七話
「難しい顔をされてますね。
気を楽にして頂けたらいいのですが」
後ろから掛けられた声に勢いよく振り向く。
ティーカップや軽食が乗せられたカートを押して来た宰相閣下を見て、慌てて立ち上がり駆け寄る。
「後は私がご用意致しますわ。」
「大丈夫ですから、ハースト侍女長は座っていて下さい。
これでも美味しく入れられると言われるんです。」
さすがに宰相閣下に用意してもらうのは身分的に気が引ける。
茶器などを用意をしてもらったのは、内密に話すため
それに手を引かれ来た+初めて見た場所にここがどこかも分からない自分より、分かる人物にすべて託しただけに過ぎない。
ここまで用意されればお茶を調えるつもりだった。
だが、目の前にいる人は自分が用意すると言い張る。
ここは強引にでも仕事を奪わないで欲しいと言って用意すべきか
それとも引き下がるべきなのか
「紅茶と黒茶、どちらをお飲みになりますか?」
「こ、紅茶でお願いします。」
そこまでされたら大人しく従うしかない。
そして宰相閣下は二つあったポットの内、ピンクの花柄のポットから紅茶を丁寧に淹れて私の前に置いた。
紅茶のいい香りがしてくる。
「それで見ていただきましたが、どう思いましたか?」
「そうですね。
私ごときが知っていい話しではない、と感じましたわ。
私の記憶が必要とおっしゃいましたが、こんな国政に関わるような記憶は持っているとはおもえないのですが」
湯気が立つティーカップを手で包みながらキッパリと告げる。
その私を笑顔のまま見つめ返す宰相閣下
「・・・確かにそう思われるのも最もですね。
ですが、私は貴女は見ていたと確信しているんです。
具体的に告げれば思い出して下さるかもしれませんね
では三ヶ月前の皇妃陛下が招かれた宴のことを
宴はカイウスの広間で行われました。
そして、主催者はマイドル」
ミーシャと向かい合うように椅子に座った宰相閣下
その前には黒茶が入ったティーカップ
それを見ながら、言う通り三ヶ月前のセシルさまが招かれた宴の記憶を浮かび上がらせて行く。
そう、あれはまだ皇帝陛下がセシル様を遠ざけていた頃
当時権勢を奮っていた元マイドル伯爵が宴の主催者で
セシル様の招待は嘲り貶めるためだった
その時は一介の侍女だった自分はただセシル様の後ろで、共に貴族達の口さがない言葉を聞いてるしかなかった。
泣くのを耐え、笑顔を絶やさないセシル様に何もして差し上げられず
出来たとしても逆にセシル様の立場を悪くするだけで我慢するしかなかった。
だが、セシル様を馬鹿にした者達だけは決して忘れないとあの場にいた全員の顔を覚えた。
しかし、何か関係があるだろうか?
確かあの場にいた者達の約半数がその後皇帝陛下により粛清された。
国政を傾ける悪事を働いたという罪である。
「思い出していただいたところで
その中に年の頃三十で、男性
背が高く、髪は金、目の色は青」
「あの場に該当する対象者がたくさんいます。」
何せ帝国内でそれは一般的な配色だから
「では、加えて
髪は腰まであり、右頬に傷があります。」
レイの言葉に誘導され思い出していき、ついに一人に絞りこんだ。
「いました。元伯爵の側に女性を伴って」
すると宰相閣下が立ち上がり、私のの肩を掴んだ
「よく、思い出してくれました。
それでその時の男の服装、言動など気づいたこと
何かありませんでしたか?
女性が近くに?
ではその女性の特徴は?
その他には何か不審な行動は?」
肩を掴み矢継ぎ早な質問を繰り返すため顔が近い。
反射的に身を退こうとするも、逆に引き寄せられる。
「離して下さい。
こんなに近付かなくとも話しますので」
また近くなった顔を背け、急いで言い切る。
すると静かに手が放され、ようやく安堵し改めて思い返す。
「青を基調とした服装でしたね。
特別に何もされてないですし、話しているようには
でも一度だけ、元伯爵とその方が数人の人と席を外してましたね。」
メモを取っているようだ。
「女性は黒髪黒瞳、年の頃は若く見せていましたが三十半ば
あとは、おそらくですが他国の方ではないかと」
顔を上げた宰相閣下は笑顔だが目が笑っていなかった。
ペンを置き、宰相閣下が足を組み私を見据える。
因みに
黒茶はコーヒーです。
見えますよね、黒いから
そして今日は寝込んでいました。風邪かもしれません。