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その7わ

   ☆

 

 

 べそべそ泣いている鳥の少女にエーリックは溜め息を吐きながら胸元から取り出しだ手布巾ハンカチを差し出す。


「涙を拭いて少しだけお話を伺ってよろしいですか。お嬢さん」


 差し出された手布巾ハンカチを翼で受け取りぐしぐしと顔に少女が当てる。お約束通り鼻チーンをしてエーリックへと返してきた。


「…………」


 しばらく躊躇した後、仕方なしに使用済み手布巾(それ)を受け取り折りたたんで手に持っておく。


「あなた大変良くってよ。光栄に思いなさい。私の臣下にして差し上げます」


 少女が身体をくるりと回転させ、右翼をエーリックの前へと差し出す。

 突然の言葉に理解が及ばず沈黙していると、エミュティアがエーリックを庇うように少女へと立ち塞がる。


「エーリックは私の臣下なのです。あなたの所へは行かないのです」


 いつの間にやらエミュティアの臣下にされているエーリックは否定しようと口を開けるが、時すでに遅く少女が先に宣戦を布告していた。


「ほーほっほっほっほ!ならばこの私、ヒュータスレゲイド王国第15王女、リエラリア・イド・ヒュータスレゲイドと勝負して勝つことですわ!!」


“もてもてね、えーりっく”


 紅姫藍鳥のシズメさんが可笑しそうにそうエーリックに話しかける。

 

 

   ☆

 

 

 この状況をどう打開したらいいのか、エーリックにはさっぱり手の付けようが無かった。

 何故こんな所に王女様がやって来てるのか、どうして鳥人の姿なのか。問い質したい事はいろいろあるのだが、だたの文官見習いにはあまりにも荷がかち過ぎた。


 王女とエミュティアが睨み合っていると、騒ぎを聞きつけた侍女頭のマリアがやって来た。これで事態が打開するかとエーリックは安堵する。


「姫様、時間でございますよ。何をやっておいでなのです。先生がお待ちしていますよ」


 安堵したのも束の間、マリアはエミュティアを呼びに来ただけらしい。 

 

「えーりっくの危機なのです。マリアも助けてくださいなのです」

「さあ、エーリック。わたくしの手を取り臣下となるのです」


 右の翼を前に出しそう王女が言ってくる。いや、だから僕はこの辺境伯領の文官見習いであると言おうとして口を開けると、マリアが王女に気づき丁寧な物腰で話しかける。と言うかその姿に驚かず平然としているのは、凄いのひと言だなぁエーリックは思う。


「おや、お久し振りですねお姫様(ひぃさま)。ところで公務にも出られずに(がっこうをさぼって)何をされてるのです?」


 マリアの視線が王女を貫く。そしてマリア(まおう)の存在にやっと気づいた王女―――リエラリアは目を見開き驚く。


「なっ、なっ、何故マリアがここにいるのでうっっ」


 あ、噛んだ。

 

 

   ☆ 

 

 

 瞬間、リエラリアの身体が光りに包まれ弾けると、白い大梟とエミュティアと同じ年頃の少女が現れてくる。


「えっ、なじぇ?」


 噛みながら、慌てて自分の身体を見回すリエラリア。どうやら心身合一(カプラリア)が何らかの原因で解けてしまったようだ。

 白い大梟はそのまま羽ばたきながらレリアのいるテーブルへ降り立つ。


“はじめましてー、オリエラいいますぅ”

“こんにちはー、れりあだよ!”


 なんか仲良く挨拶を交わしている。そしてレリアはオエリラと名乗った大梟にテーブルの上の果物を一緒に食べようと差し出している。


“いいでありんすかぁ〜?”

“いいよ〜。えーりっく、おかわり〜”


 レリアは留まることを知らずエーリックへお替りを要求してくる。

 現実逃避するようにエーリックはそそくさと厨房へと向う。


 そして一方ではスネクルに睨まれたフロッガスのように脂汗を垂らしながらリエラリアがマリアと対峙していた。


「なじぇ、マリアがここにいるのです………」


 再度リエラリアがマリアへとそう問い掛ける。エミュティアは、何故リエラリアがマリアを見てこんなに怯えてるのか分からず首を傾げていた。


「私はもともとこちらのロージッタス辺境伯様の所でお世話になっているのです。お姫様にご挨拶した時に確かに話したはずですが、よもやお忘れになっているとは………」


 マリアが呆れるように首を振る。その姿にリエラリアはヒィッと小さく悲鳴を上げ顔を蒼褪めさせる。

 エーリックの前で両手を広げていたエミュティアはその様子に危険を察知し、令嬢のようにスカートを手に取り軽くお辞儀をして挨拶をして館に戻る。


「では、行儀作法の時間なので部屋に戻ることにいたします。ごきげんよう」


 軽くレリアと言葉を交わし、エミュティアはささささーと館へと去っていった。最近はこの様に要領が良くなったというか、世渡りが上手くなったというか。

 エーリックが果物を持って戻ってきた時も、まだ2人はその場に留まっていた。

 マリアさん厳しくね?とエーリックは心の内で思っていると、次席侍女がやって来てマリアに用事を告げてくる。


「マリア様。アルガガイナ様がお呼びになっています。至急とのことです」


 マリアははぁと溜め息を吐くと、リエラリアを眇め見て話しかけ(めいれいす)る。


「お姫様。いろいろお聞きしたい事がありますのでこちらにおいで下さい」 

「ひゃい」


 噛みながらマリアの後ろへしずしずと付いていった。

 噛むのは彼女のデフォルトだよなぁとエーリックがしみじみ思った。


 そのまま次席侍女がレリア達と果物を食べだして、後でマリアにこってり絞られるのもデフォルトだ。

 

 

 

    ☆

 

 

 いつもの魔獣ぼうえいたいいん達との会合でエーリックは不穏な話を三尾黄狐のコナから聞かされる事となる。 


「へ?女神様からの許可ってどういう事?」


 エーリックは彼等が持って来た野菜や肉等を使って焼き物を作っていた。

 いつの間にやら果物等の収穫ばかりでなく、畑を耕して野菜等を作ったり獣を捕まえて柵で囲った中で飼育したりしていた。

 魔獣ぼうえいたいいん達はそれらをエーリックへと貢ぎ物として持って来ているのだ。


「なんでも時間は在るけど、余裕をもって対処した方がいいとか言ってました。あと、あの方にも困ったものだわーとか言ってましたね」


 何気に情報通がこんなとこにいた事に驚くエーリック。そんな会話を交わしながらも手は忙しなく動かしている。

 この世界で何かが起ころうとしている。もしくは起こるかも知れないと女神さまとやらが、心身合一カプラリアが使える様にしたみたいだ。

 発端はエミュティアがレリアと心身合一カプラリアしてしまった事が原因らしいが。


 エーリックはそんな事を考えながらも、葉野菜を千切りにし根菜をみじん切りにして、水で溶いた小麦粉で和えて混ぜ合わせたものを、フライパンに円く形作ってその上に薄切り肉を乗せて次々と焼いていく。

 基地の中に美味しそうな匂いがぷわんと漂ってくる。

 

 焼き上がったものを取り皿に乗せを繰り返していく。

 料理の補助をしている熊魔獣のガルガノが素揚げした小芋を皿の脇において茶色いソースかけていく。何気に器用な事をしている。

 その上に大振りに切り取った乾乳バターを載せて出来上がりだ。


 テーブルに隊員の分の出来上がった皿を皆が運んで持っていく。

 いつの間にやら大所帯になったなぁとエーリックは感慨深く思ってしまう。

 さりとて何やら不穏な雲行きになってきそうな予感を感じつつ、みなで頂きますをして料理を食べる。


 もちろんその予感は的中するのであるが。

 

 


(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます

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