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沈黙の推理者  作者: 最後に残った形
第3章

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第3章 第1話:新たな責任


あらすじ:国際民主主義保護条約が締結され、智也は条約監視委員会の委員長に、美優は特別報告者に指名された。だが、その重大な責任を引き受ける一方で、智也は自分がまだ高校2年生であることを、痛切に感じている。学園に戻った彼の日常は、以前とは大きく変わっていた。複数のメディア、複数の政府関係者、複数の国民たちからの期待が、彼の肩に重くのしかかる。そんな中、新たな事件の予兆が、静かに近づき始めていた。


---


国連本部での条約締結式から、三日後。


千葉智也は、久しぶりに、学園の制服を着ていた。


その姿は、以前と何も変わらない。


紺色のブレザー。ネクタイ。黒い革靴。


だが、彼の置かれた状況は、以前と全く異なっていた。


学園の正門に近づくと、複数のカメラが、彼を追いかけ始めた。


「千葉委員長、今日の学校についてのコメントを」


「千葉君、条約締結後の感想を」


「委員長、次の行動計画についてお聞かせください」


智也は、その問いかけの全てに、無言で対応した。


人前で話すことの苦痛は、依然として消えていない。


だが、それ以上に、彼には、新たな苦悩があった。


**「委員長」という称号の重さだ。**


国際民主主義保護条約の監視委員会委員長。


それは、極めて重大な責任を伴う立場だ。


複数の国の政府の行動を監視し、条約違反があれば、それを国際社会に告発する。


その責任を、高校2年生の自分が、本当に果たせるのか。


その疑問が、智也の心に、常に引っかかっていたのだ。


教室に入ると、複数の生徒たちが、一斉に振り返った。


以前であれば、誰も智也を気にしなかった。


だが、今は、違う。


「おはよう、千葉」


「委員長、今日も頑張って」


「俺たちも応援してるよ」


その言葉は、善意から来ていることは、分かっていた。


だが、同時に、智也は、以前の自分の日常が、もう戻ってこないことを、痛切に感じていた。


図書館の奥の、誰も来ない席。


そこで一人、静かに推理を巡らせる日々。


その日常が、もう、存在しないのだ。


休み時間になると、美優が、教室に現れた。


「千葉君、ちょっといい?」


彼女の声は、冷静だった。


いつもと変わらない、学園新聞記者の顔をしていた。


「特別報告者として、最初の報告書を、来月末までに提出しなければならない」


「えっ、もう?」


「そう。条約締結から三十日以内に、各国の条約準備状況についての初期報告書を提出することが、義務付けられているの」


智也は、その言葉に、さらなる重圧を感じた。


一ヶ月以内に、複数の国の政府の動向を調査し、報告書を作成しなければならない。


それは、高校生の通常の業務量を、はるかに超えるものだ。


「複数の国際的なジャーナリストと、研究者たちが、サポートしてくれることになっている。一人でやるわけではないわ」


「それは、わかっています。でも——」


「でも、何?」


「僕は、まだ、高校生です」


智也の言葉には、本音が込められていた。


推理者として、この事件に関わってきた。


だが、自分は、まだ、授業を受け、テストを受け、卒業を目指す、普通の高校生なのだ。


美優は、智也の言葉を聞いて、少し沈黙した。


「そうね。でも、高校生だからこそ、できることもある」


「どういう意味ですか」


「複数の政府の人間は、自分たちの利益のために動く。複数の専門家は、自分たちの専門知識の範囲内でしか考えない。でも、君は違う。君には、まだ、純粋に、正しいことと正しくないことを区別する能力がある」


「それは、誰でも持っているはずです」


「違う。権力を持つと、その区別が、歪んでくる。でも、君はまだ、権力を持っていない。だから、純粋に、正しい判断ができるの。それが、君が委員長に選ばれた本当の理由よ」


美優の言葉が、智也の心に、深く刻まれた。


権力を持たないことが、強みになる。


その逆説が、彼の責任の根拠なのだ。


その日の放課後、進藤刑事が、学園を訪れた。


「久しぶりだな」


進藤刑事は、以前とは異なる雰囲気を持っていた。


彼も、この事件を通じて、複数の変化を経験していたのだ。


警察内部での政権派との対立。


複数の圧力と誘惑。


それらを乗り越えて、彼は、いまだに、正義を追求し続けていたのだ。


「刑事さんも、お疲れでしょう」


「ああ。だが、まだ、やることがある」


進藤刑事は、そう言いながら、一枚の書類を取り出した。


「これを見ろ」


その書類には、以下のような内容が書かれていた。


**『複数の国において、国際民主主義保護条約の締結後も、継続して、民意操作行為が行われている可能性がある』**


**『特に、複数の国の政府系メディアが、条約の内容について、意図的に誤った情報を流している可能性がある』**


**『また、複数の企業が、表面上は条約に従いながら、実質的には民意操作行為を継続している可能性がある』**


その内容を読んだ智也は、深く眉をひそめた。


「つまり、条約の締結後も、問題が継続しているということですか」


「その可能性がある。だから、監視委員会として、早急に調査する必要がある」


智也は、その言葉の重さを、改めて感じた。


国際条約の締結により、表面上の問題は解決したように見えた。


だが、**本当の問題は、これからなのだ。**


複数の政府が、条約を遵守しているかどうか。


その監視が、委員会の本当の仕事なのだ。


「わかりました。早急に、調査を開始します」


「頼む。ただし、気をつけろ。条約締結後も、複数の脅迫が続いている可能性がある」


「どのような脅迫ですか」


「まだ、詳しくは把握していない。だが、複数の情報源から、君と美優さんへの危害を計画している集団がいるという情報が入っている」


「その集団は、誰ですか」


「それが、まだ特定できていない。だが、条約に反対している複数の組織のいずれかだと思われる」


その言葉が、智也の心に、新たな緊張感をもたらした。


第三章の課題は、単なる条約の監視だけではなかった。


依然として、脅迫と危機が、彼らの周囲に存在しているのだ。


その夜、智也は、自室で、複数の書類を読み込んでいた。


複数の国の政府から、監視委員会に提出された、条約準備状況の初期報告書だ。


その報告書を読みながら、智也は、複数の矛盾に気づき始めた。


例えば、**ある国の政府は、「民意操作行為を完全に停止した」と報告していた。**


**だが、同時期に、その国のSNS上では、明らかに政府寄りの内容の投稿が、不自然な速さで拡散していた。**


その矛盾は、極めて明白なものだった。


**政府は条約を守ると言いながら、実際には、継続して民意操作を行っているのではないか。**


その推測を、翌日の朝、美優に伝えた。


美優は、その推測を聞いて、複数の調査方法を提案した。


「まず、複数の国のSNSの動向を、継続的に監視する必要がある」


「次に、複数の国の政府系メディアの報道内容を、分析する必要がある」


「そして、複数の企業の動向を、財務的な観点から分析する必要がある」


その提案を受けて、智也と美優は、複数の国際的なジャーナリストや研究者たちと連携して、調査を開始することにした。


その週の金曜日、調査チームの最初の会議が、オンラインで開催された。


複数の国から、合計約五十名の専門家たちが、参加した。


その会議の中で、早速、複数の重要な情報が共有された。


例えば、**あるAIの専門家が、以下のような発表をした:**


「複数の国において、AIを利用した民意操作が、新たな形で行われている可能性があります」


「従来の手法では、特定の個人が、特定の情報を拡散する形でしたが、新たな手法では、AIが自動的に、複数の情報を生成し、拡散させる形です」


「その手法は、従来の法律では対応できない可能性があります」


その発表は、調査チーム全体に、衝撃をもたらした。


つまり、国際民主主義保護条約は、AIによる民意操作には、対応できていないのだ。


その事実が、第三章の中心的な課題として、浮かび上がった。


智也は、その会議の後、一人で考えた。


AIによる民意操作。


それは、彼が、これまで経験してきた問題とは、全く異なる性質のものだ。


人間による操作であれば、証拠があり、責任者がいる。


だが、AIによる操作であれば、証拠の特定が難しく、責任者の特定も、極めて困難だ。


その困難さに、智也は、深い挑戦を感じた。


これが、第三章の本当の謎なのだ。


そして、その謎を解明することが、自分たちの次の使命なのだ。


学園の図書館では、智也は、新たな推理を始めていた。


今回の推理は、人間による陰謀だけではなく、**AIという新たな主体が関わる、複雑な陰謀についての推理**だ。


その推理の深みに、彼は、初めて、本当の推理者としての喜びを感じたのだ。


なぜなら、この謎を解明できるのは、おそらく、自分だけだと、感じていたからだ。


第三章は、始まった。


そして、その始まりとともに、智也と美優の旅は、新たな段階へと突入していたのだ。


---

第3章 第1話「新たな責任」完


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