7話「悪夢と天国の間に・・・」
Hero7:悪夢と天国の間に・・・
・ある日、UFOと思われる物体が空から落ちてきた。
場所は英雄部部室のすぐ近く。
元々校舎そのものから2棟離れた別棟にあるため
中々他の学生は近寄れない。
下手に近寄れば防衛ロボット・ガインに襲われるためだ。
「・・・よくよく考えるとコイツなかなか謎な存在だよな。」
由良がびくつきながらもその脇を通って部室に向かう。
「最初に一人で部室に行こうとした時は燃える三眼に
ひたすら追いかけられる悪夢を一瞬の間に72時間分見させられたからな。」
「・・・それはご愁傷様です。」
赤羽がやや困ったように言う。
現在英雄部の傍らに落ちた物体は英雄部が取り囲んで
周囲との接触を避けていた。
多くの生徒や関係者はまた英雄部が何かやらかしたのだろうと
咀嚼して次第に野次馬は消えていった。
「で、これは何なんだ?」
落下物調査係であるトゥオゥンダとジキルが宇宙服を着て調査に向かった。
落ちていたのは人間の脳みそのような物体だった。
「・・・脳みそ?」「けど動いてるぞこれ。」
二人が恐る恐る近付くと、急にそれは悶えて飛び跳ねる。
「わっ!」
そして驚く二人の前で猫とカラスが融合したような姿になった。
「vbt7lcv6ur5v6i5lo9 .;pcvytk6ihyxt6c」
「え、宇宙語・・・!?」
「rhfvyjbgbkn・・・・いや、済まなかった。
ここでの言葉がわからなくてね。
僕の名はゼラギロ。本当はもっと長い名前なんだけど
地球人の舌には発音できないし面倒だからこの名前でいいよ。」
それは少年のような少女のような声で喋った。
「キエエエエエアアアアアアアアア!!
シャベッタァァァァァァァァァァァッ!!!!」
・とりあえずゼラギロを部室に連れて行く。
今日は珍しく零がいない。
「珍しいな。いつも授業をサボることはあっても
部室にはほとんどいるのに。」
「ああ。風邪でもひいたかな。」
「で、ゼラギロ。君は?」
「ああ。ここから120光年離れた星から来たんだ。
僕のいた星はここと違ってもうちょっと小さくて陸地がなかった。
だからさっきから足がガクガク震えて・・・」
確かに話すゼラギロはどんどん足を震わせていて
今にも崩れ落ちそうだった。
だから普通に飛んでいただくことにした。
「済まないね。この星は陸生生物が多いから
形だけでも合わせようと思って足を生やしてみたんだが
ここまで直立というのが難しいとは思っていなかったよ。」
「俺達の事は気にしないでいい。で、どうして地球へ?」
「ああ。僕の星はそろそろ寿命が来るんだ。
この星で言う台風あるいは竜巻に近い気流が形となったのが
僕の星・メイヌパツェリナだ。僕達は基本風に飛ばされながら生活している。
その風の流れは6000年しか続かない。
だから僕達は6000年に1度風の吹く星を
探してそこに移住するようにしているんだ。
宇宙では僕達を風の旅人と呼んでいる事が多いんだけど
残念ながらこの星は他の星との交流が極端に少ないみたいで
あまり僕達の事情は知らないみたいだね。」
「まあ、そういう設定多いからな。」
「実際確実にいるって科学的に証明されていながらも
いるはずがないって思ってる人間の方が圧倒的に多い星だし。」
「だろうね。でもそういう星は珍しくないよ。
宇宙最強クラスの名にふさわしいけど
自分と同等以上の存在としか交配できない種族であるヨキア星人だって
200年前までは自分達以外に宇宙人が存在しないと思っていたくらいだから。
尤もそのせいであの星の文化は崩壊してもう残りわずかしか
生き残りがいないんだけどね。で、いいかな?」
「え、何が?」
「僕達この星に移住したいんだけど。」
「お前一人だけじゃないのか?」
「ああ。僕は調査員。成層圏に2溝人を乗せた宇宙船があるんだ。」
「えっと、にこうにんって?」
「確か兆の次の次の次の次の次の位だったな。」
「・・・は!?いや、待て待て。
流石にそんな人数の移住はきついんじゃないのか!?」
「面積なら気にしないでくれ。
僕達は今はこんな姿をしているが実際は1ナノメートルほどしかない。
この星の王族たる微生物みたいなものさ。」
「微生物が地球の王族?」
「あれ?君達は知らないのかい?
地球上で一番数が多い生物は彼ら微生物だよ。
彼らが活動しなければ君達人類は誕生も生活も出来ないんだ。
さすが宇宙で一番自分の事を知らない種族と言うのは違うね。」
「・・・馬鹿にされてないか?」
「・・・いや、恐らく事実だろうから文句は言えないな。」
「それにその微生物達を率いるこの星の王は
君達人間と同じ姿をしていると聞いている。
君達が僕達の事を認めればそれはそのまま王との情報交換になる。
誓って君達人類や微生物達の悪影響にはならないよ。
だから、いいかな?」
「・・・俺達としては全く構わないけれど・・・。」
「けどやっぱり俺達だけでそういうスケールの大きい話は・・・」
「・・・いや、いいんだ。
この会話は空気宙を漂う微生物を通じてその王にも伝わっている筈だ。
だから僕はそろそろ仲間のところへ帰るよ。
この星の大気に適応するためのデータは大体揃った。
もし移住が決まったらまた君達と会ってもいいかな?」
「・・・ああ。」
「歓迎するぜ。」
「・・・ありがとう。」
それだけ言ってゼラギロは本来の姿に戻って成層圏にまで去っていった。
・成層圏。
ゼラギロが自分の母船を探している。
だが、何故か姿が見えない。
「・・・?どうしたんだろう?たしかこのあたりの座標だったはず・・・」
「・・・・・・」
「え?」
直後彼の1ナノメートルの体は無数の微生物によって
跡形もなく食い尽くされた。
「・・・最近増えてきたな。」
・翌日。
「ってことがあったんだ。」
「へえ、そっか。」
大学の食堂でトゥオゥンダとジキルから零が話を聞く。
「結局どうなったんだろうな?」
「さてな。まあ、二度とはお前達の前に姿を見せないことだけは確実かな。」
「・・・へ?」
それだけ言って零はラーメンを食べ尽くして食堂を後にした。
「・・・いいの?」
「・・・お前が言う話じゃないだろう。」
食堂を出たところ、零が明代とすれ違う。
わずかその一瞬で一言ずつだけ交わした。