二十二話
頷き返し、ミーシャは先を歩くレイをシャナの手を引き追い掛ける。
「普通の壁、ではないようですね。
ここを開くには何か仕掛けがありそうです。」
壁を触ったり叩く姿に自分も辺りを見回して見る。
近くになにも置いてない。
ならば壁自体に何か開閉する仕掛けるがあると踏んだ方が良い。
シャナが目を細め、壁を撫でる。
「石壁ですね。他の場所は違うようですから
仕掛けは限られてきますわね」
軽く叩き、撫でている手をある場所で止める。
「壁自体に仕掛けがあると過程して、それを開く仕掛けは開閉する場所に近いはず、ですから」
そして力いっぱい右端の少し欠けた石壁を押した。
ガッシャン
そんな小さな音と共にレイの前の壁がスライドし、そこから通路が姿を現した。
「慣れてるようですね?」
「王族貴族の城等に隠し部屋や隠し通路は当たり前でございますから
そのようなものの作りは大体似たようなものでございます。
王族に仕える者として常識ですのでお気になさらずに」
慇懃な態度で返すシャナに困ったように見、首を振る。
言っても無駄であろう。
シャナは自分が認めた相手以外に
たとえ相手が目上であろうとシャナは最低限な礼儀しか使わない。
シャナの態度からしてレイに対する敬意は最低ランクであることはたしかであろう。
まぁ、疑われてた時点で仕方ないと言えば仕方ないのだが
「進むのですよね?
ではこれをご用意致しましたわ。」
取り出したのはいつの間に用意したのか簡易のランプだ。
それをレイ、ミーシャに渡しシャナは自らもランプに明かりを灯す。
「では、行きましょうか?」
レイも明かりを灯し、通路に向かって歩き出す。
ミーシャも慌てて灯し後に続き、シャナが最後に通路に入った。
「足元に気を付けてください。」
微睡みの中で慌ただしくなる気配に飛び起き、子爵は寝室から出ていく。
「何事か!」
しかし子爵が見たのはとんでもないものだ。
使用人達が慌ただしく家財を持ち出し逃げ回っていたからだ。
誰も子爵など見ていない。
「何があった」
子爵は前を通りすぎようとした男を捕まえ、問い質すが男は真っ青な表情で子爵を見る。
「言わなければ切り捨てる」
護身用の短刀を突きつければ男はすぐさまことの次第をぶちまける。
「次々と屋敷の者が宰相閣下直属騎士を名乗る者達に捕縛されているのです。
既に一階は制圧されたと」
それを聞くと子爵は男を投げ捨て寝室に舞い戻る。
使用人の男が告げたのは自身が破滅の道を下されたこと
罠だったのか、宰相は最初からこのつもりで
騙されたか、ならばあの女もまた宰相の配下だったか
歯ぎしりしながらベット横の壁を二回叩き、次に一回、そして最後に三回叩く。
すると床の一部が開き、地下に続く階段が現れる。
ためらうことなく子爵はそこを通れば勝手に床は元に戻り、階段が隠れてしまう。
仕掛けに気付かないと追うことも出来ないだろう。
「一旦は引くしかない。
せっかくここまで順調にこの地を支配していたものを
帝国の狗が黙っていれば良いものを」
怒りに階段を降りる足音は乱暴である。
階段を降りきった子爵は右手側の扉に入っていく。
そこで一旦立て直しを図らなければ
奴もこの事態に気付いているだろうから心配はしていないが
かの国との交友が途切れるのは損失だ。
素早く建て直せばまだ縁を切られることはない。
嗅ぎ付けるとしてもまだ余裕があるはずだ。
それまでに奴等の手の届かない場所に移動しなければ