進路相談1
ドレイク警邏隊長は、いわば時代劇の町奉行様です、軽犯罪は彼が、重罪は太守が、裁判をおこないます。
二重人格のようだな、と思った。
もちろんドラマでしか見たことが無いから、本当の症例は知らないが。
『前世がえり』は人によってそれぞれで、漠然と『夢のように豊かな世界だったなぁ』だけで自分の性別も思い出せない者は、本人にも混乱は無く、殆ど周囲に認知されない。
ザワルのように前世の事は事細かに思い出せる代わりに、現世の今まで過ごして来た記憶と人格が押し退けられてしまう『押し退け型』は、例えば本人視点では“カラオケで歌って帰宅して就寝、翌日知らない街に居た!”という記憶の連なり方にパニックを起こす、周囲に助けを求めたり、逆に本人が沈黙しても大概周囲は異変に気づく、性格が激変したり、自分の仕事を忘れて無断欠勤してしまうからだ。
だいたい十代前半から二十歳前後に記憶が戻る。戻る迄の間にこの世界と言葉を知るためだ、とか神殿は言っている。
「ナンだよ?魔力値3てのは、じゃあホントに何の為に俺は転生したんだよ!?記憶が戻っても全然ショボいじゃん」
それは誰にもわからない、でもそこまで絶望しなくても。
「そうでもないさ、少なくとも向こうで『ギムキョウイク』を受けたのなら四則演算が出来るだろう?」
「シソクエンザン?」
「加減乗除、足し算引き算掛け算割り算のことだ、今のお前は炭問屋の奉公人だ、計算が出来るだけでも他の奉公人達より有利だろう。」
まあ現実には帳簿付けとか税金の計算とか、商売に関わる法律とか色々あるんだが、それは言わないでおく。
人間は身の丈に合った生活が一番だぞ? ゲームでも王様に勇者認定されても何の支援も無いし。
俺でも知ってるゲーム『竜王探索』シリーズは世界的に大ヒットを飛ばした名作だが、一般常識的にはつっこみどころが多かった。
ちなみに敢えて探すまでも無く、竜王ならお前の配達先に一人居るぞ、あそこのオヤジ炭火にはこだわるんだ。
「世界へ旅立つとか言って、だいたいお前、家族はどうする気だ?」
準備させた鏡を、『自分の顔』が見えるように差し出す。
「俺の家族なんて飲んだくれの親父だけで……」
それは『前』の話し、こいつには田舎に母親と、兄と姉が一人づつ、弟が一人妹が三人という大家族だ。
姉は既に嫁いだが典型的な貧乏人の子だくさんで、畑の収穫だけでは食べていくのが精一杯だ、ザワルからの仕送りが家族を支えている。
「妹三人の嫁入り支度をお前が準備してやるんだろう?」
鏡を睨みつけて黙り込んでいる、まあ三日位は記憶が馴染まないから、もう少し落ち着いてからだな。
「現行犯で捕まった件を別にしても、空き巣が5件いずれも中古の衣類や靴、それに台所のナイフか、全部まとめて10日牢に入ってもらう、あと被害総額の倍額の罰金だ。」
微罪だが犯罪は割に合わないと身に染みて貰わないとな。
「なんで空き巣の犯人が俺だって決め付けるんだよ」
最初は鍵の掛かっていない宝箱(本当はお釣りの小銭を入れていた銭箱)は中身を取っても良いんだとか言っていたが、少し現実が戻ってきたようだ。バレてないならごまかしたいらしい。
「現場からお前の指紋と下足痕を採取しているぞ。」
「『指紋』?『下足痕』?こっちで?」
「お前こっちの世界が遅れていると思って馬鹿にしているようだが、転生者の記憶を基に鑑識技術に魔法を応用しているんだ、諦めろ。」