第6話 魔翔王と勇者(その1)
北西の山岳地帯――険しく切り立った岩肌が続くその地には、無数の羽や翼を持つ魔物たちの凄惨な死骸がうずたかく積み上がっていた。
血生臭い風が吹き抜ける惨状の中、上空で大きな翼を優雅にはためかせ、ホバリングしている一羽の魔物――あらゆる飛行魔獣の頂点に立つ『魔翔王』テンペスタ。
そして地面には、武器を構え殺気を滾らせる三人の人間――勇者パーティーが対峙していた。
「ついに現れたな、魔翔王……!」
聖剣を握りしめた勇者が鋭い視線で睨みつける。だが、対するテンペスタは緊張感のカケラもなく、あくび混じりに羽を揺らした。
「現れたってゆーかぁ、なんか騒がしいから見にきただけじゃーん」
「なんだコイツ……!? やけに馴れ馴れしいな……!」
大斧を構えた戦士が、テンペスタの拍子抜けするような態度に怒りを露わにする。その隣で、杖を握りしめた僧侶が叫んだ。
「騙されないで! ハーピーとかの悪魔は、そうやって油断させるのが手口なんだから!」
「ハーピー? バッカじゃないの? 彼女達はね、ただ歌ってるだけなの! 分かる? 歌ってるの見られたから攻撃しただけ! あんたらだってさー、恥ずかしいところ見られたらビンタするっしょ!?」
「ビンタと殺戮は違う!!」
勇者の怒号に対し、テンペスタは呆れたように周囲の死体を見下ろして首をかしげた。
「いやいやいや、それじゃああんたらがやってるこの行為は何なの? 殺戮じゃん」
「ええーい! 人を惑わす悪魔め!!」
言いくるめられそうになった戦士が痺れを切らし、大斧を天に掲げて雄叫びをあげる。瞬間、暗雲から一筋の激しい雷光が走り、テンペスタの頭上へと一直線に落ちた。
バリバリと不気味な放電音が響き渡る。――しかし、煙の中から現れたテンペスタは、髪の毛一筋すら乱れていなかった。
「なにその電気(笑)。雷ってゆーのはね……こうやって使うのよ!」
テンペスタが両翼を大きく広げた瞬間、空が真っ黒に染まり、天を突くほどの巨大な雷の嵐が勇者パーティーへと容赦なく降り注いだ。
「「「ぐわぁぁぁぁぁぁっ!!」」」
絶叫が山々にこだまする。
――だが、その圧倒的な紫電の渦を突き抜け、一筋の影が奔った。
「……っ!?」
勇者だった。目にも留まらぬ超絶的な速度で雷の隙間を潜り抜けた彼は、地面から突き出た巨大な岩盤を足場に一跳び。空中のテンペスタの背後へと回り込むと、その背中へ渾身のジャンプ斬りをお見舞いした。
バリィンっ!と重い衝撃音が響き、テンペスタの背から鮮血が舞う。
「いったぁーーーっ!? なにすんのよバカ!!」
テンペスタが悲鳴をあげながら猛然と羽を振り払うと、勇者は吹き飛ばされ、激しい音を立てて岩肌へと激突した。
「勇者様っ!」
衝撃で打ちつけられながらも、すかさず自分と戦士の治療を終わらせていた僧侶が、すぐさま勇者の元へ駆け寄り高度な回復魔法をかける。
「レディーを背後から斬りつけるなんて頭おかしいんじゃないの!? アンタ!」
怒りで顔を真っ赤にするテンペスタ。戦士は痛みに耐えながら、忌々しそうに吐き捨てた。
「チッ……やはり前の魔獣王での戦いで魔法使いが殺られたのが痛いな……! 遠距離攻撃の手段が少なすぎる……!」
「いや……そうでもないさ」
膝をつきながらも、勇者は不敵な笑みを浮かべた。
「……!?」
テンペスタが違和感を覚えて己の背中に手をやると、斬られた傷口からドロリとした不吉な黒い霧が噴き出していた。その霧が身体にまとわりつくたび、体力がゴリゴリと削り取られていく。
「フッ……この『呪いの剣』で斬られた傷には、毒消し草や並の回復魔法じゃ絶対に消えない強烈な呪いがかかるんだよ……!」
「え? マジ……? ……やっべ」
テンペスタの顔から余裕が消え、冷や汗が頬を伝うのだった――。




