第20話 交錯する策謀と、明日の話(その1)
夕方のロッシュの家。
リビングのテーブルにアストラゼノスが腰掛け、その横にピタリと控える死神ネクロアと静かに言葉を交わしていた。
「……そう。なら、問題ないじゃない」
「……私もそう思います。今回の勇者は賢者に頼り過ぎて、自滅した感じですね」
「あとは教科書通りね。レガリアのところの魔獣を、勇者が滞在する街の踊り子に化けさせたり、街の有力者に化けてスケルトンだらけの洞窟に誘導させなさい。そこで勇者を討ち取れれば、向こう数十年は平和だわ」
幹部が直接乗り込んで勇者を殺りに行く――なんて頭は魔族側には一切なく、数千年にわたる魔族と勇者の関係において、あくまで「間接的に罠を張って危害を加える」のがセオリーだった。
そのため、「自分たち幹部が直接前線に出向いて叩く」という選択肢など、魔族側の誰も思いつくことすらなかったのである。
人間の寿命はせいぜい数十年に過ぎず、歴代の勇者も志半ばで力尽きる者ばかり。
過去に二度だけ、魔王城の最奥へ到達した勇者が現れたものの、玉座を守護する警備隊長デュラハンによって一蹴されている。
――ガチャリ。
と、その時、玄関の扉がガチャリと開かれた。
「……また居たのか、お前ら」
「おかえりなさい、ダーリン♡」
「い、いい加減その呼び方はやめろよ……」
「……おかえりなさいませ、ロッシュ様」
「ああ、ネクロアも来てたんだな。ネクロアはネクロアで、相変わらず丁寧な口調だな」
「……恐れ入ります」
「死神が恐れ入るなよ……」
呆れ顔で頭を押さえるロッシュに、アストラゼノスは嬉しそうな笑みを向ける。
「で? 今日はなんの用で来たんだよ」
「うん! ラクリマが『ロッシュに会いたい』って言ってるからさ、明日、ヴェルダンで一緒に船釣りに行かない?」
「明日?! ……まあ、特に予定はないからいいけどさ……」
「やったぁ!」
「じゃあ明日は、ネクロアのゲートで行くのか?」
ロッシュの問いかけに、アストラゼノスがサッと横に立つネクロアを鋭く睨みつける。
「……あー、明日はちょっと別の用事が入っておりまして、申し訳ありません」
「……」
死神のあからさまなお手本のような棒読みを不審に思いつつ、ロッシュは言い直した。
「じゃあ、ゼノスのゲートで――」
「明日は使えない日なの♡」
「……」
「でも大丈夫! 明日は私がちゃんとお弁当を手作りしていくから♡」
「……昔みたいに、トカゲの丸焼きサンドイッチとかは勘弁してくれよ」
「あはっ、あの時にロッシュにすごく怒られてからは、ちゃんと普通の玉子サンドイッチを作るようにしてるよ」
「ひどいなぁ、ちゃんとロッシュの好みの味付けにしてるんだからね! 楽しみにしてて!」
「はいはい……。じゃあ明日は早起きしなきゃな」
くすくすと嬉しそうに笑うアストラゼノスと、やれやれと肩をすくめるロッシュ。
こうして、モブキャラと魔王の明日のヴェルダン船釣りデートが決まるのだった。




