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自律神経終了チャンネル

作者: 朝見融理
掲載日:2026/06/20

ハイパー短編です。

「このチャンネルを見てしまった皆さん、残念ながらあなた方の自律神経は、チェンソーでザックザック切られてしまったかの如く、枝分かれのオンパレードでしょうね。かくいうこの私もそうなので、す、が。……ちょ、なんで起きてんの母さん、あんたはもう3時間前には布団に入っただろ。は? トイレならひとりで寄り道せず行けよ。なんで私の部屋覗き見するわけ? ノックくらいしろよ。あんた思春期未経験? ざっけんなマジで。いーから、後で寝るからはよ出てってくれ、迷惑なんだよ」

 チャンネルの主の怒号が、画面全体を塗りつぶす。深夜2時、スマホを惰性で眺めていた先に見つけたのが、この“自律神経終了チャンネル”だった。日を跨いだ深夜、5時間ほど、リアルタイムで主の愚痴を配信するこのチャンネル。毎日更新されているのに、愚痴の中身は毎日違う。

「ごめんね、母さんが入ってきやがったわ。あんなこと言ったけどね、一応私を産んでくれた母さんだから、プライバシーは保護しました。いやあ、経験ありません? 自室でひとりポエムを歌っていたら、親が乱入してくること。ありますよね? ……え、ポエムなんて作ったことない? それはひどく勿体無いですよ。人間の感情なんて、言葉にしたら捨てられるんですから。汚いゴミのようなあの不快感、捨てたいでしょう? だったらポエムを作りましょう」

 僕は1か月ほど前から、夜、眠れなくなった。両親にはスマホの見過ぎで目が活性化しているからだと言われたが、僕がスマホに禁欲するなんて、無理な話だった。絶えず新しいものが流れてきて、終わりを知らないインターネットの世界は、僕にとっては革命的で、スマホを買い与えられた翌日から、スクリーンタイムを上々に延ばし続けている。

 インターネットがないと、僕の神経は鈍麻し、インターネットがないと、僕の脳は破壊される。

 きっとこれを、世の中の人々は中毒と呼ぶ。夜、眠れず、朝、起きることができない。革命的な神器は、僕の生活の歯車を乱した。この脳の繊維がほつれ、色を失ったような錆びた感覚を、一体僕はどう、立て直せというのだろうか。

 わからないから今日も、張り付く先は“自律神経終了チャンネル”だ。

「言葉ってね、結局吐瀉物なんですよね。吐いたら消えるけれど、吐いた後のあのもわーっとした、気味悪い微生物がわいたんじゃないかっていう感覚は残る。つまり、さっき言ったことと矛盾するけれど、感じたことはなくなってくれない。見えないものって、なくなりませんからね。でもせめてもの救いとして、私たちは何かを言う、話すんですよ。そして、書くんです。私はね、高校卒業後からどこにも行ってません。しんどいでしょ? しんどいんです、それがね。だからこうして話し続けているわけですよ。ある意味、現実逃避かな。これ見てるあなた方もそうでしょう? こんなバカ遅い時間、付き合ってくれるわけですから。どうぞご自愛くださいね。コメント送ってくれたらなんでも拾いますよ」

 今日の主の言葉は、細胞のひとつひとつに浸透していく。汚れ切ったデキモノだらけの細胞が、一唸りあげそうだった。深夜2時23分、僕はスマホのキーボードを叩く。

「お、ゲンさん、コメントありがとうございます。うんうん、なるほどね。脳の繊維がほつれたような堕落を極めたこの日々から脱するにはどうすればいいですか……今のこのコメントを、無地の白紙にシャープペンなり鉛筆なりで書いてみたらいいと思いますよ。深夜に生配信している私に言われても説得力はないでしょうが、アナログで字を書くことは脳の休憩になりますので。SNS上で繰り広げられる活字の交流もいいですがね、枝分かれのひどい自律神経を労ってくれるのは、五感ですからね。だから私は今日もポエムを書きますよ。自律神経の営業を無事再開したいので」

僕は自律神経が弱いです。

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