〇〇は『若葉色に染まりし洞窟』に行く? その5
えー、俺が今、どんな状況かというと……。
「我はお前の体に宿る、その力を我の体の一部にして、この世界の王になる! その野望を叶えるためには、お前が邪魔だ! さっさとくたばるがいい!!」
「お前みたいなやつに、この力を渡すわけねえだろ!」
洞窟の主である【エメライオン】(体長十メートルほどの獅子)と戦っています。
「なあ、『力の中心』! 第二形態になるにはどうしたらいいんだ! 俺の体力が尽きる前に教えてくれ!」
俺は『大罪の力を封印する鎖』という十本の鎖を背中から出して戦っている最中に、俺の体の中にいる【誕生石】の一つ【アメシスト・ドレッドノート】にそんなことを訊いた。
ちなみにこの時、俺の目は黒から赤に、髪の色は黒から白に変わっている。そして、俺の鎖はもともと彼のものである。
「我が主の願いは理解した。しかし、第二形態になれるかは……」
「俺次第ってことか? 定番だな、おい」
俺は【エメライオン】の攻撃を回避しながら、そう言った。それに対して、彼は。
「第二形態になるということは、人ならざる者への階段を上がるということだ。我の力を先代の誕生石使いが使わなかったのは、それだ」
「へえ、それは……すごいな」
注:これからのナオトのセリフの『……』は【エメライオン】の攻撃を回避している時です。
「だが、それ故に強力な力を手に入れることができる」
「『紫水晶の形態』と比べて、体の負担は……大きいのか?」
「いや、あれとは根本的に違う。あれは最終形態に似ているが、所持者の潜在能力を無理やり引き出すため、体にかかる負担は極めて大きい。【暴走】の一歩手前の形態と言っても過言ではない」
「そっか。で? 第二形態になるには……何をすればいいんだ?」
「……もし、我を今以上に受け入れることができればなれるやもしれん」
「なんだよ、お前自身もよく……分かってないじゃないか」
「我と適合できたのは先代を除いて主だけなのだ。仕方ないだろう」
「それも……そうだな。なあ、先代の誕生石使いって【誕生石】をそれぞれ体のどこに……入れてたんだ?」
「我が知る情報によると頭部、右腕、左腕、右足、左足にそれぞれ五つ。そして胴体に二つだったそうだ」
「お前がもし先代に使われてたら……どこに入ってたんだ?」
「うーむ、おそらく胴体に入っていただろうな」
「どうして……そう思うんだ?」
「胴体に入っていた二つはそれぞれ胸筋の中に入っていた。よって、我が入っていたであろう場所は……」
「【へそ】ってことだな。なるほど、なるほど。たしかに【へそ】には入れたく……ないな」
「そういうものなのか?」
「母親と繋がっていた場所に何かを入れるなんてことは、普通のやつはしない……からな」
「もし、主なら、そんな時はどうするのだ?」
「えっ? 俺か? そうだな……まあ、勝つためなら【へそ】の中だろうと【〇〇たま】の中だろうと入れるだろうな」
「……なるほど……よし、今の言葉を忘れるなよ? 我が主よ」
「ああ! もちろんだぜ! 相棒!」
俺は【エメライオン】の隙をついて【エメライオン】がひっくり返るくらいの蹴りを額に入れて着地した。
注:空を飛べるのは、チエミ(体長十五センチほどの妖精)から風の加護を受けたからである。
「よし、今だ! 第二形態になれ! 我が主よ!」
「なあんだ、意外と簡単じゃねえか。あと、俺のことは、これから名前で呼んでくれ。堅苦しいからさ」
「承知した。では、ナオトよ。第二形態に名前をつけてくれ」
「名前? うーん、そうだな」
「早く決めろ、やつが襲ってくるぞ!」
「分かってるって! えーっと……」
第二形態か……うーん、『ア〇メが斬る!』に出てくる『イ〇クルシオ』みたいな、かっこいい名前がいいな。かっこいい名前……かっこいい名前……おっ! これでいいんじゃないか!
俺がピコン! と思いついたその名前は、かなりかっこいい名前だった。
『力の中心』にそれを教えている時、その声は【エメライオン】が動く音でかき消されてしまった。
「よし、それで行くぞ! ナオト!!」
「ああ! やろうぜ! 相棒!!」
「ベラベラと独り言を言いながら、ちょこまかと動きおって! 正々堂々、戦わんか!」
【エメライオン】は怒りながら、そう言った。その後、俺はニシッと笑った。
注:【エメライオン】には、彼が彼の相棒と話している間は、彼の声しか聞こえない。
それは、彼の相棒が念話で彼に話しかけていたからである。
分かっているとは思うが、ナオトの『……』は【エメライオン】を蹴った後からは、間を表している。
「これから見せてやるよ! 俺の……いや! 俺たちの新しい力を! 行くぞ! 相棒!」
「承知した! 我と共にやつを倒すぞ!」
「言われるまでもねえ! やってやるさ!」
「よし、ならば共に叫べナオト! 熱い魂で!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
その時、ナオトの体から放たれた風圧は【エメライオン】だけでなく、その場にいる全ての生物の体を震わせた。
____そして、遂にその時はやってきた!
『【白くあどけない香雪蘭】アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
その時、ナオトの体から放たれた風圧はその場にいる全ての生物が吹き飛んでしまうかもしれないような勢いであった。
メルク(ハーフエルフ)は瞬時に半球型の結界を張って自分とマナミ(茶髪ショートの獣人)とナオトのバッグを守った。
【エメライオン】は必死に地面を踏みしめて、吹き飛ばされないように踏ん張っていた。
それが止んだ時、ナオトの姿が一変していた。
全身を覆う『白い鎧』と『紅い瞳』が特徴的であったが、鎖の数は変わらず十本であった。
「これが俺の……いや、俺たちの新しい力だ!」
俺が両手を開いたり閉じたりして、自分の力がどれほどまでになったのかを確認していると【エメライオン】が嘲笑しながら言った。
「ふん! 姿が変わったところで、我には到底及ぶまい!」
俺は【エメライオン】の方を見上げながら、こう叫んだ。
「それは今から証明してやるよ! 未来のことは未来予知でもなけりゃ分からないからな! それじゃあ、行くぞ! エメライオン!」
「望むところだああああああああああああああ!!」
「第二形態の力を見せてやる……『電光石火』!!」
その時の俺には、こちらに襲いかかってくる【エメライオン】の動きがとても遅く感じられた。
『電光石火』は鎖の力を入手した時から使えたが、今回は明らかに違った。
俺の目が相手の動きについていけるようになったということなのだろうか?
いや、だとしたら今ごろ俺はやつを瞬殺しているはずだ。だとしたら、これが第二形態の効果だということだな。
そんなことを考える時間があるほど、やつの動きが遅く感じたため、俺は【エメライオン】の額に狙いを定めると、大地を踏みしめた。
その後、圧縮されたエネルギーを一気に解き放ち、目標めがけて跳躍&飛行した。
「これで! 終わりだあああああああああああああああああああああああああ!!!!」
俺の拳は【エメライオン】の額に直撃した。
その直後、『若葉色の水晶』製の体にピキピキと亀裂が入り、それは徐々に全身に広がっていった。
「戦いながら己の壁を打ち破り、新たな力を得た……か。ふん、なかなか面白いやつだな。お前は」
「いや、それは違うよ。お前がいたからこそ、俺は新たな力を手に入れることができたんだ。ありがとう、【エメライオン】」
「己を進化させた敵に感謝をする戦士……か。ふん、それもまた、一興やもしれんな……ナオトよ、お前に全二十八の誕生石の一つ、『若葉色の水晶』の力を与える。受け取ってくれるか?」
「試験は合格……ってことだな。いいぜ、お前の力は俺がきっちり受け取ってやる! だからもう、ゆっくり休んでくれ。これからは、俺が……いや、俺たちがお前の力を受け継ぐんだからよ!」
「そうか。ならば、我が身に触れよ。さすれば、お前の望みは叶うだろう」
「ああ! 分かった!」
俺が【エメライオン】の方に駆け寄ると、【エメライオン】は俺の方に額を近づけた。
「えーっと、さっき俺が壊したところが空洞なんだが、大丈夫なのか?」
「問題ない。さあ、お前の手で我の中にある力を掴み取るがいい!」
「……ありがとう【エメライオン】。お前が今まで守っていた力……大切に使わせてもらうよ」
俺はそう言いながら、【エメライオン】の額の穴に手を入れた。
すると、少し進んだところに何かがあったため、俺はそれを取り出した。
それは、辺り一帯を照らすほどの黄緑色の光を放ちながら、俺の手を離れると空中をふわふわと飛行し、胸骨あたりから俺の体の中に入ってしまった。
「これで終わりか? なあ、【エメライオン】。今のでおわ……」
「さらばだ、二代目の誕生石使い。また会える時を楽しみにして……いる……ぞ」
そう言い残して【エメライオン】は黄緑色の光の粒となって消えてしまった。まるで最初からそこには何もいなかったかのように……。
「……ありがとな、【エメライオン】。お前のこと、絶対に忘れない。また会えるといいな……」