取り調べ1
ドレイク隊長は心を虫にして淡々とがんばっています。
取り調べが進まない内に部下達のおかげで追加情報が届いた。
自分が窃盗犯だという自覚の無い炭問屋の奉公人ザワルは日本語しか書けないようだ。貧しい農家の生まれで運良く大店に8才で奉公に上がり17才になるまで真面目に勤めていたそうだが、教えても文字も覚えられず、金勘定も出来ない、当然店では一番下っ端、いつもびくびくしている大人しい男という評判だ。今の様子からは別人だ。
「藤澤貞行、男、出身国日本、▲▲県□□市、職業コンビニ店員、18才死因バイク事故、特技無し」
18で職歴が2年働いていたということは中卒もしくは高校中退のフリーター、言動からは世の中甘く見て舐めきったチャラ男という印象を受ける。身分を偽ったり、出来もしない技量が有る等の虚偽申告をすると処罰されると厳しく言い含めたので正直に書いたらしい。
「あっバイクって知ってる?鉄の馬だぜ。俺はその鉄の馬で隊列を組んで走ってたんだぜ」
暴走族か、話しを盛って少しでも有利に自分を売り込みたいようだ
「バイクならこちらにも有るぞ、『整備士』だったという男が魔導具鍛治と一緒に造り出した。王国軍でも最近一部で伝令用に導入されたが、道が悪いので乗り手の方が今ひとつだな。お前がやっていたバイクが『モトクロス』なら伝令で採用してもらえるぞ」
整備されていない悪路を走行した事が無いのだろう、視線が泳ぐ。
「伝令なんて下っ端じゃん、せっかく異世界転生したんだしもっとレベル上げて、身分的にも高い所を狙わなきゃ、なあ、あんた騎士団の隊長さんだろ、チュートリアルも兼ねて俺のことパワーレベリングしてくれよ、世界の為になるぜ。」
パワーレベリングね、おんぶに抱っこで楽して強くなりたいと。
「世界の為か?」
「そうさ、そのために俺はこの世界に呼ばれたんだ!」
本当に典型的な『勇者病』だな、今まで17年間生きて来た記憶が押し退けられている。
こいつの生まれた村にも転生者が二人程居るはずだ。
「じゃあ聞くが、お前が『生まれて来る前』に『誰か』に『何か』を頼まれたか?」
「い、いや、それはまだ思い出せてないけど、そのうち思い出すさ。」
できるだけ穏やかに話そう話そうと心がけるが、背中がムズ痒い。
「言っておくがこの世界は、『ゲーム』ではない、前世の記憶の有無に関係無く、瀕死の魔獣に止めだけ刺したって強くはならないし、鍛練を怠れば剣術の腕も錆び付き、筋力も低下する、何より鱗も無い人間の肌に刃物を当てたら切れるのが当たり前だ『防御』の数値を上げるなど、絵空事だ。」
「そんなはず無い!異世界転生にチートは付きものじゃないか、えっと、ステータス、ステータス!」
視線が何かを探して虚空をさ迷う。チートが付きもの(憑き物?)なんて誰が決めたか。
「ぁ、そうだ!『ファイアーボー っ、(ぐがっ)」
「おい、今、『誰に』向かって、『何を』しようとした?」
容赦無く奴の顔面に正拳突きを叩き込む、
当然だ、笑って赦せることではない。