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互助会

「なんだよ、『互助会』って年寄りくさい」

 年寄りくさいのは、まあ、俺もそう思う。

「転生者が『お互い』に『助け合う』から互助会だ、別に転生者じゃなくても、相談に行けば助けてくれるがな。」

「うわぁ、昭和……」

 ここで大事なのはセンスじゃないんだ。多分。



「ちなみにお前が奉公している、炭問屋で取り扱っている『木炭』は、最近広まった新しい燃料だ。互助会が炭焼きの技術を無償で広めたんだぞ。」

 特許権などの概念が無いこちらの世界で、自分の利益を守る為には、技術は秘匿されなければいけない、にも関わらず互助会は社会の経済が発展した方が結果的に自分達へ利益が還元する、と言って一部の技術を公表している。もちろん知識だけで再現出来ていないものも、まだ公表するのは早いと見合わせているものもあるが。


 少なくともその転生者達がもたらした『恩』のおかげで、盗みを働いたコイツは解雇されずに、奉公先に戻れることになっているが、今の本人に言ったところで何の感銘も受けないだろうな。



「ギルドのように職業斡旋のようなこともしているな。

 エスタルの互助会では、『新体操』を覚えていた娘さんと旅芸人一座を引き合わせたり、子供を抱えた未亡人が『編物』のことだけ覚えていたので、商品化することを薦めたこともある。

 この未亡人の時は、レース編みが売り出された時に貴族御用達の高級店とトラブルになってな。問題解決の為に互助会の会長が間に立って話しをつけた。」

「互助会に行ったって、俺には売り物に出来るモノは何もねえよ」

 冒険者ギルドでは無いので、だいぶ興味が無いらしい、態度がどうでもいいと言っている。


「そう決め付けたものでもないさ、前世では趣味どころか遊びだったモノが思わぬ売り物になることもあるし、何も無いなら無いで互助会ではいろんな技術を教えている。転生者じゃなくても街の兵士は『柔道』や『テコンドー』を習ってるし、『そろばん』を習って財務系の法衣貴族のお抱えになった子供もいる。」


 コイツのことは、あのオヤジに押し付けてやろう、チートより強烈だぞ。




 当たり前の話しだが召喚と違って『転生』というからには、こちらに来ている連中は当然向こうで死んでいる訳だ。


 フェバード国とその周辺国境を接する三つの隣国内に生まれる転生者は、生前は日本韓国中国台湾など、いわゆるアジア圏の国民と、同国内に在住していた外国人が多い。

 大陸の北の方にはアメリカ在住の人が多く、別の大陸には生前別の地域の住人と、二重の意味で地域ごとにまとまっているようだ、言葉とか国民性とか少しでも共感できる部分があったほうが、世界規模でむやみにシャッフルされるよりはましだろう。

 まあ、同じアジア圏でも、北方四島(ほぼロシア)と台湾の南端で共感できるものが存在するかどうかはしらないが。


 母親の胎内に宿った時期を逆算すると、異世界間の大量の魂の移植が始まったのは35~40年は前だろうと、推定されている。



 あちら側の世界は、大きな戦争も終わり、経済も食糧事情も安定し、乳幼児の死亡率も下がった。

 むしろ子供が無事に育つので、べつに沢山産む必要が無くなり、出産数が減り少子高齢化が進んでいる。国策で子供を増やすなという国もあったな。

(“北”の付く、一部特殊な国は別にしても)



 何が言いたいかと言えば、事故と災害を別にすれば、年寄りと子供のどちらがより多くこちらへ来るか?

 もっとハッキリ言えば、子供には『寿命』とか『老衰』等は縁の無い話しだ。

 病気は子供も罹るが大人も罹る。逆に年齢が上がるほど血圧だの糖尿病だのの成人病リスクが高まる訳だ。

 前の自分を良く覚えていないのが半数を超えても、残り半数は結果として、前世は50代から90代までの年齢層が多く占めている。


 ランダムに集められたのか、そういう人材を狙って集めたのか?

 その道一筋ウン十年、自分の仕事に誇りを持ち、まだまだやりたいこと試したいこと心残りがあった。

 そんなバリバリの働き盛りから、戦争の時代をしたたかに生き延びた生き字引までが、(若い身体に)生き返って互助会を運営しているのだ。




 エスタル互助会の会長は、本人の話しでは前世は大手酒造メーカーの社員で朝から晩まで新商品の試飲をするのが仕事、仕事帰りも“それなり”に飲み、冬の道端で凍死してそれで本望とか言ってるダメな大人だ。

 かなりパワフルなオヤジで、現在はこちらでウイスキーの酒蔵を経営している。

 こちらにも麦の酒と果実酒が在ったが、到底満足出来る品質ではなかった為、こちらの職人やドワーフ、そして自分の他にも転生者がいることを知って、酒造りの為に二つの世界の知識と技術をかき集め、その過程で蒸留器を自作し、燃料を確保する為に『炭』を焼き、この世界にウイスキーを再現した。


 酒飲みの執念、恐るべし。



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