたちに魅力みりょくがないからって年上に手を出すとはねー」


 俺はミノリの誤解ごかいを解くために、必死に説明した。


「ご、誤解ごかいだ! ミノリ! これには、わけがあってだな」


「うん! 知ってた! いただきまーす!」


「えっ? いきなり何を!?」


「カプッ! チューーーー!」


 ミノリは、ニコッと笑うと、俺に抱きつき、首筋にみついた。


「う……! ミノリ……! やめ……!」


「ぷはっ! あー、おいしかった。挨拶あいさつがわりに血を吸われる気分はどう? ナオト」


「いや、その……急に血を吸われたせいで、頭がクラクラする」


「大丈夫! 今日は『ライチーター』で『にゃんカツ』を作る予定だから血液は十分に確保できるわ!」


「そ、そっか、なら、説明はマナミに任そう。マナミ、あとはたのんだぞ」


「は、はい! ナオトさんの代理役として、留守番組のみなさんに洞窟どうくつでの出来事を全て話します! だから、今は安心して休んでください!」


「ああ、そうさせてもらうよ。ミノリ……というか、何人かで俺にかたを貸してくれないか? まともに歩けないから……」


 俺がそう言うと留守番組の一人、コユリ(本物の天使)と探索たんさく組のマナミ(茶髪ショートの獣人ネコ)とメルク(ハーフエルフ)を残して、他のメンバーは俺に付きいながら、俺の部屋に入っていった。

 ____二十分後。コユリ(本物の天使)主催しゅさいの作戦会議がおこなわれた。(『ヤ○マ作戦』ではないが、アニメ化されたら、例のBGMに近いものを流してほしいな。……『陽電子砲』狙撃準備。第一次接続開始)


「では『ハーフエルフの村を救おう!』作戦の概要がいようを伝えます。なお、マスターは、どこかのバカな吸血鬼がつい勢いで血を吸ってしまったせいで軽い貧血になり、今はお休みになられていますので今回の作戦会議には参加できません。では、本題に入ります。マナミさん、よろしくお願いします」


 ちゃぶ台の周りにナオト以外のメンバーが座って、会議をしている。


「は、はい! えっと、今回は『若葉色に染まりし洞窟』の地下にあるメルクさんの故郷ふるさと『ハーフエルフの村』のピンチを救うための作戦です。ぐ、具体的には、ナオトさんが【エメライオン】との戦いの末、手に入れた【誕生日】の一つ【エメラルド】の力を使って問題を解決する予定です。えっと、その問題についてはですね……」


 マナミ(茶髪ショートの獣人ネコ)がそう言いかけた時、コユリ(本物の天使)がマナミに、もう十分です。あとは、私に任せなさいと言わんばかりに手の平をマナミに向けて、マナミの説明を中断させた。


「村の問題については、現地に行ってみれば分かるそうなので、今は言いません。ですが、今回は決して生きて帰れる保証はありません。それに、村が地下にあるため、戦闘せんとうになった時には各自の判断に任せることになります。これらを吟味ぎんみしたうえで、私はこの作戦に参加させるメンバーを選びました。今からそのメンバーを言いますが、辞退じたいの場はここしかありませんので、注意してください。では、心して聞いてください」


 数秒の沈黙ちんもくあと、コユリ(本物の天使)はゆっくりと言い始めた。


「まず、不本意ですが、バカな吸血鬼さんです」


「バカは余計よ! それと、ちゃんと名前で呼びなさいよ!」


 ミノリ(吸血鬼)がそう言ったが、コユリ(本物の天使)はめ息をきながら。


「……はぁ……。ではミノリさん。よろしくお願いします」


「ねえ、銀髪天使。私を選んだ理由は何なの?」


「吸血鬼にとってやみは戦いやすい環境ですし、あなたは固有武装も使えますから、戦力としては申し分ないと思ったからです」


「そう、よく分かったわ。ありがとう」


「どういたしまして……チョロい」


「今なんか言った?」


「いいえ、何でもありません」


「……あっ、そう」


「では、次に行きます」


 再び、数秒間の沈黙ちんもくが流れたのち。


「次は、シズクさんです」


「えっ? どうして私なの?」


「それはですね。私とマスターが初めて会った時に、人の影に隠れていたのを思い出したからです」


「あっ、そうか! いざという時は私が奇襲きしゅう仕掛しかけるんだね!」


「その通りです。ですからドッペルゲンガーである、あなたの力を存分ぞんぶん発揮はっきしてくださいね?」


「うん! 分かった! 私、がんばる!!」


 その直後、シズク(左目を黒い眼帯で隠しているドッペルゲンガー)は、アンテナのようなアホ毛をピヨン、ピヨンと動かして、うれしさでいっぱいだということをみなに示した。


「では、最後の一人です。私も同行しますが、私はあくまでマスターを無事、『ハーフエルフの村』に辿たどり着かせるための補助メンバーなので極力、戦闘は行いません。ですが……」


 その時、その場の空気がコユリ(本物の天使)の威圧によって、おそろしいものになった。


「ですが、もし、マスターを手にかけようなどというおろものがいた場合、私は真っ先にそれを排除します。そして、それが二度とマスターに近づかないようにするためなら、あらゆる手段を使います。たとえそれが、私の命をけずることになるとしても……!」


『………………』


 その場にいる全員が、今のコユリ(本物の天使)を止められるのは、ナオトしかいないと思った。

 それと同時に彼女のナオトに対する忠誠心はすばらしいと思った。


「コホン。では、最後の一人を発表します」


 その時、その場にいる全員が、生唾なまつばを飲んでしまった。

 それは、ナオトと一緒に行けるという期待と行きたくないという願望を意味するものだった。

 だが、コユリ(本物の天使)は、それを無視して、ゆっくりと口を開いた。


「最後の一人は……」


『………………!!』


「……名取様です」


『……えっ? 名取さん?』


 その場にいるコユリ以外のメンバーがそう言った。


「どうして……俺なんだ?」


 今まで存在感がまったくなかった名取は、そう言った。(彼の名前は、名取なとり 一樹いつき。ナオトの高校時代の同級生で名取式剣術の使い手。名刀【銀狼ぎんろう】を所持しているが、両目は前髪で隠している。つまり意外と人見知りな性格なのである。だが、武器のことになるとよく話す。今はナオトたちの旅に同行している)


「それはですね。この場にいる私たちの中で、名取さんが一番、戦闘経験がありそうだからです」


 そう言うコユリ(本物の天使)に対し、名取は。


「俺は……仕事だから仕方なくやってきただけだ。それに俺は……集団で戦うのは苦手だ」


「今回は、集団戦闘をしに行くのではありません。それに仮にも、これから行くメンバーは私を含めて固有武装を持っています。ですので、私と同レベル、つまり天使型モンスターチルドレンかそれ以上の存在と出会わない限りは負けません。ですが、必ずしもそうとは限りません。そこであなたにはサポートをお願いしたいのです。もちろんマスターの護衛ごえいもこれに含みます。どうでしょうか?」


「……分かった。もちろん、俺でよければの話だが」


「助かります。では、よろしくお願いします」


「了解した。やるからには全力ベストくそう」


「はい、お願いします」


 コユリ(本物の天使)は、スッと立ち上がると全員にこう言った。


「毎月十五日は満月にして、私たちモンスターチルドレンにとっては【暴走する日】と呼ばれる日。これが何を意味するかは言いません……。ですが! 日没にちぼつまでにこのアパートに全員で戻り! おいしい『にゃんカツ』を全員でしょくすまでが作戦だと思っています! これに賛同するものこぶしを天に突き上げて高らかにえなさい! この作戦が成功することを願って!!」


 コユリは大きく息を吸い、こぶしを突き上げると、こう言った。


「ウラアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 その場にいるコユリ以外のメンバーが顔を見合わせると、一斉にこぶしを突き上げて。


『ウラアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』


 部屋全体にひびき渡るようにそう言った。

 その後、その動作をやめると、全員でこう言った。


『【作戦を直ちに開始する(ミッション・スタート)】オオオオオオオオオオオオオオオ!!』


 四月十五日、午後十五時十五分。作戦名コードネーム【ハーフエルフの村を救おう!】始動……。

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