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沈黙の推理者  作者: 最後に残った形
第3章

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第3章 第7話:ジュネーブへの道


あらすじ:黒川の告白により、シャドウ・ネットワークの真の指導者・アレクサンダー・ヴァイスの所在が判明した。国際的な共同捜査が本格化する中、智也と美優は、スイスへの渡航を決意する。だが、その計画は、シャドウ・ネットワークに察知され、複数の妨害工作が始まる。渡航準備を進める中で、思わぬ人物からの接触があり、智也は、この旅がただの調査ではなく、自分自身の限界を試す旅でもあることを、痛切に感じ始める。


---


黒川誠一郎の正式な証言は、翌日、警察署で行われた。


その証言は、約六時間にわたった。


シャドウ・ネットワークの設立の経緯。


アレクサンダー・ヴァイスの思想と目標。


日本国内での活動の全容。


複数の主要メンバーの名前と役割。


そして、ジュネーブの研究機関の詳細な所在地。


それらの情報は、全て、正式な記録として残された。


進藤刑事は、その証言を受けて、国際刑事警察機構インターポールに対して、アレクサンダー・ヴァイスに関する情報を提供した。


インターポールの対応は、予想以上に素早かった。


「アレクサンダー・ヴァイスについては、複数の国からの情報が、既に蓄積されていた」


インターポールの担当者は、進藤刑事にそう伝えた。


「彼は、長年、複数の国で、同様の活動を行ってきたが、これまで、十分な証拠がなかった。今回の証言により、本格的な捜査が可能になった」


その言葉は、智也と美優に、大きな希望をもたらした。


彼らの調査が、国際的な捜査の進展につながったのだ。


だが、同時に、新たな問題も浮かび上がった。


インターポールが動き始めたことを、シャドウ・ネットワーク側が察知した可能性があったのだ。


その懸念は、すぐに現実のものとなった。


証言の翌日、黒川誠一郎の自宅に、何者かが侵入した。


幸い、黒川は警察の保護下に置かれていたため、身体的な被害はなかった。


だが、侵入者の目的は、黒川の証言の証拠を消すことだったようだ。


複数の書類が持ち去られていた。


その事実から、シャドウ・ネットワークが、黒川の証言に対して、即座に反応したことが明らかになった。


つまり、彼らは、まだ、日本国内に、複数の実行者を抱えているのだ。


「急ぐ必要があります」


智也は、進藤刑事と村上に、そう伝えた。


「シャドウ・ネットワークは、既に、対応を始めています。アレクサンダー・ヴァイスへの接触を、急がなければ、彼は逃亡するかもしれません」


「だが、君がスイスに渡航するのは、危険だ」


進藤刑事は、そう反対した。


「シャドウ・ネットワークは、既に、君たちを標的にしている。スイスへの渡航は、さらに危険を高める」


「わかっています。ですが、アレクサンダーへの直接接触なしに、この事件を解決することはできません」


美優も、同じ意見だった。


「私たちは、黒川さんから、アレクサンダーの連絡先を得ています。まず、直接接触を試みる価値があります」


進藤刑事は、長い沈黙の後、以下のように言った。


「わかった。ただし、単独での渡航は、絶対に認めない。複数の安全対策を講じた上で、渡航することを条件とする」


「どのような安全対策ですか」


「まず、渡航の計画を、最小限の人数にしか知らせない。次に、複数の偽の渡航計画を流すことで、シャドウ・ネットワークの注意を分散させる。そして、現地では、インターポールの協力の下、行動する」


その条件に、智也と美優は同意した。


渡航準備が、密かに始められた。


その準備の過程で、思わぬ人物からの接触があった。


**田中陸斗の母親**だ。


田中陸斗。第一章の発端となった、転落死した生徒の母親。


彼女は、学園の通用口で、智也を待っていた。


「千葉さん、少しだけ、お話しできますか」


彼女の目には、悲しみと、それでもなお消えない、何かへの期待が、混在していた。


「はい。もちろんです」


二人は、近くのカフェに入った。


「息子のことを、覚えていますか」


「はい。田中陸斗さん。第一章の発端となった事件の被害者です」


「そうです。息子は、なぜ、あのような状況に追い込まれたのか。ずっと、考えてきました」


「その答えは、複数の捜査により、明らかになっています。息子さんは、学園内のゲームに巻き込まれ、心理的に追い詰められた結果、転落しました。その責任は、ゲームを設計・実行した者たちにあります」


「わかっています。でも、私が聞きたいのは、そういうことではないのです」


彼女は、一呼吸置いた。


「息子は、なぜ、誰にも相談しなかったのか。なぜ、一人で抱え込んでしまったのか」


その質問は、智也の心に、深く刺さった。


なぜなら、それは、智也自身にも当てはまる問いだったからだ。


なぜ、人は、苦しい時に、誰かに相談できないのか。


なぜ、一人で抱え込んでしまうのか。


「おそらく、信頼できる人がいなかったのだと思います」


智也は、静かに答えた。


「ゲームの仕組みは、生徒たちの人間関係を、意図的に破壊するものでした。誰かを信頼しようとすると、その信頼が、ゲームに利用されてしまう。だから、誰も信頼できなくなってしまったのだと思います」


「では、どうすれば、よかったのでしょうか」


「それが、私にとっても、難しい問いです」


智也は、正直に答えた。


「私自身も、人間不信を抱えています。かつて、親友だと思っていた人物に、裏切られた経験があります。その経験から、長い間、誰も信頼できませんでした」


「でも、今は、違うのですか」


「今は、鮎川さんという、信頼できる人がいます。そして、進藤刑事や、村上先生もいます。彼らとの関係を通じて、少しずつ、人を信頼することができるようになってきました」


「それは、どうやって?」


「彼らが、私を裏切らなかったからです。そして、私も、彼らを裏切らなかったからです。信頼は、時間をかけて、少しずつ、積み上げられるものなのだと思います」


田中陸斗の母親は、その言葉を、静かに聞いていた。


「息子も、そのような人に出会えていれば、違う結果になっていたかもしれませんね」


「その可能性はあります。ですが、それは、息子さんの責任ではありません。そのような出会いを、意図的に妨害した者たちの責任です」


「そうですね」


彼女は、小さく頷いた。


「一つだけ、お願いがあります。スイスに行かれるとお聞きしました。その旅の先で、息子の死の本当の意味を、明かしていただけますか」


「必ず、そうします」


智也は、その約束を、心の深いところに刻み込んだ。


田中陸斗の死は、単なる事件の発端ではない。


それは、一人の若者の命が、この陰謀の犠牲になったという、厳然たる事実だ。


その事実を、決して忘れてはならない。


渡航の二日前、複数の妨害工作が、本格化した。


まず、智也と美優のパスポートが、何者かによって、一時的に行方不明になった。


幸い、すぐに発見されたが、それは、明らかな脅迫だった。


次に、渡航に使用する予定の航空会社から、以下の通知が届いた。


「セキュリティ上の理由により、ご予約を、キャンセルさせていただきます」


その通知は、シャドウ・ネットワークが、航空会社に対して、何らかの圧力をかけた結果だと考えられた。


進藤刑事は、別の航空会社を手配した。


そして、渡航計画を、さらに秘密にするために、複数の偽の計画を流した。


その偽の計画の一つは、「智也と美優は、アメリカに渡航する」というものだった。


もう一つは、「渡航は、一週間後に延期された」というものだった。


その偽情報の効果を確認するために、進藤刑事は、複数の警察関係者に、その情報を伝えた。


そして、どの情報が外部に漏れるかを、監視した。


その結果、「一週間後に延期」という偽情報が、外部に漏れていることが判明した。


その情報を伝えたのは、警察庁内部の、**一人の中堅刑事**だったことが、特定された。


進藤刑事は、即座に、その刑事を、任意同行させた。


「お前が、情報を漏らしたのか」


その刑事は、最初は否定したが、複数の証拠を突きつけられた後、認めた。


「わかりました。全て、話します」


その供述により、警察内部のシャドウ・ネットワーク関係者が、ついに、特定されたのだ。


その週の木曜日、智也と美優は、東京国際空港から、スイス・ジュネーブへの便に搭乗した。


見送りに来たのは、進藤刑事と村上准教授だけだった。


「気をつけろ」


進藤刑事は、そう言った。


「必ず、帰ってくること」


智也は、頷いた。


飛行機が離陸する瞬間、智也は、窓から東京の夜景を見下ろした。


あの学園の図書館の奥の席から、ここまで来た。


一人で、静かに推理をしていた少年が、今、国際的な陰謀の中心へと向かっている。


その変化は、彼に、信頼の力を教えてくれた。


美優という信頼できる人物。


進藤刑事という、正義を信じる人物。


村上という、知識を惜しまず共有する人物。


彼らがいたから、自分はここまで来ることができた。


その感謝の気持ちが、智也に、前へ進む力を与えていた。


機内で、美優が、智也に声をかけた。


「着いたら、まず、どうする?」


「黒川さんから得た連絡先を使って、アレクサンダーに接触を試みます」


「彼が、応じるとは限らない」


「そうですね。ただし、黒川さんの分析では、アレクサンダーは、自分の思想を他者に語ることへの強い欲求を持っているらしい。その欲求に訴えることで、接触できるかもしれません」


「なるほど。田中隆太郎の時と似たアプローチね」


「はい。ただし、アレクサンダーは、田中よりも、はるかに知能が高く、用心深い。そのことを、念頭に置く必要があります」


美優は、小さく笑った。


「あなたと話していると、いつも、不思議な安心感がある。どんな困難な状況でも、冷静に分析して、前に進む方法を見つけ出す」


「美優さんがいるから、僕も前に進める」


その言葉は、智也にとって、自然に出てきたものだった。


美優は、少し驚いた様子だったが、すぐに、穏やかな表情に戻った。


「そういうことを、自然に言えるようになったじゃない。最初は、メールでさえ、なかなか返信できなかったのに」


「人を信頼することは、まだ難しいです。でも、あなたとの関係は、その練習になっています」


飛行機は、夜の空を、ジュネーブに向けて、飛び続けた。


智也の心の中では、複数の推理と計画が、同時進行で動いていた。


アレクサンダー・ヴァイスとの接触。


シャドウ・ネットワークの解体。


そして、田中陸斗の母親との約束。


それら全てを果たすために、彼は、ジュネーブへ向かっていたのだ。


---

第3章 第7話「ジュネーブへの道」完


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