番外編【モブと魔王城】ラスト
カラクリメイドが凛とした動作で、広大な食卓に料理を次々と並べていく。
先代魔王ゼノの前に置かれたのは、禍々しい血を滴らせる謎の生の肉塊。魔女モーガナの前には、怪しく蠢く未知の生物の目玉が浮いたスープ。
そして、アストラゼノスとロッシュの前には、こんがり(?)と焼かれた巨大なトカゲのソテーが並べられた。
「こ、これ食べるの……?」
どん引きした様子で身を引くロッシュに、先代魔王ゼノは肘をつき、わざと意地悪そうな笑みを浮かべて問いかける。
「ふむ……それは我が魔族の幼児が食べる定番の料理。……人間には魔族の料理など受け付けぬとでも言うのか?」
「フフ……魔王様、所詮は人間。私たちとは相容れぬようですね」
モーガナもスープを優雅に揺らしながら、クスクスと笑う。
そんな大人たちの探さぐり合いなどどこ吹く風で、アストラゼノスがロッシュの顔を覗き込んだ。
「ロッシュはいつもなに食べてるの?」
「えっと……木の実とか、果実とかかな。マチに行けばサカナとかもあるけど」
「魚はいつもラクリマが餌として食べてるけど……木の実と果実ってなーに?」
「木の実? 果実?」
聞き慣れない単語に、先代魔王も眉をひそめる。
「うん! すごく美味しいんだよ! ぼくの家の近くにあるから、採りにいこうよ!」
「ほんと!? 行く!」
「こ、こら! アストラゼノス! 人間の領地へ行くなど――」
「ネクロア! ゲート!」
「……はい、姫様」
「キャハハハッ!」
慌てて制止しようとする先代魔王の声を振り切り、アストラゼノスはロッシュの手をギュッと握り締めると、ネクロアが開いた漆黒のゲートへと飛び込んでいく。
ネクロアも静かに魔王へ一礼すると、そのまま淡々とゲートへ入っていった。
パチン、と音を立ててゲートが消え、広々とした食堂には先代魔王ゼノと魔女モーガナだけが取り残される。
「……まったく、誰に似たんだか……」
先代魔王は盛大な溜息をつき、頭を抱えた。
「ネクロアがおりますから姫様の身に危険はありませんが……それにしても、あのロッシュとかいう人間の子供。私が見る限りなんの能力もなく、魔法適性もいたって普通。どうして姫様はあのような人間を……」
首を傾げるモーガナに対し、先代魔王ゼノは肘を解き、静かな眼光で消えたゲートの跡を見つめた。
「うむ、我から見ても彼は潜在能力も無く、本当に普通だ。……しかし、我ら魔族を見る目に1ミリとも恐怖を感じておらん。誠に稀有な存在だ」
「ええ……あのくらいの年齢の子供が魔族に接することは時々ありますが、必ず震え上がりますからね」
「……我がオーラにすら、欠片も怯まなかった」
「!! ……そんなことって……」
絶対的な魔王の威圧を素でスルーしたという事実に、モーガナは目を見開いて絶句する。
「フハハハハ!」
「魔王様……」
「モーガナよ。彼は……『能力皆無の大物』になるぞ」
「フフフ……そうかもしれませんね」
静まり返った食堂に、先代魔王の豪快な高笑いと魔女の可憐な微笑みが優しく響き渡るのであった。
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