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12:隠れた応援者

12:隠れた応援者



 我が槍杉学園には『一番行きたくない場所ランキング』というのが存在する。ラインナップは割愛させてもらうが、栄えある第二位はなんと『保健室』である。普通漫画やアニメだと、保健室の先生というのはそれはそれは美人であると相場が決まっているようだが、残念な事にこの槍杉学園高等部の保健のクソは最低なオバタリアンであったのだ。

「……」

 その最悪な場所に俺は寝かされていた。目を開けると見慣れない白い天井がある。ベッドの中でモゾモゾと体を動かして左右を確認すると、やはり保健室だ。クソババアが一度だけすばやくコッチを振り返ったが、またすぐにどこかを向いた。クソ、あのパンチパーマ野郎が……。

 俺は何気なく両手で体を持ち上げたのだったが、そういえばカデンツァから握りつぶされたはず。しかし両手はいつも通りだった。服に付いた血痕やジュースの染みすら消えている。……どうやら、全ては『無かった事』にされたらしい。唯一俺の記憶だけは捏造しなかったのか。モリエイターとはいえ、意識を失った俺の記憶を捏造するなどインビュードハンターにとっては容易い事だったろうに。クソ野郎め。

「お疲れーッス」

 俺を見向きもしないババアに対し、俺は仕事上がりみたいな口調で言いながら保健室を出た。俺がここに寝ている理由を何と聞かされていたのか分からなかったし、別に何か言わなければならない訳でもない。とにかくゴチャゴチャ言われる前に、俺はここを一刻も早く立ち去りたかった。携帯を見ると、どうやら六時間目の真っ最中のようだ。

 その後教室に戻り、授業に途中参加した。授業が終わると正光が「薬師さんとこんな時間までナニしてたんだようひひひひひひ」と言って来たが、俺だけ寝てたらこんな時間になったと伝えた。

 まさか、学校でインビュードハンターに襲われたなんて、こいつにいえるかよ……。



 学校を出た俺は、そういえば家のカップラーメンが無くなりかけている事を思い出した。くそぅ、また買出しいかねーと駄目だな……。超面倒臭いが、帰りの足で大型のデパートに行く事にした。

 今の時間だと結構込んでいて、広い駐車場も満車状態だ。だが俺はチャリんこなので、入り口の近くに優々と止める事ができた。中の食品売り場をかごをもってブラつく。

「おや……睦月君!」

 遠めのところで誰かが手を上げた。

「やぁ、久しぶりじゃないか」

 俺と同じようにかごを持ち、小走りで近づいてくる。そのへんの主婦がかぶるみたいな、ふにゃふにゃしたツバの帽子をかぶっているので口元しか見えない。

 ソイツが帽子の頭を手のひらで押し上げると、見覚えのある顔が出てきた。

「あれ、富士さん」「おうさ」ソイツは『森富士もりふじ』であった。俺達は富士さんと呼んでいるのだが、彼は超昔から生きている不老不死である。……簡単に説明できるものだが、どうも簡単に説明しすぎると『ペラい』感がするな。まぁしかし、事実だ。

 彼は以前強行派に拉致されて様々な協力を強いられ、その結果泉さんが人工オリハルコンとなってしまった。今では穏健派の監視下のもと平穏な暮らしをしているようだが、それでも時折その知識を要求される事がある。まぁ彼にしてみれば俺たちとて『通過点の一つ』に過ぎないのかもしれないのだが。百年程度の間くらい、遊びに付き合ってやろうという感じなのだろう。

 富士さんは日本人ではあるが、『男なのか女なのかはっきりしない体系』とでも言うのだろうか?一見女に見えるのだが、しかしどこか男らしい雰囲気がある。中性っぽい印象の男だ。別にオカマっぽいとかそういう感じは全然しない。そして、レイやホイットニーのように髪が真っ白である。それを帽子で隠しているようなのだが、如何せんはみ出している。服装はお出かけ用なのか、しらっぱげたGジャンなんぞを羽織っていた。いつもは師匠みたいな和服だったので、このせいで最初に富士さんだと分からなかったのだ。

「いやぁ睦月君いいところに」女のようで男のようなハスキー声で富士さんが言う。「頼みたい事があるんだ」

「ん、なんスか?」「いやホラ、今日は米の安売りだろう?でもあれは一人買うのに個数制限があってね」

「……」

 何かと思えば、そんな事かよ!

「出来れば睦月君も一緒に、ちょっと買って欲しいんだけどなぁ。あぁもちろん、お金は僕持ちさ。どうだい?」「……いやまぁ、いいスよ」「よーし」

 一緒に米コーナーまで行くと、確かに安売りしてた。うーむ俺は別に安いときに買うという習慣が無いからな……あれ、でもラーメンは安売りの時かうな。なんでだ。米に関してはそれがない。

 気づけば富士さんがいなくなっていた。だが数十秒後、彼がショッピングカーを引いて現れた。「いやぁ助かるなぁ」「は、はぁ……」ニコニコ笑いながら言われたので、俺は苦笑するしかなかった。



 それから俺の買い物を済ませたのだが、富士さんが「ちょっとあの辺で休憩しよう」と提案した。別に遣る事もないし、俺は了承する。二人は売店で買ったソフトクリームを持って、デパートの目の前にある広い公園へ来た。と言ってもあたりは夕焼けに染まり、遊ぶ子供は誰もいない。数名の若者がちらほらいるばかりだった。

 ブランコがフリーだったので、二人はそこを占拠する事にした。

「やれやれ、年老いた大名だいみょう共が揃って食通になるのも頷ける話だよ、まったく」

 富士さんはそう言いながらソフトを天辺からかぶりつく。……いや、いつの時代の話だ? そりゃ。俺のソフトが半分になる前に、富士さんはぺろりと平らげてしまった。俺のもいるかと聞くと「いる」と即答され、それも喰ってもらった。俺にとって、ぶっちゃけあんましソフトクリームとかは喰わなくてもいい部類の食べ物である。

「……富士さん」俺は青の比率が多くなってゆく夕焼けの空を眺めながら言う。「ん?」富士さんは自分の指をぺろぺろ舐めていた。

「あの……」

 富士さんはある意味、トランプで言うところのジョーカーである。モリエイターでありながら、インビュードハンターに見向きもされない。穏健派と強行派という二つの組織があるものの、どちらにも属してはいない。現在は一応穏健派っていう事になっているが……それも怪しい所だ。永遠の時間を歩む者。それが彼だ。彼には……。……富士さんには、俺の今の状況を話しもよいと思われた。

「……ふふ」

 富士さんは俺の言わんとしている事が分かるのだろうか?少しだけ笑うと、自分のブランコを揺らした。

「オブリヴィオンの事かい?」「……」大当たりだ。クソ。

「まったく。厄介な奴だよ。未来永劫、モリエイターは常にその脅威に晒されているんだ。昔も今も、かわらずにね」「……」

「何故モリエイターはオブリヴィオンに侵食されるのか。その事については昔から様々な論議が交わされていたよ。インビュードハンター、この地球の意思がモリエイターのためにばら撒いた『ウイルス』だとか。はたまた。モリエイターを通して、インビュードハンターのような『地球の意思に反する存在』が現れるためだ、とか。フフ、まったく。人の想像は尽き果てる事がないね」

「……富士さんは、どう思いますか?」

「僕かい?う〜ん……。僕は頭が悪いからね。難しい評論や見解は腐るほど聞いてきたけど、どれもぱっとしないなぁ。でも一応、色々ある中で僕がそれっぽいと思った話はあるよ。……人は、魂と、エーテル体と、アストラル体を持っているよね。モリエイターはその三つの炎を自由にコントロールできて、なおかつそれらを使って、この物質世界に具現化させる力を持っている。でも逆に、そんな事ができてしまうがゆえに、ちょっとした精神の揺らぎとかで力が変に働いてしまう……という話だ」

 それは昼間、カデンツァが言っていた事と似ている気がした。

「エーテル体は魂の作る『パトス(感情のエネルギー)』を摂取し、それで得たエネルギーで肥大化している。パトスの生成にはアストラル体が必要だから、エーテル体は周囲のそれを吸引していく。その循環が自動的にされているのが人間だ。モリエイターはそれらの循環をコントロールできる。……またこれも逆説なんだけど、『コントロールできる』という事は逆に、『しきれなくなる場合』が出てくる。例えばAOを使いすぎたり、アストラル体を消失させられたりした時に起こる酸欠とかだね。まぁこれは普通の人間でも言えるけど、僕達はアストラル体をソウクできる訳だから、ソウクする量をコントロールして増やせるわけだ。だからAOFも常時展開してられるし、AOだって。ソウクしながらモリエイトし続けられる。そうしながら『酸欠』はソウクすれば防げる」

「ふむ」

「では酸欠の状態とは逆のパターン。パトスが大量に生成されてしまった場合の対処は、どうする?」

「パトスがっつーと……。すげームカついたり、悲しかったり、超嬉しかったりするって事ですか?」

「うん。モリエイターっていうのは面白くてね。アストラル体とエーテル体のコントロールはお手の物なんだけど、魂のコントロールってのが結構出来ないんだよ。AOFとAOっていうのはもっぱら、アストラル体とエーテル体だけでモリエイトするものだからね。勿論魂が生成する攻撃の意思も使うけど……睦月君。きみは真剣に魂をコントロールしようとした時はあるかい?」「えっ……」

 ……そんな事、まったく考えた事もなかった。別にいじる必要の無い部分だからだ。

「そうなんだよ。モリエイターは、三つの炎のうち二つしか使わないんだ。それだけで十分事足りる訳だからね」

「しかし、魂がコントロール出来ないっていう事は、一体……」

「うん。そういう事はつまりパトスが、感情がコントロールしきれないっていう事なのさ」「感情が……」

「誰だって、嫌な事をされれば腹を立てるし、優しくされれば嬉しい。でも魂をコントロールできれば、嫌な事されても嬉しくなれる。……結構、無理やりな感じがするけど。でもそういう事だろう?魂に吐き出させるパトスを、自分でコントロールするっていう事はさ」

「な、なるほど……」確かにその通りかもしれない。

「でも普通、そんな事は無茶な話だ。モリエイターですら、自分の感情をコントロールする事は出来ていない。……話を戻すと、魂がコントロール出来ないという事が、オブリヴィオンの発生に繋がっているかもしれないんだ。オブリヴィオンが発生する時ってのは、例えば恋人や仲間、家族が死んだり、殺されたりした時とかかな。大事なモノや大切な人がいなくなった喪失感や、怒り、悲しみ。その精神的ショックで、大体のモリエイターがオブリヴィオンに侵食されてしまう。……。きみは……」

「?」

「睦月君は、自分が侵食された原因は、なんだと思う?」

「……」

 俺は右腕を伸ばし、GHをモリエイトした。無論の事、真ん中から折れている。富士さんはそれを見るとブランコを揺らすのを止めて、眉を潜めた。「……そうか、すまない」そして頭を下げた。「いや……」別に彼に謝られる理由はない。

 そして俺はこの経緯を話した。イーブルアイが現れ、交戦し、折られた事。

「不動豪の事は、知ってるんですか?」俺が聞くと、富士さんは頭を横に振った。「いや、名前は聞いたことあるけど、会ったことはないな。我剣流と飛影剣は確かに昔しからいざこざが絶えなかったようだけど、その辺も興味がなかったからな……ゴメンね。役に立てなくて」「そうすか、あいや、全然。全く問題ないっス」

「まぁ、しかしだ。君の事例を僕の知ってる話に当てはめて……。……みても、いいかな?」

「えっ、あ、うす」

「うん。では。……君は必死で戦い、だが負けてしまった。その間に魂が生成するパトスは、悲しみや不甲斐なさ、喪失感。そして相手への怒り。でも怒りよりも喪失感の方が遥かに上回って、見えなくなってしまったんだろうな。……その後、AOFを展開しようとしても、何故か出なかった。そうだったね?」

「えぇ」

「多分それは、睦月君のエーテル体が『中毒』を起こしていたからかもしれない」

「中毒?」

「そう。アストラル体が無くなる事は酸欠と言うけど、中毒の場合はエーテル体がパトスを過剰摂取してしまった場合の事をいう。……魂がパトスを吐き出しすぎて、エーテル体が栄養を取りすぎてしまうんだ。同じパトスを大量にエーテル体が摂取すると働きが極端に悪くなって、それ以外のパトスが浸透しづらくなってしまうようなんだ。AOFを展開しようとしても無理だったのは、魂から作られたパトスがアストラル体まで届かなかった。といった所かな。睦月君本人としてはその時、悲しみの感情でいっぱいだったんじゃないかな」

「……確かに。一応やる気だしてがんばろうとは思ったけど……。しばらくは無理でした」

「ふむ……。まぁ、それで。そこからだよ、問題は。さぁ、新しいパトスを作りたいのに、魂は悲しみのパトスしか作らない。でも本人としてはそれをやめて、違うパトスを作りたい。……ここからが話の本題なんだけど、聞いた所によると、そうなった魂は『もう一つの器』を一時的に作って、そこで悲しみの動作をさせ続けるらしいんだ。もう片方は御要望通りのパトスを作るわけだね」

 彼は喋りながら、両手の仕草で俺に説明した。しかしその仕草は曖昧なので、とても文章で表現できないものだ。

「もちろんこの一時的っていうのは、モリエイターでも認識できないくらいのものさ。魂に区切りなんて元々ないし、人は一つの物事に対して常に数種類の感情を持つからね。莫迦らしいけど面白い、悲しいけど嬉しい。そんな複数のパトスを作るたび、魂はそれぞれに分かれるって言うんだよ。そういう観点で言うと、剣を折られた悲しみのパトスを作る器っていうのも、いつもやってるような何気ない分裂なんだろうと思うけど……それを作る量っていうのがハンパじゃない量だ。それこそエーテル体が中毒を起こしてしまうくらいだからね」

「……メインの感情よりもデカくなり過ぎてしまうって事ですか」

「その通り。『感極まる』なんていうけど、まさにそれかな。頭では、それじゃいけないって思うんだけど、でもやっぱり悲しい」

「分かるような気がします」

「うん。人間誰しも、覚えはあるはず。僕だって何度も経験はあるよ。でも、それが普通の人間ならいいんだ。アストラル体とかエーテル体とかの制御は自動的になってくれる。勿論自動的故に、アストラル体が調節できなくて夜眠れなかったりするわけだけど。モリエイターならそれをコントロールして、自分で酸欠状態にして寝る事が出来る。しかし、その『コントロールできる』というのが曲者くせものなんだ。なまじコントロールできるが故、無理やりにでもエーテル体を活性化させようとしてしまう。そうする事で不安定だった炎を安定させる事ができるからね。でも、それがいけない」

「自分でエーテル体を安定させる事が?」

「そうさ。炎というのはとてもデリケートなんだよ。物質じゃないからね。人間の体は多少無理をしても何とも無いけど、こっちはそうはいかないみたいなんだ」「ふむ……」

「一時的に分裂した魂は、時間が立てば元に戻る。でもモリエイターが余計なコントロールをする事で、無理にでもいつも通りの感情を出させようとエーテル体に働きかける。エーテル体は魂に呼びかけて、パトスを作らせる。……どうにも、その行為が悪いらしいんだな。ここからは僕や話をしていた学者も分からない事なんだけど、何故か。そうすると。悲しいというパトスを作っていた器が、『勝手に違うものも吐き出し始める』らしいんだ」

 話を聞いていて、何故か背筋がゾクッとする感覚を覚えた。

「違うものってのは、つまり……」俺は恐れながら聞いた。「うん」彼は頷く。

「それがつまり。今まで表に出そうとしなかった感情だよ」

「……」

 また背筋が凍った。

「何故そうなるか。それが分からないんだ、いまだに……。それに今の話だって、結局は数ある内の一説に過ぎない。でもDSPになった人の話なんかを聞くと、結構これっぽい感じがするんだ」

「DSPですか」

「そう言えば睦月君は、実際にDSPとなった人の話なんかを聞いた事はあるのかい?」

「あ、あります。ホイットニー・グレンジャーから」

「彼女はなんて?」

「う〜む……。やっぱ、一般的なオブリヴィオンの見解って感じですね。もう一人の自分が現れて、やりたいとは思うけど普通に考えて無理な事を、させたがる、みたいな」

「ふむ……。僕がいろんな人から聞いた話でも、やっぱりそれと同じようなものばかりだ。昔も似たようなものさ。……まぁオブリヴィオンってのは結局、抑圧された感情から生まれたもう一人の自分って感じかな」

「ふむ」

「でも、そこだよ。睦月君。オブリヴィオンはもう一人の自分という所。そこに注目してみるとどうだろう?」

「どう、と言うと……?」

「今話した、『魂は感情の分だけ複数にわかれる』という話の続きを、僕なりに勝手に考えたんだけど……。普通の人間は理性だけで感情をコントロールしようとする。でもそれだと深い悲しみに落ちた時は、結構な時間を使う。しかしモリエイターはエーテル体をコントロールして、理性以上に、感情、パトスを操作する事ができる。そのおかげでたいした時間もかからずにそれから脱出できる訳だが……。もしその行為が、魂側からすれば『不本意』だとすれば、どうする?」

「不本意……というと?」

「うん。つまり僕達がコントロールしようとするのは『理性』がそうさせるためだ。現実的な対処のために、悲しい感情を何とかやめさせようとする。でも悲しいのは、『情念じょうねん』とか『本能』とか、本人が持ってる本質的な部分が嘆いているためだ。それこそ魂の叫びと言ってもいいかもしれないね。……人間社会で生きる上での『理性』に対して、人間が本来持っている魂の『情念』。その二つがぶつかり合う事で、何か悪い事が起きているのかもしれないと思うんだ。普通の人間の場合それが続くと、次第に鬱病になったりするけど、モリエイターの場合は自分の炎を自在に操る事ができる。でも魂だけはコントロールできてはいない。魂が本当に作りたいパトスを、無理やり押さえ込んでまで違うパトスを作らせようという行為が、オブリヴィオンを作ってしまう要因と考えるのはどうだろう」

「むむむ……」

 く、くそッ。超難しい。それこそ丁寧にひとつずつ、黒板にでも書いて欲しい所だ……。

「ははは。小難しい話をしてしまったね」

 富士さんは笑いながら言うと、ブランコの左右の鎖を両手で掴み、そこを軸に体をくるりと一回転させた。「いよっと。あら」頭が真下を向いた時に帽子がとれてしまった。しかしながら、さっきまで難しい話をしていた人とは思えない身軽さである。ジャキンとブランコの椅子に腰を落とすと、帽子を拾って砂を払った。

「まぁこんなのは、僕たちが考えてもしかたがない。こういうのは頭のいい連中に考えさせればいいのさ」「うむ……」「それよりも、だよ」

 彼は帽子を頭に乗せたが、その手を離さずに俺のほうを向いた。

「僕たち、いや睦月君。きみが考えなければならないのは、オブリヴィオンに侵食されてしまった『今』の事だ。今、そして今後、どうするか。それを考えなければならないな」「…………」

「でも。不思議だよ」俺から目を離し、彼はまたブランコを揺らし始めた。「こんなに他人のことが心配になるなんて、何百年ぶりだろう?」「……」俺は顔を上げ、前後にゆっくり揺れる富士さんを見る。

「思えば、僕が睦月君と正光君に会った時からかな。僕はねぇ何かこう、運命的なものを感じたよ」

「な、何を言うんスか……」「ふふ、結構恥ずかしいセリフだったかな。でも我々モリエイターという人種にとって、この言葉は結構身近なものなんだよ。……そうだな、出来れば、侵食が始まってから今に至るまでの経歴を聞きたいんだけど」

 この人が自分から何かを求めるなんてのは初めてだった。別に彼になら全てを話しても構わないだろう。俺は今まで合った事をかいつまんで話した。聞いている間は彼の揺れも止まっている。

「ふむ……」

 一通り聞き終えると、彼はまたゆっくり揺れだした。

「これはまた、僕なりの考えなんだけど……。どうやら睦月君は、人生においての重要なポイントにいるみたいだね。しかも現在は、その真っ只中だ」「……」

「それにどうやら君の話だと、剣が折られる前からその予兆はあったみたいだ」「予兆?」「うん、ほら。マジックアローとやり合うちょっと前に、瑞穂という君の幼馴染がエルベレスに来ただろう?その時からすでに、今起きている出来事の余波があったんだよ」

「……??」

 俺には良く分からない話だ。それは無理やり繋げているようにも思える。

「モリエイターはインテュイントに優れている。そしてイマジネートも同じだ。その二つの感覚が発達していると、人間の隠された能力、アカシックリーダ、すなわち未来予知が、若干ながらも無意識下で発現する事がある。それは知っているよね」「えぇ」

「君はモリエイターとして優秀だ。だからこそ、君のアカシックリーダが無意識のうちにこの事態を感知して、何かしらの信号を周りへ発していたのかもしれないよ」「……うーむ」「難しく考える事はない。感覚的でいいのさ。熱血漫画じゃないけど、AOFだって結局は、やる気と根性で作られてるようなものだろう?」「うっ、た、確かに……」「物理的な干渉は一切無い。ただ自分の意思のみで展開されているのがAOFだよ」

「つまりモリエイターにとって『感覚的』っていうのは、非常に大切な事なんだ。君の幼馴染の瑞穂も、君が発した危機を無意識に察知して、丁度上手い事それの直前に君の元へ戻ってきたのかもしれない」

「ふむ」

 そういえばツガイ石同調測定の時も、似たような事を言われたような気がする。

「もっとも彼女にも現実的ないざこざがあったようだけどね。でもそれ自体、君の元へ来るための予兆だったとしたら? 勿論彼女の周りの連中も、彼女の動きを察知してそれらを行った。全て、無意識下でね」

「ふむ……」

 ふむとしか俺は言ってないが、どうもな。やっぱり無理やりこじづけしているようにしか思えない。

「それに、大槻さんの話を聞いた途端に現れた紫電。これこそ偶然にしては出来すぎてるとは思わないかい? だってたまたま行った病院に、紫電ほどの人物とバッタリ合ったっていうんだから」「まぁそれは、確かに思うけど……」「事前に大槻さんが何か言ったっていう事も十分に考えられる事ではある。でもね……」そう言うと彼は夕暮れの空を見上げた。

「……君の危機を無意識に察知した人たちが、君を助けようとして勝手に出会ってしまうんだよ。全てはインテュイントの繋がりだ。だってそう思わないかい? これだけの期間で、思いもよらない人たちと次々出会っていくんだから。モリエイターとなった人間は、歴史の流れ……『運命』というやつから、常に様々な舞台を用意されているんだよ」

「…………」

 頭が真っ白だ。まるで哲学者の語る講義でも聞いているような感じである。

「そうなると、僕とさっき会って、今こうして話をしているのも、インテュイントのお導きなのかな。僕自身まったく身に覚えはないし、まさか睦月君がこんな状態だったなんて知らなかったもの。睦月君だって、僕と会うなんて予想してなかっただろう? 『そういう事』さ。『そういう事が結構起こってしまう』のが、インテュイントに長けるモリエイターなのさ」

「ふむ……」

「僕のインテュイントも無意識のうちに、君の危機を察知したのかもしれないね。そして何気なく足を動かして、君に会うように仕向けた。まったく、僕みたいな奴すら引っ張ってしまう君の存在というのは、一体どれだけこの世界に影響を持っているんだろうね?」

「い、いやぁ! 勘弁してくださいよ!!」

「ははは、まぁ、そういう事だよ。睦月君」

「ぬ、ぬう……」

「でもね睦月君。運命は確かに様々な舞台を用意している。しかしそこでどうするかは君自身の判断だ。ただ見ているだけでは、それは舞台でもなんでもない。舞台であるならば、やっぱり自分なりに何か行動に移るべきだ」

「う、う〜む……。……なんかこう、かなり抽象的なもんで、なんと言っていいのやら……」

「あ……」

 彼は少しだけ驚いた様子で、しばらくすると笑い出した。

「ゴメンゴメン。ついまた自分の世界の話をしてしまったね。まぁ今の話なんてのは、結局僕の頭の中の空想さ。長い間生きていると、どうしてもこう変な風な考えになってしまう」

 富士さんはブランコから立ち上がった。「ウ〜〜ンッ、いや〜久々に喋ったなぁ〜ッ」そして背伸びをする。俺も続いて立ち上がり、似たような背伸びをした。あまり長い時間座っていたわけではないが、なんか難しい話を聞いたので結構疲れた。

 それから自転車のある所まで戻る。「今日は会えてよかったよ」「あ、いやぁ俺もですよ」カギを外してまたがる。

「まぁ、睦月君。DSPになるまでは辛いと思うけど、負けてはいけないよ」「……はい」「君は様々な人から好かれている。事あるごとに、何かしらの支援が必ず入るはずだ。モリエイター同士は引き合うんだからね」「……」

「僕も陰ながら応援しているよ」

「……。ありがとうございます」

『SRB』(えすあーるびー)

正式名称西木式 Rose Blaster(さいきしき ローズブラスター)



 CSGを安価に量産するために作られたタイプで、女性と相性のよい人工オリハルコン結晶が使用されている。

 リボルバーではなく、バレルと宝玉口が一体化したオートマチック『風味』の形状が新たに採用された。それによりSPS18より小型の『SRB12』が誕生。


 西木博士が娘へこの銃を送る際、成長して強く美しい女になれといった意味で『薔薇ローズ』の名称を与えたのが由来。余談として、西木博士にしてはナイスなチョイスだと、この名前が女性隊員達に意外と好評であったという事例がある。名前の評判もさながらだが、実用性の面でも女性隊員はSPSよりSRBを所持している場合が多い。




(えすあーるびー いちにー いちろく にーまる)

名前[SRB 12][SRB 16][SRB 20]

全長118mm160mm198mm

経口7mm7mm12mm

宝玉口111


 女性のモリエイター専用として作られた『ローズブラスター』。男と女では炎の性質が異なるため、それぞれに特化したCSGの作製にあたり、SRBへといきついた。

 男性がSRBを撃っても一応アストラル弾は出るのだが、感覚的には『すぐ壊れそうな感じ』『頼りない』『威力不足に思える』という印象を受け、実際のAOF消費効率も極端に悪い。だが女性が撃てば、『自分と一体化する感じ』『安心感が得られる』『恐怖心から開放される』などのよい印象を受け、万能銃であるSPSよりも撃ちやすく、AOF消費も抑えられるのだ。


 SRBの特徴として、外見が上げられる。それはまるでオートマチックの銃そのものである。宝玉口をあえてひとつにする事で、オートマチックタイプの形状となった。

 実際の銃は排莢のために射撃と同時にスライドが下がり薬莢を放出するが、弾薬という概念がないCSGは『呼吸させる』といった意味でスライドが下がる。無論、実際の銃は射撃の反動によってスライドを下げるが、こちらはアストラル弾の発生で生じる衝撃によってスライドを下げる仕組みである。

 だがスライドが下がることで、呼吸の際に一瞬だけ顔をだした雌結晶が青いアストラルの火花を散らす。これのせいで敵に発見されるという事もあり、スライドを手動で動かす(呼吸させる)タイプのものも製造された。その場合、名称の最後に『N(ノースライド)』のイニシャルが添付される。


 オートマチックタイプの利点は何といってもコストの低さである。宝玉口が1つしかないので雌結晶を精製する手間が省け、量産に向いている事だ。

 雌結晶が一つだけという事で信頼性の面で不安が残るが、女性専用銃として改造を施した事で雌結晶への消費がかなり軽減されており、十分実戦に対応できる攻撃力を持続できる。

 雌結晶の交換だがマガジン式ではなく、スライドを下げた状態で、本体の排出ボタン(実銃でいう所のマガジン排出ボタン)を押すと、チャンバーに装填された雌結晶を押し出す仕組みとなっている。そこに、あらたな雌結晶を押し込んでスライドを下げれば再装填完了となる。

 意外と面倒な作業だが、雌結晶の交換などは戦闘時はしない『はず』ので、このような形を取ることになった。実際やる事になったとしても、慣れてしまえば簡単である。



『SAG』(えすえーじー)

正式名称西木式 Astral Gunner(さいきしき アストラルガンナー)



 CSGを安価に量産するために作られたタイプで、女性専用のローズブラスターに対し、こちらは男性と相性のよい人工オリハルコン結晶が使用されている。

 ローズブラスター同様、宝玉口がバレルと一体化したタイプのCSG。


 これも西木博士が息子に送る際、敵に臆することなくたくましい男になれという意味を込めて『アストラルガンナー』の名称を与えたのが由来。整備も簡単で砂塵や水にも強く、前線で活躍する兵士達が愛用する男のCSG。




(えすあーるびー いちにー いちろく にーいち)

名前[SAG 12][SAG 16][SAG 21]

全長118mm164mm210mm

経口7mm7mm12mm

宝玉口111



 SAGの特徴は攻撃力の高さと『雌結晶の窒息しづらさ』で、撃ち合いの際に一番真価を発揮する。闘争本能の強い男性の特徴をフルに発揮するCSGである。

 SRBに比べ、撃ちまくる事を前提とした設計になっているので雌結晶の窒息を極限まで抑えた設計になっている。よって雌結晶本体の消耗はSRBより激しいが、その分連射性能と攻撃力が高く安定するようになった。SRB同様、手動コッキング(呼吸))のNタイプもある。

 ちなみにこれを女性が撃つと、『余計な力が入ってしまう』『SPSより重たく感じる』『どこか不快な気持ちになる』ような印象を受けて、実際にAOFの消費効率が極端に悪くなる。男性が撃てば、『手になじむ』『狙ったところへちゃんと飛んでくれる』『期待を上回る高威力』などの好印象を受け、SPSよりAOF消費効率がよい。

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