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8/12

その8わ

   ☆ 

 

 

 ロージッタス辺境伯邸の中庭。と言っても庭と言うには広すぎる感が否めないのだが、時には訓練場となりまた時には洗濯物の物干し場となるそんな場所である。

 

 その場所で2人の少女が対峙している。

 1人はロージッタス辺境伯の令嬢エミュティア・ロージッタス。

 かたやこのヒュータスレゲイド王国の王女であるリエラリア・イド・ヒュータスレゲイド。

 

 その傍らには白い仔馬と梟が侍っている。

 互いの間に立っているエーリックは、何とも言いようのない表情をしている。

 近頃幾度と無く心の中で思っている言葉をつい漏らしてしまう。


「これをどうしろと………」

 

 どうやらこの王女様は頑固で意地っ張りらしく、マリアがいくら説教オハナシしても説得に応じなかったのだ。


 即ちエミュティアと対決させろと。

 

 呆れ諦めを含んだ溜め息を吐きつつ、マリアはエーリックに何とかしなさいと丸投げしてきた。

 やれやれどうしたもんじゃろのう〜と心の中でボヤきつつ考えていると、ウズメさんがやって来て試しにやらせてご覧なさいと言って来た。

 

 何かは分からないが、どうやら女神様関連の話とピンとくる。エーリックもたまには勘が鋭くなるのだ。

 そうしてよく分からないながらリエラリアとエミュティアの対決が始まる。

 

 

   ☆

 

 

「いくよ!レリア」

”おっけー”

「いきますわよ。オリエラ」

”はいなですぅ〜”

「「カプラリア!」」 


 2人が声を掛けると聖霊白馬とエミュティア、聖霊白梟とリエラリアがそれぞれ光りに包まれ、その光が弾けると少女の上半身の白馬が、白き羽を携えた少女が現れる。

 

武器えものはこちらから選んで下さい」


 エーリックは持っていた籠をおろし、中にある練習用の武器を指差して2人に選ばせる。

 そうは言ってもエミュティアはともかく、リエラリアは手が翼なので武器を手に持つことは出来ない。

 一体どうするのだろうとエーリックは失礼ながら興味深げに見ていると、リエラリアは翼をすぃと振ると

籠の中の剣3本がふわりと浮かぶ。

 

「すごいのです!りえりー」

“すご〜い”

 

 エミュティアとレリアが感嘆の声を上げると、それを聞いたリエラリアが剣を翼で操り胸を張りドヤ顔を見せる。

 

「そうでしょう。私とオリエラはすごいのですわっ!」

 

 ちろとエミュティアを見ると、すでに興味をなくしたエミュティアはゴソゴソ籠の中を漁って目的のものを手に取る。それを見てムッとするリエラリア。

 何ともエミュティアらしいとエーリックは思う。

 

「私はこれとこれなのです」

 

 エミュティアが手に取ったのは、棒の先端に綿を詰めた布を卷いたたんぽ槍と、弓と鏃に布を卷いた弓であった。

 腰に矢筒をつけて、弓弦をはめ矢筒へ引っ掛ける。

 そして馬上槍の様にたんぽ槍を小脇に抱えて構える。どことなく様になっているのが分かる。

 まぁ、いっぱい練習したもんなぁとエーリックは胸の内で独り言ちる。

 

〝じゃあ、始めましょうか”

 

 互いが距離を取りそれぞれが対峙した時、シズメさんが声を掛ける。

 

 

   ☆

 

“まずは、結界をはるわよ。火精霊サラメリア水精霊ウディーヌおいでなさい”

 

 エーリックの頭で右の翼をスイッと掲げると、赤と蒼の光がふわりと現れる。

 そしてシズメさんが小さく呪文を唱えると、光は四方に幾つにも別れ庭へと広がっていく。

 ある程度の広さにバラけると光は地面に沈み込み薄く光る巨大な魔法陣を描き出す。

 

「すごいのです」

“かっこいーね!”

「な、なんですのこれはっ!」

“さすがでありんすねぇ”

 

 エミュティアとレリアはその光景に喜び、リエラリアは驚愕しそしてオリエラは感嘆をする。

 魔法陣が消えるとそこには長方形で区切られた空間が出来上がっていた。

 

「シズメさん、これって何なの?」

“まほうを使っても意力が上がらないようにしたくうかんね”

 

 シズメさんが何て事無いようにそんな事を言ってくる。エーリックの頭の上で。

 

“それじゃ、えーりっく開始のあいずをなさい”

 

 シズメさんの言葉にエーリックは目の前で対峙している2人を見てああと納得する。

 2人共やる気満々で、リエラレアはニヤリとエミュティアはワクワクした笑顔で相対している。

 やれやれと思いながらエーリックは右手を上に掲げ掛け声と共に下ろす。

 

「始めっ!!」

 

 もうどうにでもなれだ。

 

 

   ☆

 

 

 エーリックの合図と共に2人が動き出す。

 先陣を切りエミュティアがリエラリアへ蹄を唸らせ突進する。だがっだがっだがっびゅーんっ!

 

  5mほどの距離が一瞬で縮められつきだしたたんぽ槍がリエラリアに突き当たると思った瞬間、すかっと空振る。

 

「えっ!ど、どこっ!?」

 

 エミュティアが立ち止まり周囲を見回すがどこにも見当たらない。


「ほほほほほほっ!ここですわっ、ここっ!!」


 上空から声が聞こえてきた。

 その場から掻き消えたと思われたリエラリアの姿は上空へと飛び上がっていたのだ。

 

「かっちょいーのですっ!」

“すっごぉーい”

 

 その姿を見てエミュティアとレリアは立ち止まったまま感心している。

 

「今度はこちらの攻撃ですわっ!」

 

 そうしてリエラリアが翼をつぃと動かすと、ともに漂っていた木剣がくるりくるりと回転してエミュティアへと襲い掛かってくる。


「っ!」

  

 その威力に驚いたエーリックが動き出そうとするのを、頭の上のシズメさんが引き止める。

 

“だいじょーぶよ、えーりっく。この結界エリアの中では物理もまほうも1/10になるのだから。当たってもちょっといたいという程度よ”

 

 シズメさんの言葉に少しばかりの安心と、その光景の荒々しさに不安を交えつつ戦いを見守る。

 ぼさっとしていたエミュティアに、狙い過たず木剣がぱかぱか命中する。


「いたっ、いたたたっ!酷いのですリエリー!」


 木剣から逃れようと右に左に躱しながら避けながら、エミュティアが文句をリエラリアに言っている。

 それを聞いてリエラリアは見下すように笑いながら言い返す。

 

「ほほほほっ。その程度の剣も避けられないなんてお笑い草ですわ」

 

 剣は器用にエミュティアが逃げる方向に先回りして、攻撃をしている。

 その事に気付いたエミュティアは、フェイントをかけ逃げようとした方向とは逆にバックジャンプをして剣の包囲から逃げ出すことに成功する。

 

「うにゅっ!小癪ですわっ」


 剣を手元に戻して再度攻撃しようとしたリエラリアに幾本の矢が襲い掛かる。

 

「にょわっ!」

 

 辛うじて躱したリエラリアに再度矢が翼に向かって飛んで来た。

 

「いたっ、いたたっ」

 

 エミュティアが移動しながら矢を番えつつリエラリアへと攻撃を繰り返す。

 その動きと矢が当たる事によって翻弄されリエラリアは防戦一方となる。

 矢が尽きるのを待っていたリエラリアは、次々射られる矢を不思議に思い辺りをちらと見てみると、射られた矢が風によってエミュティアの矢筒へ戻っているのが目に入って来た。

 

「あなたっ!ひきゅ、卑怯ですわっ!」

 

 あ、噛んだ。

 特にルールも決めずに対決を始めたのに、卑怯も何も無いんじゃないかとエーリックは思ったが、その事は口には出さず沈黙を守る。

 高位の身分の人間に正道を説いても無駄なのは実体験で学んでいるのだ。

 

“あらあら、こまったおじょーさんだこと”

 

 シズメさんがやれやれと言った風な声を出し溜め息をつく。

 

「え、何?シズメさん何があるの!?」


 シズメさんのその声に不安になったエーリックは思わず問い掛ける。

 

“ここなら問題にならないからだいじょーぶよ。ちょっときょーいく的しどうはひつようね”

 

 さらに説明を求め口を開こうとして、ごうと風が吹き荒れるのを感じたエーリックは、そちらを見ると目の前には幾つもの竜巻が渦を巻いていた。

 

「ひえええぇえ〜〜〜っっ!!」

 

 思わず変な声を上げてしまったエーリックだが、今さら止めに入ることはどう見ても出来ない状態だった。

 

「ほほほほほ――――っ!私の最大攻撃を受けなさいっっ!!」

 

 渦巻き3本の竜巻がエミュティアに襲いかかる。

 

「姫様っっ」

 

 エーリックは思わず声を上げてしまう程、凄まじい風がエミュティアへと向けって行く。

 

「行くです!れりあ」

“お〜〜〜〜っ”

 

 たんぽ槍を抱えたエミュティアが。竜巻をものともせずに空中を駆け走り次々と竜巻をひょいひょいと避けて行きリエラリアの元まで行くとえいとばかりに槍を突き出しリエラリアのお腹へと突き刺す。

 

「ほぎゃげっっ!!」

 

 腹部に槍を受けたリエラリアは変な声を上げて身体をくの字に折って落下する。

 

“えーりっく!”

 

 シズメさんの声にエーリックは慌てて駆け出し何とかリエラリアをキャッチして事なきを得る。

 肝心のリエラリアは目を回し気絶していた。


“しょうしゃ、えみゅてぃあ”

 

 空中から駆け下りたエミュティアにシズメさんが勝利宣言をする。


「勝ったのです!エーリックはわたしのものです!」


 槍をブンブン振り回しそんな事を言っていた。

 いつからそんな話になったんだろうかと、エーリックは疲れたように肩を落とす。

 

 こうしてはじめての対決は幕を閉じたのだった。 

 


(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます

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