取り調べ2
同時進行で同じ世界が舞台の『ドラゴン一家』も交互に更新しています。
よろしければご覧下さい。
「おいハーデイ、マリエラを呼んで来い。」
扉近くの机で静かに記録を取っていた部下に治癒術師を呼びに行かせる。
「何やってんですか隊長、廊下を通ってたやつらが、みんな硬直してましたよ、殺気の垂れ流しは迷惑ですよ。はい、押さえて押さえて。」
「あぁ、すまないな、ジョード。」
苛立ちが顔に出ていたらしい、扉前で立ち番していた部下におどけた振りで宥められる、何だよドウドウってのは。
「手加減しなさいよ、こんな細くて弱そうなのを相手に!!」
そうなんだよな、中身はチンピラなのに、見た目は真面目な小市民だから、俺が悪者に見える。
でもマリエラ、お前の弱そう発言が今ドスッと突き刺さったぞ、そいつに。
「人権侵害だ、お巡りが取り調べ中に暴力を振るっていいと思ってんのかよ、訴えてやる。」
お巡りか、懐かしい響きだ。
だが、キャンキャン吠えるからあっという間に化けの皮が剥がれる、そういえばこいつは前世がえりしてから、自分の顔を鏡で見たことが有るのかね?鏡を準備させよう。
「手加減ならしたぞ、いきなり人に向かって火属性の攻撃呪文を打とうとした奴を、鼻が潰れる程度で済ませてやったんだ。」
奴に向かって険悪な視線が周囲から突き刺さる。
「攻撃呪文ですってぇ?」
マリエラが資料を寄越せと身振りで伝えて来る。
部下達はズイとのしかかるように、奴に詰め寄る。
「ス、ステータス画面が呼び出せなかったから、他の方法で確かめようとしただけだよ。初期魔法の定番じゃないか。」
どうみても本心から言っている、考え無しにも程があるだろう。
「それで、確認手段が『ファイアーボール』か?『人に向けて』?どういう選択肢だ?
事の重大さが解ってないようだから向こうの法律解釈で教えてやるが、お前がやろうとしたことはたまたま手に入れた拳銃を人に向けて発砲しようとしたのと同じ事だ、実は弾丸が入っていなかったが、お前自信は弾が装填されていると思って引き金に指をかけようとした、充分に殺意有りだ。」
「殺意ってそんな……ぁ、え?、弾が入ってない?」
資料をめくっていたマリエラが、男の頭に拳を振り下ろした。おい、手加減しろ、手加減、フェンリルを拳で叩き伏せる女が、お前の拳は凶器だ。
「あなた、この魔力値で『小火炎弾』?アレスが途中で詠唱を止めてなかったら魔力枯渇で枯死してたじゃないの、五年ごとの魔力測定で言われているはずよ、魔法を使ったら死ぬって!」
「何で魔法を使っただけで死ぬんだよ!俺の魔力値がどうしたって言うんだ!」
マリエラは親身に叱っているんだが、空回りだな。
「だから!自分の魔力値は教えられて知ってるでしょ!魔力値3なんて竃の種火を着けようとしただけで昏倒するわよ。
呪文が発動しなくても、使おうとしただけで魔力が消費するのは子供でも知ってる常識!
魔力は魂の力よ、だけど魔力が枯渇すると命を削って糧にするのよ。」
「何だよ魔力値3て?、レベル1でも低過ぎだろ?!」
「ちょっと、アレス?」
マリエラが視線で問い掛けてくる。
「こいつは魔力値はおろか、自分の名前も職業も答えられなかった、前世の記憶に押し退けられて、今の自分が思い出せないようだ。」