第4話 魔王様、ここはデートスポットではありませんよ(ラスト)
「しかし……ここが最奥なのに、どこにも出口が無いな……」
ロッシュが部屋の壁や床を検分しながら困り果てていると、アストラゼノスが楽しそうに提案してきた。
「そうだね……じゃあ、このままここで二人で暮らす?」
「なに言ってんだよ。少しは危機感ってものを持てって……」
ロッシュが呆れたように言いかけた、その時だった。
――ズズズ……。
突如として空間がぐにゃりと歪み、昨夜と同じ冷たく禍々しい気が部屋を満たす。漆黒の亀裂から現れたのは、骸骨の仮面とフードを身に纏った死神――ネクロアだった。
「……魔王様、ここはデートスポットではありませんよ」
淡々とした声で言い放つネクロアに、アストラゼノスはぷいっと横を向いて胸を張った。
「ふんっ、ロッシュと一緒ならどこでもデートスポットよ!」
「ん? なんで呼ばれてないのにネクロアがここに?」
首をかしげるロッシュに、ネクロアは静かに答える。
「……オーバーロード様が魔王様をお探しです」
「あはっ、分身がバレたのね(笑)」
自業自得な理由で納得する魔王様にロッシュが頭を抱えていると、ネクロアは台座の上の宝箱へ視線を向けた。
「ロッシュ様、この宝箱をずらしてください」
「え?……こうかい?……あっ!」
言われるがままにロッシュが重い宝箱を横へ滑らせると、隠されていた魔法陣が露わになり、部屋全体が眩い光に包まれた。
――数秒後。
まぶたを開けると、そこはオレンジ色の夕空が広がる地上――遺跡の裏手にある林の中だった。
「もう! 余計な事をしないでよ、ネクロア!」
「……申し訳ありません、魔王様」
不満そうに足を鳴らすアストラゼノスと、その前で静かに跪く死神。
しばらく不機嫌そうにしていたアストラゼノスだったが、ロッシュの方へ振り返ると、一転して満面の笑みを浮かべた。
「ったく……。じゃあ、今日は楽しかったわ、ロッシュ! またね♡」
名残惜しそうに手を振りながら、彼女は現れた漆黒のゲートの中へと消えていった。
静まり返った林の中、ガサガサと草木が揺れる音が響く。直後、藪の中から猛烈な殺気を放つ狼型の魔物の群れが姿を現した。……が、佇むネクロアの姿と底知れぬ死気に気付いた瞬間、魔物たちは悲鳴のような鳴き声を上げて一斉に脱兎のごとく逃げ出していった。
「はぁ……こいつもか……」
アンデッドのみならず、野生の魔物まで一瞬で追い払う死神の存在感に、ロッシュは乾いた溜め息をつく。
「それでは失礼します、ロッシュ様」
「あ、ああ。お疲れ、ネクロア」
ぺこりと小さく頭を下げ、ネクロアもまた漆黒のゲートの中へと姿を消した。
残されたのは、夕日を浴びながらぽつんと佇むロッシュただ一人。
こうして、ロッシュの災難だらけ(?)な隠しダンジョンの長い一日は、ようやく終わりを迎えたのだった。
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