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迷いの森

作者: 佐倉枉 憐

ここは、遠い遠いどこかの国の


深い深いどこかの森…


誰も知らない誰も行きたがらない


そんな森についた名前は…


《迷いの森》


誰でも簡単に入ることはできる


しかし、簡単には出てこられない


そんな森に、ひっそりと暮らす住人がいた――



◇◆◇◆◇◆



「飾り付けよーし、料理よーし、あとは…お客様と主役さんだね」


紫色のワンピースをぱんぱんとはたき、少女は立ち上がった。


「むむむ…」


しかめっ面でうなる彼女は、迷いの森のさらに奥、

普通の人は絶対に行かないような場所で暮らす見習い魔法使いリズ。


世界征服という夢を叶えるため、現在迷いの森で修業中


「とりゃ!」


リズがぱっと両手を広げると、紫色のハトが三羽、白い煙と一緒に現れた。


「よーし、今日も絶好調!君たち、みんなを呼んできてね」


リズが窓を開けると、三羽のハトたちは一斉にばらばらの方向へ飛んで行った。



◇◆◇◆◇◆



コンコンッ


「まだ眠いって…」


コンコンッ


「だぁかぁらぁ…あと一時間は寝かせて…」


コンコンッ


「うるさいって言ってるだろ!?誰だよ、オレの眠りを妨げるやつは!」


鋭く尖った牙をむき出しにして叫ぶ少年。


バサバサの茶髪に埋もれるように、獅子の耳がピコピコ動いている。


眠たそうに目をこすり、窓からの訪問者を招き入れている彼は、

元気が取り柄のライオン少年サウロ。


「紫のハトか…相変わらず悪趣味だよなぁ、あいつ」


紫色のハトのくちばしをつつきながらサウロは大欠伸をした。


「クルッポー」


「で?用件はなんなんだ?」



◇◆◇◆◇◆



「お?こりゃあまた珍しい来客だね。いらっしゃい。君が来たってことはリズがまた何か企んでるんだね?」


目を開けているのか閉じているのか、見えているのかどうなのかよくわからない白髪の青年。


頭部から突き出た耳は長いうさぎの耳で、左耳が途中で折れて垂れているのは生まれつきという噂。


そんな彼はお菓子作りが大好きな白うさぎのパッシュ。森のみんなのお兄さんだ。


「へぇ…まぁたこんなこと始めて…面白そうだし行ってあげようか」


パッシュは楽しげに笑いながら家を出て、紫色のハトの道案内に従って森を歩いた。



◇◆◇◆◇◆



「いらっしゃーい」


ワンピースとおそろいのデザインのミニチュアハットを斜めにかぶり、ニコニコで出迎えたのはリズだ。


「おっす、リズ!」


「やぁ、リズ。ちょうどサウロと合流したから一緒に来たよ」


サウロとパッシュはそれぞれリズに片手を上げてあいさつした。


「むぅ…」


「どうした?」


急にしかめ面になったリズに、サウロが慌てて話しかける。


「もう一人が来てないんだけど?」


リズは2人を押しのけてあたりをきょろきょろ見回した。


「もう一人って…あいつも呼んだのか?」


「そうだよ!」


サウロの質問にリズはますます頬をふくらましながら答える。


「彼は素直じゃないからねぇ…」


パッシュが苦笑いするたび、肩の上の紫のハトが揺れた。


「むむぅ…私はまだ準備で忙しいから、2人で呼んできて」


「えぇ!?なんでオレらが」


サウロは面倒くさい、と思いきり顔に出ている。


「サウロ、行くよ。人数は多いほうが楽しいしね」


「えぇ~~やだぁぁぁ」


「よろしくぅ」


パッシュは泣き叫ぶサウロを引っ張りながらリズに手を振ってまた森の中を歩いて行く。


リズはそんな2人を晴れやかな笑顔で見送った。



◇◆◇◆◇◆



「はぁ…お腹減ったぁ」


ぐぅぅぅ…という空腹を告げる巨大な音が森に響いた。


「それなら、なおさら急いで彼を迎えに行こう」


パッシュは楽しそうに笑い、ぐいぐいサウロを引っ張る。


しばらく行くと、大きな木が見えてきた。2人は木の根元で立ち止まって上を見上げる。


2人が見上げる先には、小さな小屋が太い枝たちに支えられて建っていた。


「何回見てもあいつの家は面白いよなぁ…」


サウロはボーと小屋を見上げる。


「よし、行こうかサウロ」


「へ?これを登るのかよ??」


サウロは目を見開いてパッシュを見る。


「そうだよ。それしかあの家を訪ねる方法はないしね」


一方のパッシュはさわやかな表情でニコっと笑う。


高さは優に60メートルはあろうかという大木を指さして。


ちなみに2人の目指す小屋は地上50メートルあたりだ。


「オレはヤダ。絶対登らねぇかんな!」


サウロは駄々をこねる幼子のようにパッシュの手を振り払った。


「ダメだよサウロ。僕は運動は苦手だから君に頑張ってもらわないと」


パッシュは振り払われた手でもう一度サウロの肩を掴む。


その笑顔はさっきまでのさわやかさはなく、黒い笑顔だった。


「ちょ…怖いよ?パッシュ??」


「こんな大木ぐらい登れるよね、サウロ?」


「あ、ありがたく登らせてもらいます!」


サウロは半泣きになりながらも木の枝を掴んで登り始めた。


「気を付けて~そこの枝折れそうだから」


「ぐむむ…」


掴んでいた枝が折れ、間一髪で別の枝を掴む。小屋はまだまだほど遠い。


「くっそぉ…」


下でニコニコ笑うパッシュに悪態をつきながらも、サウロは木を登り続ける。



◇◆◇◆◇◆



銀灰色の髪とオオカミの耳が特徴的なブルーの瞳の少年は、

淹れたてのお茶を飲みながらなにやら考えごとをしていた。


無口な彼の名は、カイ。


孤独と静寂を愛する者だが、最近は無駄にちょっかいをだしてくるライオンや魔女やウサギがいるため、

馴れ合うことも楽しいと気付き始めて…いるとかいないとか。


なぜこんな高い木の上なんかに住んでいるのかは誰も知らないが、どうやら高いところが好きらしいという噂が流れており、本人はそれを賛否していない。


右耳には黄色のイヤリングが光っている。


長く伸ばした前髪で右目は隠され、ミステリアスな感じがさらに強調されていた。


「おーす!カイいるかぁ?」


独りでゆっくりとお茶を楽しんでいたカイは、聞き飽きた人物の声に顔をしかめた。


「カーイー??」


大声と共にドアもドンドンと叩かれる。


「カイってば!いるんだろ?オレだよ!サウロだって!」


そんなことわかってる。とでも言いたげな表情でカイは完全無視を決めた。


「カイ!カイ!カイってば!」


ドアが吹っ飛ぶんじゃないかというほどにノックの強さが増していく。


「カーイー…お前が出てきてくんねぇとオレがパッシュとリズに殺されるぅ…」


怒鳴り声に近かったサウロの大声は、いつの間にかすすり泣きへと変わっていた。


カイはお茶のカップを机に置き、いやいや顔でドアを開けた。


「カイ!お前ならオレをわかってくれると信じてたぞ」


「用件は?」


飛びつこうとするサウロを左手ではたき、短く質問する。


「お、そうだった!なんでもリズがお茶会を開くからぜひ来いだってよ。お前んとこ、紫のハト来なかったのか?」


「行かん」


カイは一言、言うとサウロの鼻先ぎりぎりでドアをばたんと閉めた。


「ちょ…カイ!?」


サウロは慌ててドアを叩く。下の方から、どす黒い声が聞こえてきた。


「サーウーロー?どうかした?まさか失敗したなんて…」


「言わない言わない!」


サウロは首と尾をぶんぶん振って、パッシュに無事をアピールする。


「カイ…開けてくれって…いや、開けなくてもいい。せめてお茶会には出席を…」


「俺は行かん」


ドア越しにカイは冷たく言い放つ。サウロは尾を激しく振りながらカイの説得を行う。


「お願いだって!オレが殺される…」


「俺には関係ない」


「ちょ!?友人の命がどうなってもいいのかよ!?」


「誰と誰が友人なんだ?俺には関係ないな」


カイはもう話すことはないと言うように部屋の奥へ移動する。


机の上にはさっきまで飲んでいたお茶のカップを覗き込む、紫色のハトがいた。


「カーイー…」


なおもサウロは半泣きになりながらカイを説得していた。


「カイ?僕の声聞こえるかな?」


突然パッシュの大声が森に響いた。さすがのカイも驚いてドアの方を見る。


「パ、パッシュ…?声でかいな…」


サウロも驚いて下を覗く。


「僕が10数えるまでにお茶会への参加を決断しなければ、また、君の家を燃やしちゃうよ?」


パッシュはあくまでも明るく、友達を遊びに誘うように言った。


「また…?」


サウロは不思議そうに首をかしげる。


「……」


カイは無言でドアを開け、外に出てきた。


「おぉ!カイ~」


サウロは抱き着かんばかりにカイに走り寄る。


「近づくな。暑苦しい」


「そんなぁ~。あ、なぁなぁ!」


「…なんだ」


カイはゆっくりと木を降り始めた。サウロもあとから一緒について降りる。


「また家を焼くって、お前、前にパッシュに家焼かれたのか?」


サウロの質問にカイは口をさらに真一文字に結ぶ。


「オレはそんな話聞いてことないけどなぁ…あ、もしかして、この前のリズの茶会のとき山火事が起きたって…あれ、お前の家が焼かれたのか!」


「黙れ」


カイはさらに不機嫌になりながら木を降りるスピードを上げる。


サウロはなんとかそれについていった。


「教えてくれてもいいだろ~もしかして、あの時にリズの茶会断ったからか?お前、いくら誘ってもこなかったもんなぁ」


サウロは納得したように一人でうんうんとうなずく。


「……」


カイとサウロが地面に着地すると、パッシュがニコニコ顔で近寄ってきた。


「さぁ、人数もそろったし、行こうか」



◇◆◇◆◇◆



「リーズー!カイ連れてきたぜ~」


サウロがリズの家のドアをどんどん叩きながら叫ぶ。


「わかってるからドアを壊さないでって」


リズは片耳を押さえながら三人を家に招き入れた。


部屋のなかはピンクや紫の家具が目立ち、さらに赤や青や黄色などのさまざまな飾りが部屋中につけられていた。


「すげぇ!」


サウロはキラキラした目で部屋を見回す。


「こっちに来て!」


リズはわくわくしながら三人をテーブルのほうへ呼ぶ。


「わぁ!うまそう!」


「確かにいい匂いだ」


サウロとパッシュはお腹をさすりながら言う。


カイは部屋をきょろきょろと見回していた。


「ほら!カイ、見て」


リズに名前を呼ばれてテーブルに近づく。


パーンッ!!


突然リズがクラッカーをならした。


「…!」


さすがのカイも驚き、かすかに体がびくっとなる。


「ハッピーバースデー!カイ!!」


リズはケーキの乗った皿を持ち上げ、カイに手渡す。カイはそれを素直に受け取った。


「……」


「飾り付けも料理もカイのために頑張ったんだよぉ」


リズはニコニコとカイの言葉を待つ。


「…違う」


「へ?」


カイの口から発せられたのは、まったく予想外の言葉だった。


「俺の誕生日は来月だ」


「「……」」


場にいた全員が固まった。


「え…え?来月??」


「リズ、カイの誕生日は1月だよ。今月はまだ12月」


パッシュは呆れたようにリズに説明する。


「えと…12月…確かに…わぁ…やっちゃった」


「まぁ…なんだ、その…ドンマイ」


サウロはリズの肩を軽く叩いた。


「帰る」


カイはケーキの乗った皿をテーブルに戻し、きびすを返した。


「え?か、帰っちゃうの??」


「当たり前だ。俺がここにいる理由はない」


カイはそれだけ言うとドアのほうへすたすた歩く。


「ちょっと待ちなよ」


「……」


パッシュの呼びかけに、カイは嫌そうな顔で振り向いた。


「せっかくカイのためにリズが頑張ったんだよ?なんとも思わないのかい?」


「…別に。自分でミスしたんだろう。俺には関係ない」


カイは片方の眉を吊り上げながら答える。


「しょうがない…いっそのこと、今日、僕たちみんなの誕生日祝いをやろう」


「「えぇ!?」」


リズとサウロの声がかさなる。


カイも驚きを隠せていない。


「ちょ、パッシュ?オレたちみんな誕生日バラバラなんだぞ??」


「だからこそだよ。カイは面倒くさがり屋だからめったにこういう会には出ないし、リズは修業が忙しくてあんまり開けないし、僕はお菓子作りとお菓子の研究で忙しい。サウロは基本的に暇だろうけど…とにかく僕たち全員が集まれる日は限られてる」


パッシュは一人ひとりの顔を見ながら話す。


「だから、せっかく今、全員集まってるんだ。今年のみんなの誕生日を祝おう!」


「パッシュ頭いい!!」


「うまいもんが食えるならなんでもいいぜ!」


リズとサウロはパッシュの提案に感激して手をぱちぱちと叩く。


「カイ?もちろん、帰るとか言ったりしないよね?」


パッシュの黒い笑顔を見たカイは、おとなしくパーティーに参加することにした。



◇◆◇◆◇◆



迷いの森で山火事が起きるとき、


それはだいたいお茶会などの開催日。


そのたびに、カイは背の高い木を探して森をさまよう。


誰にも見つけられないような場所を。


だが、


なぜかすぐにカイの家はみんなにばれる。


カイの移動する後ろを、


白い耳のうさぎが追いかけているという噂が流れているが…


真相はさだかではない。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 人間ではなく動物が主役の物語は私的に大好きです。 最後の締めもいいと思います(´∀`*) [気になる点] サウロは慌ててドアを叩く。 「サーウーロー?どうかした?まさか失敗したなんて…
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