1話「抱擁は爆走の後で」
パラレルフィストの直前に書いていた作品。
よってここで言う前作は紅蓮の閃光及び飛べない百舌の帳。
前々作は心輝人形です。
現在進行形でエタり掛けていますので続きは気にしないように。
Hero1:抱擁は爆走の後で
・大学生である青年トゥオゥンダとジキルは見てしまった。
自分達と同じく高校時代からの仲である黒主零が
10万トン級フェリーを持ち上げてまるで地中のアリを
吸い込むアリクイのように船内から一人の幼女を吸い寄せ、
それを完了すると持ち上げていたフェリーをボウリングのように
車道に投げ飛ばしてピンがごとく高層ビルを次々となぎ倒していった光景を。
・それは今から2時間前。
自宅からメルセデスベンツを走らせて大学に向かっていたジキルは
途中でトボトボ歩いて登校中だったトゥオゥンダを拾って
大学への道を辿っていた。
さらに最寄駅の周辺でゼミとサークルが同じ女子である近藤智恵理も拾った。
「言っておきますが私は男性には興味がないので。」
そう言うとコートの上を脱いでまるで某改造人間ライダーのような
スーツを下に着ていてベルトのスイッチを押すと体にバリアを張った。
このバリアにY染色体保有者が触れると2%から5000分の1%の確率で
EDになってしまうという非常に凶悪な効果があるらしく迂闊に触れない。
「ただ送るだけだっての。」
「まあ分かっていますわ。
もう3年目ですからね。あの人ならともかくあなた方に女性を襲う度胸があったら
いつまでも男としかつるまないような可哀想な大学生活を送っていませんものね。」
「余計なお世話過ぎる!」
「ってか普通に傷つく。」
そんなこんなで大学に到着。生徒用駐車場に停車。
3人が車から下りて校舎に向かう。
と、その校舎から黒服の男が3人程全速力で走ってきた。
脇にはまだ小学生低学年程度の少年が抱えられていた。
何故か股間を押さえながら白目剥いて泡噴いていた。
そしてその数秒後には、
「待てゴルァァァァァァァァッ!!!!」
そう。
3人の所属するサークル<英雄部>の部長であるあの男が、
黒主零が鬼の形相で全力疾走してきた。
「いやお前が待て。」
「ぐげっ!!」
すれ違い際にトゥオゥンダに襟を掴まれてすっ転ぶ。
「なぜ止める!?」
「いや状況を説明しろよ。何があったんだ?」
「・・・ああ、そうだな。・・・・冷静に冷静に・・・・。」
「まずさっきの連中何だよ?」
「学園長の孫とそのSP。」
「・・・で?」
「ああ。あの孫と賭け麻雀してな、
負けた方が勝った奴の点数の100倍のカネを払うって約束だったんだが
こっちが圧勝しちまってな。最終的に38000点。
つまり380万儲かった訳だが即座に払えないとかぬかしやがったから
ちょっと玉握りつぶして脅したら逃げやがった。」
「・・・お前さ、自分が何部の部長だか少しは考えたことないのか?」
「とにかく追うぞ。まだ遠くには行ってないはずだ。」
そう言うと零は3人を持ち上げて駐車場まで走る。
・・・はぁ、滅茶苦茶気が進まねぇ・・・」
「ほらたったとレッツラゴーだ。この中で運転免許持ってんのはお前だけなんだ。」
「それ以前に俺の車なんだけどな・・・。」
ともあれ再びジキルが車を出して零を加えたメンバーで
前方を走る黒塗りの車を追いかける。
追いかける。追いかける。
追いかけ追いかけ追いかけ追いかけ追いかけ追い掛け回しまくる。
信号も無視してひたすら追い回して気付けば200キロ離れた埠頭。
「流石にあいつらも海の外までは付いてこれないだろう・・・!」
3人が孫を抱えてフェリーに乗り込む・・・のだが、
「あぁん?なんだテメェらは!」
あまりに急いでいたからか某ヤーさんの海外逃亡用フェリーに乗り込んでしまった。
当然3人揃って射殺!苦しみ悶えた孫は拉致された。
「ちっ!横取りされたか!」
そこへ零達が到着したが同時にフェリーは出港してしまった。
「・・・ガソリン代が・・・免停が・・・・」
ボツボツ呟き伏せるジキルを尻目に零がフェリーを眺める。
と、窓際に一人の幼女を発見した。
まだ5,6歳程度だろう。しかしまるで妖精のように可愛らしい。
そんな彼女と目が合った。
いや、距離があるから向こうはただこちら側を見ただけだろうが。
しかしそれだけでこの男の魂に火が付いた。
「欲しいモノがありゃ全力で追いかけて奪い取る。
それが男・黒主零の仁義!さあ!勝利という名の侵略の采配を奏でん!!」
そう言うと再び鬼の形相で全速力で走り出す。
「あ!あの馬鹿!!」
3人が止めようとするも間に合わず、
走る。風になる。1秒を惜しんで。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
海の上を走り、数秒で数百メートル前を進むフェリーに追いつき
船底からその重量を持ち上げる。
「な、何だ!?」
「幼女以外要らぬわ!」
そしてアリクイばりの吸引力でロックオンした幼女を引き寄せると
ボウリングのようにフェリーを陸めがけて投げ入れる。
「イィィィィィィリィィィィィィィィイイイイヤアアアァァァァッ
ホゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥイィィィィィァッ!!!」
音速で投げ飛ばされたフェリーは車道に滑り込み、
無数の車や通行人、高層ビルを次々と巻き込んで
最終的に5キロ離れた警察署に突っ込んでいった。
「・・・・相変わらず無茶苦茶だよな、あいつ。」
「・・・もういろんなものが圧倒的すぎて言葉も出ない。」
「甲斐さん、すごいですものね。」
3人が呆れながらそれを見つめていた。
「ほぉら君、大丈夫かい?」
「・・・え、あう、あうあう・・・・」
零が救出した幼女を抱き上げる。
「君、名前は?」
「・・・まほろ。本郷まほろっていいましゅ・・・」
「ヒャッハァァァァッ!!奪った甲斐に見合う可愛さだぜぇぇぇっ!!」
黒主零。本名:甲斐廉。大学3年生。英雄部部長。
能力:あらゆる秩序や法則を考慮から外して
自他関わらず「奪い返したい」モノのために行動した場合に限り
鬼神と呼ぶのも生温い凄まじい力を発揮できる。
「よし!部室いっくぞー!!」「・・・?お、おー。」
まほろを背負ってものすごいスピードでその場を走り去っていった。
・・・交通という交通が完膚なきまでに破壊されて
数日は車が通れなくなった道に3人を残したままで。