プロローグ
魔術。
それは、この世界において全てを支える巨大な柱とも言える存在。
最近だと、日常生活にも大きく浸透しつつある。
例えば、火という物体がある。それは何から出来ているのだろうか?
昔の人ならば「木と木を擦り合わせて摩擦で起こす」や「ガスコンロの取っ手を捻るとぶわっと出る」なんて答えるかもしれない。
しかしその回答を現代の人が聞いたらどうだろう? 恐らく腹を抱えて大袈裟にゲラゲラと笑い出すだろう。
時代遅れ――という言葉が似合うかもしれない。
因みに、この時代の人間に答えさせれば「手から出るだろう?」「いや口から火吹けるから」と当然かのような表情で言う。
何せ、魔術という存在はそれ程まで素晴らしい物なのだ。
魔術は、身体の全身から放たれる目では見えない物体“魔力”を消費して、身体の至る場所から自由自在に放つ事が出来る道具――いや、力と言うべきであろうか。
魔術が発見されたのは、およそ50年程前。人の価値観によっては、この年数は近いとも言えるだろう。
発見された当初はまだ、それを扱える者も極僅かに限られていたそうだ。だが、それが今ではこの世界の住人全てが使える。
寧ろ扱える奴がいない方が珍しいだろう。魔術と言えど人間が本来持っていなくては生きられない力なのだから。
「……と、分かってくれたかな諸君?」
「諸君って言うか、一人しかいないけど……」
お母さんが如何にも今の説明で決まった、みたいな得意げな顔をしていた。
そんなお母さんに私は、若干呆れたような表情を浮かべながら溜息を吐く。
私は今、この世界で熱や電気等と同等のように扱われている魔術について軽く纏めた説明、いやどちらかというと講座のようなものを親から聞いていた。
別に私は頼んだ覚えはない。親が勝手に「魔術について知らないでしょ? 教えてあげる!」と言って熱弁し始めたのだ。
正直、どうでもいい。
いや、どうでもいいことは無い。親がここまで熱く語るなんて早々無い事だし、私の知らない魔術の知識だって説明してくれた。
だが、私はそれよりも気になる事があった。
――小さい頃に、偶然見掛けたあの氷花の事だ。