六話
「なんでしょうか?」
ひとまず開き、目を通して宰相閣下を驚いた表情で見つめる。
「こ、これは、重要機密書類じゃないですか?」
「ええ、貴女に思い出して頂きたいのはその書類に深く関わることなのです。
ご理解頂けるといいのですが」
これはもしかしなくとも最初から手伝う事が決定していたのでは?
協力ではなかったの?
あまりに強引な進め方に頭がついて行かない。
「両陛下いえ、皇妃陛下が心穏やかに過ごされるためにはしなくてはならないことなのです。
騙し打ちだと怒られても致し方ない事を貴女にしていることも重々承知しています。
責めは私が甘んじて受けます。」
そんな事を言われたら、おまけにそんなにすまなさそうに謝られたら
「分かりました。
お役に立てるか分かりませんが、精一杯手伝いましょう。」
覚悟を決めるしかない。
「何を見て思い出せばよろしいのですか?」
「ありがとうございます。
ではまずは場所を変えましょうか。
どうやら野次馬という輩が集まり出したようだ。」
だが、その決意を挫くようなタイミングの良さで居場所を変えることに
確かに人が集まればこれ以上の秘密保持が出来ない。
滅多に来ないと思ってやって来た奥のソファーも野次馬が二人を見るために来てしまい台無しである。
「では、行きましょうか?」
素早く立ち上がった宰相閣下が、ミーシャの手を優しく引っ張り立ち上がらせてエスコートまでしてくれる
「宰相様、近いです。
もう少し離れてもらってもよろしいですか?」
互いに聞こえるだけの声量で会話をしながら歩いているため、密着率が高くミーシャは気まずそうに見上げる。
「お気にせずに
取り敢えず後ろの方々をまきますのでしっかり付いて来て下さい」
どうやらまだ追いかけてくる者達を撒いてからではなくては話の続きは聞けないようである。
仕方ない
「『胡蝶は繭の褥へ往かん』」
長い裾を捌き、野次馬達を時に幻夢魔法の一つを宰相閣下が操り翻弄し、一人ずつ撒いていく。
そしてついに最後の一人を身を隠してやり過ごして撒くことに成功した。
「ちょうど良い場所に隠れたようです。
そこの扉に入ってください。」
指差された先には扉が1つ
「あ、はい」
「大丈夫、心配なさらないで下さい。
けして貴女の名に傷が付くようなことは致しませんから」
「名に傷が付く?何故でしょうか」
宰相閣下の言葉に訳が分からないとばかりに首を傾げるミーシャ
それを見て宰相閣下の笑顔が固まる。
「それは本気で言ってらっしゃいますか?」
「何か変な事を言いましたか?」
どうやら本気で分からないようである。
「いえ、もうよろしいです。
意外と難攻不落な方のようですね」
最後の方がよく聞き取れず、振り返り顔を窺う。
だがなんでもないとばかりに首を振られた。
「今、何かお茶をお持ちしますので
そちらの書類、上から三行目から八行目に目を通して頂いていいですか?」
そう言われたら仕方なく頷くしかない。
扉を潜り抜けた先にあった小部屋に腰を落ち着け、
取り敢えず近くの椅子に座り、言われた通りに書類に目を通す。
えっと
『国に納める約4割をイスダラス子爵領地から納められる《イラ・カミーラ》が、今季になり納められなくなった。
原因は現在も不明。
しかし、子爵位が昨年代替わりしたことに関わりがある可能性も
なお、調査は引き続き続行する。』
あれ?確か《イラ・カミーラ》ってこの国一番の輸出品で有名な宝石
各国王族、貴族に人気があって輸出規制がかかってるといつか聞いた気があった
その《イラ・カミーラ》が約4割も納められていないとは
これは、私が関わって良い事なのだろうか?
今さらながら受けたのは早計だったかと思う
だが、この事で果たして自分の記憶がいる必要があるのかと言う疑問が出てくる。
私はまだ六月ばかり前に来たばかりなので、そんな重大な国家機密に関わったことはなかった。
ならば、何故宰相閣下は自信を持って私を指名したのか。