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その5わ

   ☆

 

 

 涼やかな午後の風に吹かれながらエーリックは1年ほど前の出来事を回想する。あの後からエミュティアと何とか夕暮れ迄に戻ることが出来たのだ。

 しかし誰もが姫様が遠出したなどとは気付かずに首を傾げていたのだが、報告がなされていなかった事に驚きながらも少しだけ2人で安堵し何食わぬ顔で辺境伯邸に帰ったのだ。

 だが次席侍女のからの報告でバレてしまい、マリアに4人(エミュティア、エーリック、ゲーレメーテ、次男坊)こっぴどく叱られてしまった。


 その頃から何故か侍女長にエミュティアの面倒を見させられることが多々あり、周囲にはやりやがったな等と囃し立てられたり妬まれたりしたもののエ―リック本人は迷惑と面倒の種でしかなかった。

 宮仕えの悲しき定めか。

 あれ以来素直になったエミュティアは、それ程の問題も起こさず素直に言うことを聞くようになったらしい。(エーリックが面倒見てる時以外)

 エミュティアとレリアに翻弄されながらも、英雄兵士の血から離れられている今の生活に不満は無かった。


 たった一つのことを除いては――――



 エミュティアを屋敷まで見送ってから辺境伯邸を出て、とある場所へと向かう。

 あの時知り合った彼等と会うために。



  ☆



 そこは辺境伯邸から北へ街道を進み西へ外れた森の中にある。

 そしてその森の中央には森の管理をするという名目で建てられた粗末で小さな小屋がぽつんと存在していた。元々はエーリックが1人で暮らしていた小屋だったのだが、今ではとある部隊の集会場と化していた。

 エーリックは小屋の中へと入り静かに扉を閉める。小屋の中は狭く何も無くがらんどうだ。


「キリカケノキリクケリノケキリ」


 胸から取り出したペンダントを目の前に掲げ精霊文オプタールを唱えると、床に精霊方陣オプタレカサクレルが展開し青白い光を発しながら輝きを増す。

 次の瞬間エーリックは別の場所―――ーこの小屋の地下へと転移する。

 そこはかなりの広さを備えた邸と言っても差し支えない規模の室内であった。


「ガガウガウガァーッ(うっ、待った。それ待った。)」

「ギャギャウン、ギャウ(だめです。もう3回目ですよ)」

「……ガウガウーン(まいりました)」


 目の前では床に座り込み、熊魔獣ベアーガのガルガノと狼魔獣ヴォルテンのヴァルバンが模戦盤を挟んで遊んでいた。

 模戦盤とは基本9×9に仕切られたマス目に歩兵、王、騎士、魔術師、僧侶の駒を配置してそれを交互にひと駒ずつ動かし相手の王を攻める遊戯だ。

 基本9×9であるが、大きい物になると100×100とかさらにその上のマスで何ヶ月も掛けて戦ったりするものもある。

 ハンデ戦として50対10とか100対50対50対50等の複数対戦なんかもある。

 さらに駒のバリエーションも豊富で竜騎士や姫騎士など、地方によってはその地でのルールなんかもある。

 貴族から平民まで楽しまれているものだ。


 そんな2体を眺めていると、エーリックに気づいたガルガノが鋭い牙を見せて口元を歪める。笑っているようだ。


「ガガガウガウガガァーッ!(隊長お待ちしていました!)」

「ギャウンギャギャウーッ!(本日も異常ありません!)」


 まるで敬礼をするように、2体は立ち上がりエーリックに挨拶をしてくる。

 エーリックは小さくはぁと溜め息をする。



   ☆


 

 未踏破樹海でのその後、魔獣の言葉を聞きシズメさんがこんな提案をしてきた。


〝えーりっく。この子達のことなんだけど、ヒメさまの眷属メテリアにしてはどうかしら〟

「眷属ですか?」

〝ええ、こんな風に従順なのであれば魔王の尖兵として討伐するのではなく、聖霊人馬ケンタウロスの眷属として仕えて貰うのがいいんじゃないかしら”


 魔獣であれ無抵抗の生き物を殺めるのはさすがに気が引けるので、その提案をエニュティアに相談してみる。


「姫さま、彼等はこの森をただ守りたいだけなのだそうです。姫さま達のお力添えで彼等を眷属にして頂けないでしょうか?」


 魔獣は即討伐がこの世界のルールではあるが、エーリックはシズメさんの提案をエミュティアに頼む。彼女にしてみれば、面倒な事この上ないと承知の上である。

 エミュティアの答えは実にあっさりしたものだった。


「いいですわよ。この子が私達の眷属?というのになるんですわよね」

”レリアもいいよ―“


 2人が了承して、シズメさんが魔獣を並ばせて眷属メテリアの儀を始めようとすると魔獣が声をかけて制止してくる。


「ガウンガガガゥゥンガガオオウ(俺、わたしの仲間も眷族にしてくれませんか?でしょうか)」


 ちょこんと正座をして右脚を出して待ったをしている姿は何とも愛らしいとエミュティアは感じた。

 レリアも同じだったらしくエミュティアに近寄り耳元で囁く。


“くまさんかわいいね”

「レリアもそう思いますか?一緒ですね」


 クスクス笑いあう2人を脇目にガルガノに話をを聞くことにする。


「えーと仲間なんているの?」

「ガガウ!ガウウガガウウウンガガガヲオヲオン(はい!俺、わたしとおんなじような魔の獣が数人いるのです)」


 魔王に支配されてない魔獣が他にもいるということらしい。どうしようかとシズメさんを見ると、いいよと言うように首を縦に振り、エミュティアを見るとさもありなん親指をぐっと立てて笑顔を見せる。


「それじゃ、その仲間を呼んで儀式を行いましょう。時間かかりますか?」

「ガオンガオンガオガオガオン(大丈夫です。すぐに呼びます)」


 ガレガノはスタッと立ち上がり前足を口元に添えて声を上げる。


「ガガガガガガオガオオォオォォォン!(俺はここだよ。全員集合)」





 小屋下の広間には、さっき迄はいなかった他の魔獣がそれぞれの部屋からやって来ていた。


「カアアアアッ!カッカカッカ!(隊長いらっしゃいませ)」

「ギャンギャンギャギャン(にぃちゃん先に遊んじゃダメッ)」

「シャアーシャシャシャアアアアァァ(おっす隊長)」

「グルルルグルルグルゥウ(来てたんですね隊長)」

「あ、大将。おじゃましてマース」


 広間に続いている扉から次々と魔獣が出てくる。

 そして嬉しそうにエーリックへと挨拶をしてくる。

 出て来た順に烏魔獣のクアラ、狼魔獣のカミオ、蛇魔獣のパイソ、虎魔獣のタイレル、三尾黄狐のコナが矢継ぎ早にエーリックに話し掛けてくる。

 ちなみにコナは狐の聖霊獣で他は│鎖外れしチェレスタの魔獣たちである。

 それぞれがエミュティアの眷属となり、森の中で暮らしている。

 どうやら魔族の影響は受けなくなったようだ。


 月に1、2回彼等はこうしてここにやって来て、隊長であるエーリックに森の恵みを渡しにやって来ていたのだ。始めは遠慮していたのだが、どうしてもという彼等の言葉と次席侍女の甘味を求める脅迫に押し負けて受け取るようになっていた。


 そう、眷属となった未踏破樹海の魔獣達はエミュティアの森防衛隊として森の平和を守っていたのだ。

 そしてエーリックは何故か隊長に任命されてしまった。


 エーリックは溜め息をひとつ吐き彼等の報告を聞く為、隊長席と書かれた椅子へと座る。



(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます

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