その9 曾子曰く、終を慎み遠きを追えば、民の徳厚きに帰す。
「【曾子曰く、終を慎み遠きを追えば、民の徳厚きに帰す。】」
先輩が今日の教えを提示する。
「今日はちょっと短めですね」
「そうね。意味もわかりやすいし、『曾子先生が言った。亡くなった人を丁重に弔い先祖を大切に扱っていれば、民の徳は自然と厚くなるものだ』って感じね」
「なるほどです。ところでこれって文章から察するに人々に向けたってよりも君主とかそういう上の人に向けたって感じですよね」
「まぁそうね。だからこれも正確に言うなら、『君主が亡くなった人を丁重に弔い先祖を大切に扱っていれば、民の徳は自然と厚くなるものだ』ってところかしらね」
「だ、そうですよ先輩」
「……その『だ、そうですよ』ってどういうことかしら琴浦君?」
「どういうも何も、先輩はこの部の部長、いわば君主です」
「……それで」
「君主というものは先人を敬うものです」
「……」
「つまり先輩はもう少し孔子を敬うようにしなさいってことですよ」
「……ほう。つまり私は孔子を敬ってないように見えると」
「え?もしかして敬ってたんですか!?」
「当たり前じゃないの!むしろ私ほど敬ってる人はいないと言っても過言じゃないわね」
「絶対過言です。ていうか先輩、いつも孔子にいちゃもんつけてるじゃないですか」
「いちゃもんじゃないわよ!新しい解釈と言って欲しいわね」
「えぇ……」
「ていうかよ。私ちゃんと世間一般で言われてる意味をきちんと理解した上で新しい意見を言ってるんだから一般人よりよっぽど敬い度は上よ!」
「それを言われると痛いところなんですけど……。でもなんか違う!」
「ふふふ。なんとでも言いなさい。これからもバンバン孔子に突っ込んでいくわよ!」
「うん、1つ理解した。とりあえずその攻撃的な態度をどうにかしろ!」
こうして今日も先輩の新しい解釈(?)が始まる。
「で、先輩。今日はどんな新しい解釈があるんですか?」
「よくぞ聞いてくれたわ琴浦君。といっても今回はわりと簡単なことよ」
「簡単なことですか?」
「そうよ。まぁ、もったいつけるのもあれだし、一気に切り込んでいくわね。それはね……」
「それは?」
「……人を弔うのに民の徳がどうのって無粋なこと言ってんじゃないわよ!」
「ホントに一気に切り込んできた!」
「亡くなった人を大切にするのはね、あくまでも弔うその人の問題なだけであるべきなのよ!そこから付随する事なんて一々考えるな!」
「ヤバい、なんか反論できない」
「それにね先祖敬ったからって必ずしもいいことばっかじゃないわよ!例えば靖国問題とか!」
「先輩ストップ。先輩の発言、これ以上はどんどん危ない方向にいきそう」
「とーにーかーく、先祖を弔うのに一々周りがどうのと考えるな!以上!これが私の持論よ」
「なんか今日の先輩、いつにも増して反論しづらいことこの上ない」
「ふっふっふっ。これで私がいかに真面目に考えてるかわかったでしょ!」
「ホント、たまには真面目な意見も出すんですね」
「たまにはって何よ!私はいつだって真面目よ」
「えぇ……。これとテロリスト説同じように考えた結果なんですか」
「当然どっちも真面目に考えた結果ね」
「どうしてそう極端なんですか、先輩は……」
今日の発見。
先輩の迷走は真面目に考えた結果だったらしい。
どうしてこう極端になる!?