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10/12

その10わ

   ☆

 

 

 ロージッタス辺境伯領への裏街道の1本道を、スタタタと微かに足音を鳴らして少女が1人走っていた。

 生成りのシャツに革のベストに膝丈のズボン。背中にはの荷物袋を斜めにかけて腰には短剣を履いている。

 領民が普段着るような目立たない服装を身に付けながらも、白髪に近い銀のショートヘアに眠たげであるが煌めく朱の瞳が無表情であるその顔に印象深く映える。

 常人には出せない速度で、街道をひた駆ける。

 

“あとどれくらいなの?リディー”

「あと半日くらい………だと思う」


 よく見ると少女の側に同じ速度で這い進む白蛇の姿がある。

 

“どんな人たちかたのしみだね”

「誰が来ても私の敵ではない。使命を果たす」

 

 白蛇の脳天気な言葉に、少しだけ顔を顰めて少女が答える。

 そう、少女は使命を果たすためにここまでやって来たのだった。

 

 聖霊獣の加護者を倒すために。

 お父様の野望を達成させるために。

 心に改めて決意を秘めて少女ーーーリディエンテ・バウ・レイデアンツは街道をひたすら走り続ける。

 

 バタン!あ、倒れた。

 

「………おなか空いた………」

“だよねぇ〜3か3ばんのまずくわずではしってればそうなるよね”

 

 白蛇がしたり顔?でそう呟く。

 

 

   ☆

 

 


 エーリックの朝な何気に早い。文官の誰よりも早く出所して室内の清掃と書類の整理や雑事などを行なっていく。

 そしてたまに置かれている素案募集箱を見て適当に思い付いたことを書いて入れる。

 その頃になると他の文官見習いの先輩がやって来て指導という名のシゴキめいたことがあるのだが、エーリック相手には何故か(というか仕事が文句なく熟されてるので)罵るだけに留まる。

 

 朝礼で上司への報告を終えるとしばらく執務に就き、その後厨房へ向かい昼食とおやつの下拵えと作製を行う。

 相変わらず防衛隊のお土産(みつぎもの)は絶えることがないので、この機会に使わないともったいないのだ。

 何故か厨房にはエーリック専用の作業台が置かれており、申し訳ないと思いつつ利用させてもらっている。

 後ろにいる副料理長はあえて無視している。あれこれ聞かれないだけ今は大分マシになった。

 

 午前中はエミュティアとリエラリアは室内で稽古事や勉強の時間なので、特に煩わせることもなく作業が進む。

 こうしてお菓子と昼食用に料理を作り上げて、厨房を後にする。

 今日のお昼はポマトと葉野菜とトリ肉を挟んだバゲットだ。あとはキャロレとパプーキンのプリン。

 おやつ(これ)は次席侍女を筆頭に侍女達が必ず作れと詰め寄られているので、仕方なく大量に作り上げていく。(逆にこっちの方が大変になっている)

 

 こうしてお昼になると、エミュティアと何故か一緒にリエラリアがやって来て大抵は食堂で、たまに外のテラスで昼食を摂ることになる。

 これがエーリックの午前中のいつもの仕事ルーティンワークだ。

 

 

   ☆

 

 

「今日こそ貴女に勝って見せますわっ!フフフフ、ホホホホホ―――――ーッ!」

“りーちゃんてぇいっつもげんきだよねぇ”

「元気なのはいーことだとマリアも言ってたのです」

 

 いつもの演習場のいつもの光景たいけつ

 数日前からエーリックに加わった仕事の1つとしてエミュティアの付き人という役目が増えた。

 何やら上層部の方でその様な話し合いがなされて、エーリックへと辞令が下されたのだ。

 

 普段であれば自分の机に向かって書類の整理と作製の時間なのだが、行儀見習いの授業を終えた2人は食事おひるを摂ると王女が必ず対決を申し込んで(ねだって)くるのでエーリックも駆り出される事となる。

 

「んじゃー結界敷きます」

「うん、やっちゃって」

「ほいほ〜い」

 

 今日はシズメさんが来られないとのことで、代理と言うかもう専属にされてしまった三尾黄狐のコナが演習場に結界を敷く。

 周囲からの防御と被害を抑えるための結界が2人周囲に広がっていく。

 何と便利な事にこの結界は、周囲に人間には視えないというありがたいものであり、通りがかる騎士や文官もエーリックがただ突っ立っているようにしか見えない。

 

 ここで誰も突っ込まないのは、朝礼の時にエーリックに対しては別の仕事があるのでということで、放っておくように指示が為されていたからだ。

 だが、そう言われても聞かない人間というのはどこにでもいるのだ。もしくは知らずにいた人間など。

 ほらここにも1人。

 

「エーリック!貴様こんなところで何をやっている!!早く仕事場に戻らんか!」

 

 今ここが仕事場なんですが。エーリックは心の中でそう呟きつつ、前もって用意していた台詞を彼に告げる。


「侍女長のマリア様をここで待ってるんですが、仕事場に戻ってよろしいんでしょうか?では代わりに待っていて貰えますでしょうか?」

「えっ!あっ、いや、分かった。ケリックには言っておいてやる。ありがたく思え!」


 朝礼にも出ずにこっそり仕事場に来ていた別部署の先輩文官は、その言葉を聞き慌てるように後退り捨て台詞を吐いて逃げるように戻っていった。ケリックとはエーリックの上の先輩だ。

  

「何だったのです?あの者は」

「んーと、仕事の成果も上げないのに他人を羨む馬鹿なのです。とマリアが言ってたのです」

“ふーん、ひとっていろいろたいへんだね”

“やんすねぇ〜”

 

 いつの間にか勝負が終わったのか、心身合一を解いたエミュティアとリエラリアが後ろに立って話をしていた。

 どっちが勝ったかなど、推して知るべしか。エーリックは1人小さく溜め息を吐く。

 おやつの時間までは、エーリックが2人に模擬訓練をすることになるからだ。 


 

 

   ☆


 

 模擬訓練と言っても、心身合一をしないままで対人戦闘をするというだけなのだが、それぞれが剣と槍や弓を使ってエーリックと対峙するのだ。

 

「ちぇい!ちょあ!ちょにゃ〜〜〜っっ!」

「姫様、技の繋げが鈍いですよ。もっと滑らかに」

 

 左でエミュティアと。

 

「ほほほっ!ほほほっ!ほっほ〜〜〜っ!」

「はい、王女様。今のところはもっと素早く。戸惑うと攻撃の的ですよ」

 

 右でリエラリアと戦っていた。

 30分後。2人が四つん這いになり息も絶え絶えなのにエーリックは何とも無いように立っている。

 さすがに2人相手は少々きつかった。でも同時に相手にしないと機嫌を損ねるのだからしょうがない。エーリックは溜め息混じりにそう独りごちる。

 最後はおもちゃの弓を使って、どれだけ相手の的に当てるかの対決だ。

 先端が吸盤の矢を使ってのことなので、余程のことがなければ問題ない。

 

「うらりゃりゃりゃあ〜〜〜〜っっ」

「ほほほほほほぉお〜〜〜〜〜っっ」

 

 飛び交う矢を躱し、撃ち落としながらそれぞれが射って行く。

 パンパンパンと身体に取り付けた紙風船が次々と割れていく。 

 全ての矢が打ち尽くされて、訓練が終了となる。

 それぞれの目の前に立てかけられた的と、割られた紙風船を数えて勝敗を喫する。

 

「きぃいいっっ!また負けたのですぅううっっ!!」

「私も負けたのです………むぅ」

 

 美味しいお菓子(ごほうび)が掛かってるので、かなり本気の本気でやっていた2人だが、まだまだエーリックには及ばなかったようだ。

 その時、何処から視線と敵意を感じた3人は、足元に落ちていた矢を拾いその方向へと矢を放つ。

 

「!」

「そこなのです」

「ほほっ」

「うぎゃっっ」

 

 すぽぽぽんっと小気味良い音が響いたかと思うと、ドサリと何かが木から落ちてきた。

 おでこに3つの矢が着いた少女―――リディエンテ・バウ・レイデアンツ。白銀のショートヘアの少女が目を回して倒れていた。

 

 

 


(-「-) お読みいただき嬉しゅうございます

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