進路相談2
ドレイク隊長のお仕事は地味です、このお話も地味です。
無双とかチートとか全然縁がありません。
「入牢の日数は、記憶の混乱を考慮されて減らされているが、罰金については考慮されない。お前が盗品を隠したと説明した場所に部下を向かわせたが、誰かに上前をはねられていなければ良いな、盗んだ品物を返さない場合は、その分罰金に弁償額が加算される。」
説明も聞かずに小さな声で(チートが無……て…)とか(…費量の少ない魔…)とか(他…スキルを確か…)等々、ぶつぶつウジウジ不穏な独り言を言い続ける藤澤貞行ことザワルに溜息が出る。
諦めの悪いところは、ある意味前向きなのか?
このままでは、あれだけマリエラに愛のある説教をされ、市庁舎からわざわざ魔力測定の魔道具も運ばせ再度測定させたのにも関わらず、牢に入れて一人になった時に再度魔法を試そうとするのが目に見えている、いっそゼロなら何も起きずに落胆するだけで問題ないが、困ったことに数値が3、無い方がましなのに3。
魔力枯渇で昏倒、最悪朝にはミイラだ。この世界の魔法は死と同じ位に厳しい現実だ。
魔法と聞いて思い浮かべる、ワクワクした明るい面だけでは無い。
何が困ると言って、転生者たちは魔力が無いのに『魔法をイメージする』という点に“だけ”秀でている。
騎士団の魔導兵によれば、魔法は詠唱の正確さよりもいかに詳細にどのような現象を起こしたいかを思い描くかが大事、だそうだ。
そもそも貴族など一部の例外を除いて、転生云々に全く関係無しに魔法を使える者は滅多にいない、千人に一人生まれるかどうかだ、だから身近に具体例が無い。
魔法使いは師匠の使う魔法か、火魔法なら実際に燃える焚火を見て魔法を思い描く、なのに転生者は『ゲームの映像』というお手本がある、厄介この上ない。
自業自得と言えばそれまでなんだが……
「真面目に聞いて無いようだが、何の準備も無しに街の外に出たら、野盗のカモか魔獣のエサになるのがオチだぞ。」
魔物を狩ってレベル上げとか言っているが、『レベル』やそれに伴う『各種能力値』の上昇、『スキルポイント』等の『システム』は、現実に存在しない。
「き、聞いてますよ。何のことですか街の外……え?魔獣?」
上の空だったのに、魔獣にだけ反応したな。
「独り言が駄々漏れだ、今後の方針とやらは後でゆっくり考えろ。」
記憶の混乱が収まるまで、他の事に気を逸らせれてやれば、無謀な行動は防げるだろうか?
少なくとも今のコイツ『藤沢貞行』に現実を突き付けたって頑なになるばかりで逆効果なのは確実だ。
「なぁ、待ってくれよ。魔獣って本当に居るのか?冒険者ギルドは?この街に支部は有るのか?」
必要な技術を習得しようとする意欲は有るのか?
「落ち着け、説明は一つずつしよう。まず魔獣は居るぞ、だがここは『始まりの町』ではないから魔獣の強さはとても初心者向けとは言えないな。自殺したいなら止めないが、いきなり街の外へ出るな。
まず武器防具を整えて、街の自警団あたりに参加して鍛えて貰え。道場と違って無料で武術の指導をしてくれる。」
暴走族だから、前世では腕っ節に自信があったのか?だが人間相手(それも一般人)に鉄パイプを振り回すのとは訳が違う。魔獣は人間なんかより素早い生き物だ、コイツの攻撃ではそこらへんの野良犬にも当たらない。
前世で言えばアフリカのサバンナと同じだ、都市部を、人の領域を一歩出たら野性動物の世界だ、人の理屈も法律も通じない
「なんで自警団?冒険者ギルドじゃなくて?」
「冒険者ギルドはこの世界には無い。」
「嘘だろ?!ギルドカードが作れねえじゃないか!」
カードが目的か、そんな便利な物はない、ここはゲームじゃない。
「お前達が冒険者ギルドと呼ぶのは、人材斡旋業と傭兵ギルドと魔獣ハンターギルド、後は何でも屋が一緒になった組織のことだな?」
「大体そんな感じ?魔物の素材の鑑定とか、買い取りとかをする、後、能力値の測定サービスもしてくれるんだよ、国とか王様にも負けない世界的な組織。」
国家権力に張り合う?いや、まず俺が落ち着こう。
今のコイツは火山の火口で、火山に向かって噴火するなと駄々をこねてる幼児と同じだ、足元も見ずに、しかも水の入ったバケツなんぞを構えている、怒鳴ってはいけない。
「こちらでは全部別々の組織だな、そして国境をまたぐ規模のものでも無いし。測定サービスを行える所も無い、ただし、代わりにこちらの世界には転生者達の互助会が設立されているぞ。」
「互助会?なにソレ、ダセぇネーミング!」
仕方ない設立したのは、当時中身(前世年齢)50過ぎのオッサンだからな。