五話
だが、誤解でも彼女らの標的になるのはセシル様に迷惑と気を使わせてしまう。
「宰相閣下とお会い出来て光栄でございました。
主が退出した今、私がここにいることは出来ません。
これで失礼致します。」
握手をしていた手を引こうとするがガッチリと手を掴まれて離れることが出来ない。
「申し訳ありませんが、手を」
「まだ出会ったばかりなのですし、お話をいたしませんか?」
それどころかそのまま、手を引かれて奥へと誘われる。
物腰が柔らかく紳士的なのだが、意外と強引である。
「宰相閣下、私は」
「堅苦しいことは言わないで下さい。
親しくしたいと会う前から思っていたんですよ。」
何故初対面でそう言われるのだろうか?
しばし茫然としていて気付くと人気がない奥まったソファーに座らされていた。
「私こそ、ハースト侍女長の噂を聞き及んでいたんですよ。」
「そう、なんですの?」
一体どんな噂だろうか。
大した美しくもない私が美女と噂高いセシル様に後ろに控えている挙げ句
侍女長と言う位にいることがおこがましいとか
引き立て役だとかそんな悪口とも言える噂だろうか。
ミーシャは自らの容姿が優れてないとそう理解しており、せめて仕事だけでもいい仕事をしようと努力して勉強もした。
だからこそ、セシル様に認められてセシル様と共にこの国にやって来たのだ。
別に容姿で仕事をしているわけではない、しかし直接言われてないが視線が語っているのだ。
何故この場もしくはこの人の近くにこんなやつが居るんだと言わんばかりの鋭い視線を投げ掛ける人々
「・・・長、ハースト侍女長?
どこか具合がお悪いのか?顔色が悪い」
その声に、深く心の中に沈み込み考え込んでいたミーシャの意識を現実に戻した。
「いえ、なんでもありませんわ。
それより、私がここに連れて来られたのは何かご用があってのことですのよね?」
何か用、それも人目を払う必要がある話だとしか自分を連れてきた理由がミーシャには他に考えつけなかった。
だが目の前にいる人物は少し驚いたように目を見開き、そして困ったように笑った。
「本当に噂通りの方のようだ。
ですが、そんなところもいいですね。」
「よく分からないのですが?」
何故そんなに嬉しそうなのだろうか?
そして何故、手を握り寄せるのか
この方が本当に分からない。
軽く手の甲にキスを一つ落とし
そして誰もが極上の笑顔と言うだろう満面の笑みでミーシャを見上げた。
「どうか貴女の記憶を貸して頂きたいのです。」
記憶?何をして欲しいと言うのだろうか、この方は
ちょっと間を置きたくなった。
「申し訳ありません。
主語が抜けていましたね。
正確には貴女の中で眠る記憶を思い出して頂き、ある事案に協力をして頂きたいのです。
一度見たものはけして忘れないと言う記憶の力を持った貴女に」
いきなりの発言にどう答えを出したら良いか分からない。
その前に何故その事を?
「前回の事件時に貴女の記憶のお陰で両陛下は助かったと聞きました。
正確に記憶していたため犯罪者達は言い逃れも出来なかったほどと」
いつの間にか自分と宰相閣下が暫し見つめ合うように目を見合わせる。
「けして貴女に危害を加えさせるようなことはさせないつもりです。
ですから、どうか頷いてくれませんか?」
「危害?危ないことなんですか?
私は身を守る術など持っていませんし、それに」
危険があると聞いてしまったら困ってしまう。
その危険がもしセシル様に向けられたらと思うと恐ろしくてたまらない。
「ご心配は重々承知しています。
だが、ハースト侍女長の記憶1つで幾千人もの罪なき民が救われるのです。
どうか協力をお願いしたいのです。」
そう言われたら、揺れてしまう。
私が力を貸せばたくさんの人が救われると言われたら協力しない訳にはいかなくなる。
だが、心配なものはしかたない。
思い悩むミーシャをどう思ったのか、レイがおもむろに一枚の紙を手渡して来た。
「ご覧ください。」
訝しがりながらも受け取る。
誤字脱字など、ご意見ご要望ございましたらどうぞお気軽にご連絡お願いいたします。
*ミーシャは分かってる方が多いと思いますが、完全記憶能力者みたいなイメージで書いてます。
分かりづらい上に表現力の無さが悲しいです。