第17話 魔王様の誘いと、ヴェルダン城の困り事(ラスト)
「……は?」
ただ横に立っているだけのはずだったロッシュは、開いた口が塞がらないのだった。
「む、無理無理無理! セリア様、俺みたいなのが意見出来る立場じゃないですし、そんな大層な能力もありませんから……!」
「いいえ、ロッシュ様! 現に私は……ヴェルダンはロッシュ様の策によって救われております!」
「いや、あれはただ――」
「お願いいたします! なにとぞ、ヴェルダンにお知恵をお貸し下さいませ!」
そう叫ぶや否や、新城主であるセリアはヴェルダンの街の真っ只中で、ロッシュに向かってバッと深く跪いた。
その光景に、周囲を行き交う国民たちがびっくりして足を止め、三人の様子を息をのんで凝視し始める。
「あ、頭をお上げ下さいセリア様……! えーと、えーと……っ!」
慌てふためきながらも、ロッシュは頭をフル回転させ、無い知恵を必死に絞り込んで考え込んだ。
「……そうだ! ゼノス! 確か昔、魔王城の外で氷を張って遊んでたよな?! あれって今でもあるのか?」
「あるよ? あれは氷のおっちゃんが『永久凍土』で凍らせたからね……あっ」
「それだ! おっちゃんに頼んで作ってもらおう!」
氷の魔神である幹部・氷王の固有スキル『永久凍土』。
この『永久凍土』は、一度スキルを展開しておけば、物理的に解かさない限り、上から水をかければ際限なく氷が生み出され続けるという特殊な領域を作り出す技だった。
「……氷……?! ……魔神……?!」
とんでもない大物の名前がサラッと飛び出し、セリアは目を丸くして呆然とする。
「セリア様、どこか一つ、大量の水を貯められそうな大きな施設はありますか?」
「えっ、ええ……! 汲んしてきた海水を貯め、出荷できない魚介類を一時的に保存するための施設をちょうど作っております! 今日の夕方に完成予定ですが……」
「それです! そこを使いましょう!」
◇
案内されたのは、街の近くにある広々と深いくぼみが掘られた保存施設だった。
現場に到着するなり、アストラゼノスはスッと手をかざし、目の前に漆黒の転移ゲートを開いてみせた。
(……やっぱりゲート使えるじゃんかよ……)
行きの馬車での嘘を思い出し、ロッシュは心の中で力いっぱいツッコミを入れた。
「おっ、小僧! またこんなに早く会えるとはなぁ! がははは!」
ゲートの向こうから豪快な笑い声とともに現れたのは、身長3メートル近い青い肌の巨躯を持つ氷結の魔神・氷王だった。
「おっちゃん!」
「おまえの力を貸してほしくてな」
ロッシュと親しげに挨拶を交わす氷王に、アストラゼノスが声をかける。
「姫……いや、魔王様! このワシの力は魔王様のものじゃ。何なりとお申し付けくだされ!」
「うん。では、あそこに『永久凍土』を頼む」
アストラゼノスが指さしたのは、目の前にある広く深いくぼみだった。
「そんなのお安い御用ですわ! がははは!」
氷王が巨大な掌をくぼみに向けてかざすと、一瞬で冷気が吹き荒れ、くぼみ全体の表面に薄い霜が張り付いて真っ白に染まった。
「さあ、セリア。あそこに水をかけるといい」
「っ、皆さん、水を……水をおかけしなさい!」
ハッと正気に戻ったセリアが指示を出すと、後ろに控えていた兵士たちが桶でバシャバシャと水を流し込み始めた。
すると――水が触れた端からピキピキと一瞬で凍りつき、魚介類の保存に最適な透明な氷がみるみるうちに出来上がっていくではないか。
「す、すごい……! これで、氷に困ることはありません……!」
感涙を流して喜ぶセリアと、歓声を上げる周囲の国民たち。
――こうして、またしても図らずも新たな伝説を作り上げてしまったロッシュ。
この場所はのちに、『魔王様の軍師の力で氷を永久的に作り出す聖地』として、末永く語り継がれることになるのであった。
その後、海のない領土への海産物の貿易が再開され、益々魔王領が栄えていくのだった。
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