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白馬が王子さん.  作者: 古森 登夢 
1/2

開いてますよ.王子さん.

初めまして古森登夢と申します.


初めて作品を投稿させていただきます.内容は少し滑稽な男の恋愛の話になります.

色々と稚拙な部分はあると思いますが,楽しんでいただけると光栄です.

よろしくお願いいたします.

目の前の女子高生は唐突に指摘する.


「チャック開いてんじゃん.」


「えっ.うそ!」


僕は視線を落とさないように意識し,迅速かつ円滑に股間へ手を伸ばす.

しかしゴワゴワした指先にそれらしいものが触れることはなかった.


「サイテー.そんなとこにあるわけないじゃん.」


「あっ.」


僕はとっさに両手を後ろに隠し,悟られないように背中の方へ腕をひねる.

しかし,当然チャックまでは手が届かない.

もたもたしているうちに僕を取り囲んでいた5,6人の少年たちも騒ぎ出す.


「きゃははは.このお馬さんおっもしろーい.やっちまおうぜ.」


そういうと彼らは僕の背中へ回り込んで,チャックをさらにずり下ろそうとする.

しまいには,キックを繰り出してくる始末だ.


「ねえママ―.このお馬タンさっきどこをさわってたのー?」


親子連れの母親は,いたいけな少女の質問に答えるわけもなく鋭い視線を

こちらへお見舞いし,少女の手を強く引きながらその場を無言で立ち去った.


当然のことだろう.できることなら僕もここから立ち去りたい.

しかし,この首を羽交い絞めにしてくるガキンチョを始末しなければ,

観覧車の隣に設置された休憩所へ退散することもままならない.

ただでさえ暑苦しく酸欠気味な僕はとうとうその場へひざまづく.

おそらく,目をひんむき,舌をデローンと出した

このお馬さんの着ぐるみにぴったりな光景なのだろう.

少年のけたたましい笑い声がさらに大きくなってくる.

そして,羽交い絞めする手が緩むこともなかった.


頭をもたげると,年の割に嫌に大人びた女子高生が腕を組みながら仁王立ちしている.

彼女が僕のチャックを指摘した時,間違いなく彼女は僕の下腹部あたりを見ていた.

しかも真正面から.

僕は彼女に嵌められたんだ.

今はにやにやしながら僕を見下し,まるで余興を楽しんでいるようだった.

『これじゃあまるで僕がかしづいているみたいじゃないか.このニーソックスのまぶしい悪魔め.』

僕は心の中でそう叫んだ.

こんな時でもしっかりと足を観察している自分の性が悲しい.


少年たちを振りほどこうにも彼らにケガをさせる訳にはいかない.

僕はみんなに夢と希望と笑いを届ける遊園地の王子,お馬さんだ.

このままではらちが明かないと判断した僕は目の前の女子高生に悟られないように

なるべく押し殺した声で,ガキンチョの耳元にささやいて見せる.


「てめえらのチャックもあいてんぞ.」


「えっ.」


途端に僕の首を抑えていた腕が一瞬緩む.

その隙をついて僕は少年の脇を思いっきりくすぐる.


思わず跳ねのいた少年に対峙する形で今度は僕が腕を組み仁王立ちをする.

そして一言.


「君たちもまだまだ甘いな!」


精一杯の強がりだった.


「うわサムッ.ダサッ.」


「何とでもいうがいい.このニーソの悪魔め.だいたい君さぁ.」


「あっ悠君!こっちだよ!待ってよ!」


「ちょっとおい,話を最後まで聞きなさい.」


ニーソの悪魔は僕の言葉を一切無視したまま,金髪と耳にピアスが印象的な

いかにもイケメン臭を漂わす男の腕に後ろからしがみついていきやがった.

後方からは確認できなかったが,おそらくたわわに実ったあの胸を

思いっきりあの野郎にぶつけていたように思う.いや間違いない.ぶつけていた.


二人の会話は全く耳に届かないが,

悪魔はほくそ笑みながら僕を蔑むような眼をこちらへ残し,男の方もちらりと僕へ目を向けた.

男の目はどこか心ここにあらずというような印象だった.

まあ僕には縁もゆかりもないことだ.


自分が今置かれている状況にようやく立ち返った僕は,

ふとあたりを見渡す.

少年たちはとうにどこかへ消えていた.


「わたしもこの緊急事態を早く脱さなければ!」


誰にいうでもなくつぶやいた僕は,お客様に背を向けることなくカニ歩きを続け,

そそくさと観覧車の方を目指した.


一悶着のあった入場ゲート前の広場には,ただただお客様方のにぎやかな声がこだますばかりだった.


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