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〇〇は『深緑に染まりし火山』に行くそうです その15

 ____俺を呼ぶ声が聞こえる。一人ではない。ましてや二人や三人でもない。

 もっとたくさんの声が聞こえてくる。誰なんだ? お前たちは。俺を少し休ませてくれよ。

 ____まだ声が聞こえてくる。

 もう、いい加減にしてくれよ。俺はここにたいんだよ。ずっと、この静かで真っ暗な世界に引きこもっていたいんだよ。

 だから、俺を呼ぶな。……呼ぶな、呼ぶな、呼ぶな、呼ぶな、呼ぶな、呼ぶな!!


「あんたがいないと、あたしたちは困るのよ! だから、お願い……目を開けてよ、ナオト! というか、いい加減に戻ってきなさいよ! バカナオトおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 今のは……ミノリ(吸血鬼)の声……。

 そうか、俺はまた……いや、それよりももっと大事なことがあった気がする……だけど今は、そんなことよりも早くみんなのところに帰る方が先決せんけつだ!

 俺は『本田ほんだ 直人なおと』。あいつらに必要とされている存在だ! だから、俺は行かなければならない! みんなが待っているから!

 こうして、俺はミノリ(吸血鬼)をふくむたくさんの声のおかげで目覚めることができた。


 *


 俺が目を覚ました直後、最初に見たのは全員の泣き顔であった。俺は少し戸惑とまどったが、とりあえず。


「そ、その、た……ただいま」


 俺がそう言うと全員が同じことを言って、俺に飛び込んできた。


『おかえりなさい!!』


「グアッ! お、お前ら、いっぺんに来るなよ。重いから」


「あんたが悪い!」


 ミノリ(吸血鬼)。


「そ、そうです! ナオトさんのせいです!」


 マナミ(茶髪ショートの獣人ネコ)。


「ナオ兄の……バカ!」


 シオリ(白髪ロングの獣人ネコ)。


「そうです! 兄さんのせいです!」


 ツキネ(変身型スライム)。


「マスター……反省してください」


 コユリ(本物の天使)。


「ナオトさん、また無茶をしましたね! 今度という今度は許しませんよ!」


 チエミ(体長十五センチほどの妖精)。


「ご主人。みんなを頼らないから、こんなことになるんだよ?」


 ミサキ(巨大な亀型モンスターの本体。旧名はメタルタートル)。


「マスター、いい加減、あたしらを頼れよ。まったく」


 カオリ(ゾンビ)。


「ナオト、無事で良かった。でも、無茶しすぎだよ! めっ!」


 シズク(ドッペルゲンガー)。


「ナオトは無茶しすぎだよー。もっとみんなを頼ってもいいんだよー?」


 ルル(白魔女)。


「お兄様! あまり無茶をしないでください!!」


 コハル(ミサキの妹。正体は『藍色の湖』のぬしである。旧名はインディゴファースネーク)。


わらわを心配させるでないぞ。お兄ちゃ……我があるじよ」


 キミコ(きつね巫女みこ)。


「まったく、あんたって人は! どうして、一人でなんとかしようとするのよ!! 次やったら承知しないわよ!」


 カリン(『黄竜こうりゅう』と『麒麟きりん』と『いん』と『よう』の力が合わさって誕生した存在)。


師匠ししょうはどうしてみんなを頼らないの? もっと頼っていいんだよ?」


 ベルモス(悪魔)。


「お、お前ら、そんないっぺんに言われても俺は聖徳太子じゃないんだから、対応できないぞ?」


 その時、名取なとりが。(名取なとり 一樹いつき。名取式剣術の使い手でナオトの高校時代の同級生。前髪で両目を隠している。人見知りだが武器のことになるとよく話す。今はナオトたちと一緒に旅をしている)


「……無茶をして、みんなを困らせるのはよくない。早急に改善すべきだ」


 俺はムクリと起き上がって。


「う、うるさいな! これでも、少しはマシになった方なんだぞ!」


 その時、俺以外の全員が一斉に笑った。俺はキョロキョロとみんなの顔を見ながら。


「ど、どうしたんだよ? みんなして。俺の顔に何かついてるか?」


 ミノリ(吸血鬼)が代表して、こう答えた。


「いつものあんたで良かったって、思っただけよ。ねえ、みんな?」


 ミノリがそう言うと、全員が優しい笑みを浮かべていた。


「お、お前ら」


「それで? あんたはどうして倒れてたの? あんたの右肩に咲いてる花と関係あるの?」


 ミノリ(吸血鬼)が急にそんなことをいてきた。


「え? 俺の右肩に花が咲いてるって? はははは、おいおい、そんなものがあるわけが……って、あったあああああ!?」


「え? 今まで気づいてなかったの?」


まったく気づいてなかった……というか、これはれるのか?」


「ナオ兄、私がってあげるから動かないで」


 シオリ(白髪ロングの獣人ネコ)がそんなことを言ったので、俺は。


「ああ、よろしく頼むぞ。シオリ」


「うん、私に任せて。ナオ兄はそのままじっとしててね。私が全部やってあげるから」


 シオリがそんな意味深なことを言っていたが、俺は気にせず、シオリがトコトコとこちらに近づいてくるのを見ていた。


「じゃあ、るよ」


「あ、ああ」


「せーのっ!」


 小さな手で『グリーンドウ』を俺の右肩からスポン! と引っこ抜いた瞬間しゅんかん、シオリ(獣人ネコ)がその反動でマナミ(茶髪ショートの獣人ネコ)の方に飛んでいった。


「シ、シオリちゃん! 危ない!」


 その直後、マナミがシオリをなぜかお姫様抱っこで受け止めた。

 だが、その直後『グリーンドウ』から緑色の光が放たれた。あまりのまぶしさに全員が両目を隠しながら。


『目が! 目があああああああああー!!』


 どこぞやの大佐のセリフを言ってしまった。発光が止むと、いつものマナミとシオリの姿はなかった。

 その代わりに幼児が二人、高速でハイハイをしながら俺の方にやってきた。


「ナオトー! ナオトー!」


にいにー! にいにー!」


 二人はそう言いながら、こちらにやってくると。


『……チュ!』


 俺のほっぺたに優しくキスをした。


「……えーっと、もしかして、マナミとシオリなのか?」


「ナオトー! 好きー!」


にいにー! 大好きー!」


 二人は俺に抱きつくと顔をスリスリとこすり付けてきた。

 他のメンバーも、あまりの急展開に頭がついていかないようだ。

 そんな中、ミノリ(吸血鬼)が恐る恐る二人に手を伸ばすと。


「あなた、嫌い! フシャー!」


みつくよ! にゃー! にゃー!」


 二人に威嚇いかくされてしまったため、悲しそうにうつむいた。

 他のメンバーも試してみたが、俺にしかなつかなかった。

 どうやら『グリーンドウ』のせいで、二人は若返ってしまったようだ。

 どうしてこんなことになったんだ? 俺は二人を元に戻す方法を見つけるため、二人を連れて外に出てみることにした。


 *


 俺はチエミ(体長十五センチほどの妖精)に頼んで葉っぱでできた服を二人分作ってもらった。

 それは葉っぱにしては、なかなか丈夫じょうぶだった。

 かなり強く引っ張っても、まったく破れる気配がなかったからだ。

 二人は俺の肩に乗ったまま移動したいらしく、はなそうとすると、ものすごい握力あくりょくで握られたため、肩から下ろすのを断念した。

 アパートの外に出て、外の景色を見ていると。


「ナオトー、あの、お山、爆発するのー?」


にいにー、あの山に登りたーい!」


 二人が、そんなことを言ってきたため、俺は少し考えて。


「うーん、そうだな……。二人がもう少し大きくなったらだな」


 これでいいはずだと思って言ったが、二人はワガママを言い始めた。


「いーや! 今、行きたいのー!」


にいにー! 今すぐ一緒に行こー!」


「いや、だから、お前たちがもう少し大きくなったら一緒に行ってやるって言ってるだろ?」


「やだー! 行くー! 行くー!」


にいにと一緒に行きたいのー!」


「うーん、困ったな……」


 俺が困っていると、どこからか歌が聞こえてきた。


「夜は静かに過ごすもの。けれど、外から雑音ノイズが聞こえてくる。飛行機・バイク・車・人。大きな音を出さないで。子どもたちの眠りをさまたげないで……」


 あー、いい歌だなー。いや、待て。今は呑気のんきに歌を聞いている場合じゃない! 俺が振り返ると、そこにはコユリ(本物の天使)がいのりをささげるように両手を重ねて、立っていた。


「……コユリ。今のは、お前が作った歌か?」


「はい、そうです。何か問題でも?」


「いや、別に」


「そうですか」


「でも、どうしていきなり歌なんて歌ったんだ?」


「私はただ、子守唄こもりうたを歌っただけです。その証拠に、二人とも、ぐっすりです」


「えっ? あっ、ほんとだ。すげえな」


「まあ、天使型モンスターチルドレンである、私の歌声はあらゆる生命体の感情や意識を操れますから、これくらいできて当然です。それより、元に戻す方法が分かりましたよ」


「な、なにぃ!? それは本当か!!」


「はい、以前マスターが『はじまるのまち』でもらった『しゃべるモンスター図鑑』と『植物図鑑』がありましたよね? あれに書いてありました」


「なんだって!? あー、それなら最初から、そうすれば良かったな」


「それで……その……どうでしたか?」


「ん? 何がだ?」


「わ、私の歌声はいかがでしたか?」


 ほほを赤く染めながら、チラチラとこちらを見るコユリ(本物の天使)の様子から、俺は自分に何を求められているのかを理解した。


「あ、ああ、すっごく良かったぞ! やっぱり女の子だから、声優さんでも目指してるのか?」


「いえ、私の第一目標は、マ、マスターのおよめさん……なので」


「えっ? 今なんか言ったか?」


「な、なんでもありません。さあ、二人がている間に参りましょう。マスター」


「ん? ああ、そうだな。というか、今日って何日だっけ?」


「これは失礼しました。私としたことが、マスターがずっとお休みになられていたのを忘れていました。申し訳ありません。どうぞ私にしかるべきばつをお与えください」


「いや、いいんだよ、そんなことは。なかなかけるタイミングがなかっただけだから」


「……ずっと、と言いましたが実は一日しか経っていないんですけどね。コホン、えー、今日はモンスター暦で言うと、四月十五日です。ちなみに、この世界では毎月十五日が満月です。そして私たち、モンスターチルドレンにとっては【暴走する日】となっています」


「そうなのか? まあ、とりあえず部屋に戻ろう」


「そうですね。では、参りましょう」


 こうして、俺たちは部屋の中に入っていった。本当に二人を元に戻せることができるのかは、まだ分からないが、ここはコユリ(本物の天使)を信じてみよう。

 俺はそう思いながら、スヤスヤと気持ちよさそうにねむっている二人の顔を見た。

 二人の寝顔を見た直後、俺は微笑ほほえみを浮かべた。

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