雪色世界
この作品はテーマ小説参加作品です。今回のテーマは“雪”です(о・ω-о)僕以外の小説を読みたいそこの貴方!“雪小説”と検索すると直ぐに読めちゃいます♪ それでは、僕の小説『雪色世界』をお楽しみ下さいませm(__)m
しんしんとしたこの空間は、見渡す限り真っ白の雪色世界ーー。
空からは雪が降り注ぎ、留まる事を知れず。一面に広がる真っ白の絨毯は、行く手を阻み。無音無臭の幻想的な世界は、見る者を圧巻へと誘う。
ただ不自然なのは、真っ白の中に一点の明かりが灯っている事だ。その明かりはよく見れば家の明かりだと分かるが、何故このような人気がない場所にソレは存在するのだろう。
ーー雲脚が早く、晴れ渡っていて、太陽が暖かい下、歯車は静かに動きだす。
……キーッ。
奇妙な音をたてながら、木製の扉は開いた。そこには、防寒着をしっかりと着込んだ醜い女性がいた。
荷物を何も持っていない事から考えると、空気でも吸いに外に出て来たのだろうか……。彼女は空を見上げ、笑顔になり、真っ白の絨毯を歩く。それは徐々に、視界から小さくなっていった。
果たして何処に向かうのだろうか?
その姿を見届けていた男と女。二人は強く手を握り震えを押さえている。
ゆっくりと互いの顔を見やり、頬を朱に染め視線を逸らす。男はアハハと笑った。女も共に笑う。
「静謐な人生を君と送りたかった。小さな命が輝いて欲しかった。でも君と歩んだいばらの道は、掛け替えのない時間だった」
「私も貴男と同じ気持ち。私達に陽光は当たらなかったけど、決して枯れる事は無かった。愛し合っていたからね」
目と目を合わせ、顔を近付ける……。
今度は逸らす事は無かった。顔を赤くする事も無かった。唇が触れ合い愛し合っている二人。
「さぁ、そろそろ行こうか? 二人だけの世界に」
「ええ。今度こそ幸せになりましょう」
果たして何処に向かうのだろうか?
ーー水面は凍てつき、半身だけ外に出ている間抜けな魚。水中では自由に動き回れるが、それ以外の場所では無力だ。一度罠に引っ掛かかればもう後戻りは不可能。後はただ待つだけ。
暖炉によって暖められた部屋には、少年と中年男性が隣り合って椅子に座っていた。二人は目の前にある火をぼんやり見ている。
メラメラと燃え火花が散っている、それを。
「……なぁ。お前はどうしてここに?」
沈黙を破り、少年へと問い掛ける中年男性。
「ここが目的地だから」
ぶっきらぼうに答える少年。
「そうか。目的地か。
俺はな……罪を償うために来た。皆に迷惑をかけ、勝手にさようならは申し訳ないと思う。だけどな、こうするしかなかったんだ。俺にはこれしか……」
啜り泣き、音は静かな部屋に悲しく響いた。
「泣くなよおっさん。自分で決めた事なんだから」
隣にいる者に慰めの言葉もない少年は、素っ気なく言った。
「はは。そうだよな。
子供の君に注意されてるようだから、俺はダメなんだろうな」
静かに笑いだす中年男性。楽しくはないだろう、悲しいから笑うしかないんだろうと思う。
ソレは不気味に聴こえ、ゆっくりと耳に残った。
「……そんなに辛かったら、誰よりも先に行動を起こしたら良かったのに。
そうすれば、今頃楽になっていたのに」
クスクスと笑いながら、馬鹿にしながら発す。少年の言葉が耳に入った中年男性は、急に静かになった。 ゆっくりと立ち上がると、歯軋りをしながら目を白黒させて、
ドス……。
鈍い音が聴こえ、ソレはあっという間に消え去る。 もうそこには、暖炉の前で横たわる一人の姿しかなかった。手足はピクリとも動かなく、頭からは血が出ているーー。
玄関に靴は一足しか無かった。木製のドアは誰かに開けれたままになっていて、風でたまに雪が入る。
ーー後はただ待つだけ。天へ導かれるのを。
真っ青の空から眺めてみる。醜い女、愛し合っている二人、服に赤いモノが付着している中年男性を。
彼らはただひたすら先を目指して歩く。足場が悪く進みにくい道を、一歩一歩確実に。
先には何も見えないぞ? 先には何もないんだぞ? それでも君達は行くと言うのか。それでも君達は笑うと言うのか。
ーー醜い女。
彼女は整形によって美を無くした。何もしない方が一番美しいという事に気付かず、手を入れてしまった。結果こうなったのだ。
「着いた。ここね?」
醜い女は突然立ち止まり、その場に寝転び、目を瞑る。
「私じゃない。こんな醜い顔は私じゃない……。
神様、私は美しくないと生きてる意味が無いのよ!
だから神様、もう一度私に美をちょうだい!」
ーー愛し合っている二人。
二人は、決して愛してはイケない関係。それは、二人には同じ血が流れているから。しかし、断ち切る事は出来ず赤い糸を結んでしまった。
親は二人を引き離し、近所の人は二人に冷たい視線を送り、仕事は無くなり、最後には借金までした。結果こうなったのだ。
「着いた。ここだね?」
「ええ」
愛し合っている二人は突然立ち止まり、その場に寝転び、目を瞑る。
「寒いな。くっつこうか」
「うん。お兄ちゃんはあたたかいしね」
ーー服に赤いモノが付着している中年男性。
彼は、会社の社長だった男。不景気だが、社員を辞めさせる事はなく皆から信頼されていた。
しかし、あからさまに嘘だと分かる話しに騙されて会社は倒産してしまった。結果こうなったのだ。
「着いた。ここだな?」
服に赤いモノが付着している中年男性は、突然立ち止まり、その場に寝転び、目を瞑る。
「今思えば、あんな旨い話を信じた俺が馬鹿だ。
奴に、うまうまとだまされたのか……」
飛行機雲が消えかかった時、四人に暖かな光が当たった。とても幸せそうな顔をしながら光に包まれる。 光が当たらなく、悲しい顔をしながら暗い部屋に横たわる一人を除いて。
…………………………