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希少属性(レアアトリビュート) ~特異属性で最強か最弱か分からない私と、正体を隠す彼の、嘘から始まる魔法恋愛譚~  作者: 鍼野ひびき


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第十五話「水の訓練」


 訓練室の更衣室に入り、私は紺色のセーラー服のリボンを解いた。


 上着を脱ぎ、ブラウスのボタンを外していく。


 スカートのホックを外し、下ろす。


 白いブラジャーとショーツだけの姿になって、鏡の前に立った。


 不思議なことに、今日は気持ちが引き締まっていた。


 神崎課長の前で、私は宣言した。


 「私は、SAMAに所属する特異属性の魔法使いです」と。


 あの言葉を口にした瞬間、何かが変わった気がした。


 覚悟。


 決意。


 そして――責任。


 私は、もうただの高校生じゃない。


 SAMA所属の魔法使い。


 その自覚が、胸の中にあった。


 ロッカーから訓練着を取り出す。


 濃紺のボディスーツに、銀色のラインが走っている。


 足を通し、腕を通し、背中のファスナーを上げていく。


 体にぴったりとフィットする。


 鏡の中の自分を見つめた。


 戦士のような姿。


 でも、今日はそれが誇らしく思えた。


 深呼吸をして、更衣室を出た。


 廊下には、燈火くんが待っていてくれた。


 黒を基調としたボディスーツに、青いラインが走っている。


 眼鏡は外していて、その瞳が真っ直ぐに私を見ていた。


 「行こう」


 「うん」


 私たちは並んで歩き、訓練室へと向かった。


 扉を開けると――。


 そこには、訓練着に身を包んだ藤崎さんが待っていた。


 「!」


 思わず息を呑んだ。


 藤崎さんの訓練着は、私たちのとは違っていた。


 深い紫色のボディスーツに、金色のラインが走っている。


 髪は後ろで一つに束ねられ、その立ち姿は凛としていた。


 美しくて、強くて――。


 見とれてしまった。


 「あ……」


 我に返って、慌ててお辞儀をした。


 「よろしくお願いします、藤崎さん」


 「ふふ、よろしく」


 藤崎さんが微笑んだ。


 「柳瀬は今、神崎課長と対峙した後処理のために、方々へ調整のために奔走しているわ」


 そう言って、少し可笑しそうに笑った。


 「警察庁、魔法属性研究所、そして内閣府……大変そうよ」


 「そんなに……」


 「ええ。組織対組織の話し合いって、本当に面倒なの」


 藤崎さんが肩をすくめた。


 「でも、美月さんのためだもの。柳瀬も喜んでやってるわ」


 その言葉が、嬉しかった。


 「さあ、肩の力を抜いて」


 藤崎さんが優しく言った。


 「今日は、水属性の訓練よね?」


 「はい」


 私は頷いた。


 「美月」


 燈火くんが言った。


 「掌から水が発現するイメージをするんだ」


 「分かった」


 私はいつものように、腕を伸ばして掌を開いた。


 魔力を集めるイメージ。


 学校の魔法基礎実技の授業で、燈火くんが指先から水を発現していたのを思い出した。


 あの細い、糸のような水。


 それをイメージする。


 魔力を、掌へ。


 水を――。


 次の瞬間。


 ポツ。


 掌の中央に、水滴が浮かび上がってきた。


 「あ……」


 小さな、透明な水滴。


 それが、徐々に増えていく。


 二粒、三粒、四粒――。


 やがて、ポタポタと掌から床へと落ち始めた。


 「やった!」


 私は喜びの声を上げた。


 「水、出た!」


 藤崎さんが微笑みながら見守っている。


 燈火くんも、小さく頷いていた。


 「もう少し出力を上げてみろ」


 燈火くんが言った。


 「うん、やってみる」


 私は頷いて、腕を前に伸ばした。


 掌も、正面に向ける。


 「16パーセントのイメージだぞ」


 燈火くんが、釘を刺すように言った。


 「わかってるって」


 私は笑って頷いた。


 目を瞑り、集中する。


 魔力を、掌へ。


 16パーセント。


 水をイメージ――。


 その時、燈火くんが私の背後に回った。


 手を掲げて、《水鏡の盾》を発現する。


 水の膜が、私の背後に広がった。


 前回の火属性の魔法を思い出したのだろう。


 私は、勢い余って出力を高くしてしまう傾向がある。


 念のための、保険。


 私は集中を続けた。


 魔力が高まっていく。


 掌に、水を――。


 次の瞬間――。


 ドバァァァッ!!


 掌から、丸太のように太い水流が勢いよく放出された。


 「きゃっ!!」


 悲鳴を上げた。


 反動で、体が後方へ吹き飛ばされる。


 そして――。


 ジャボッ!!


 背後にあった《水鏡の盾》の水の幕の中へ、勢いよく突っ込んだ。


 「ゴボゴボッ……!!」


 水中。


 溺れる。


 息ができない。


 パニックになりかけたその時――。


 水が消えた。


 ドサッ。


 床に落ちる。


 「ゲホッ、ゲホッ……」


 咳き込みながら、床に座り込んだ。


 全身、ずぶ濡れ。


 頭から水が滴り落ちる。


 「また、やっちゃった……」


 シュンとなった。


 恥ずかしい。


 情けない。


 「ふふふ……」


 藤崎さんの笑い声が聞こえた。


 可笑しそうに、でも優しく笑っている。


 「また、水属性の発現の16パーセントに、風属性の発現16パーセントを上乗せしたな……」


 燈火くんが、呆れ顔で言った。


 「合計32パーセント。だから、あんな水流になった」


 私は立ち上がりながら、ポニーテールの髪先を絞った。


 ボタボタと、水が滴り落ちる。


 顎からも、水が滴っている。


 「燈火くん、ありがと」


 お礼を言った。


 もし《水鏡の盾》がなかったら、壁に激突していたかもしれない。


 「まるでジェット水流ね」


 藤崎さんが、感想を言った。


 「初めて見たけど、すごい威力だったわ」


 「あはは……」


 私は髪の毛の水を絞りながら、苦笑した。


 「その予定はなかったんですけどね」


 「美月」


 燈火くんが、苦笑いで言った。


 「次は、風属性の上乗せ無しで16パーセントだ」


 「うん、やってみる」


 照れ笑いで答えた。


 恥ずかしさで、顔が熱い。


 でも、諦めない。


 再び、両腕を前に伸ばして掌を前に向けた。


 今度は、目を瞑らない。


 しっかりと前を見つめて、集中する。


 魔力を、掌へ。


 でも――風は加えない。


 水だけ。


 16パーセント。


 イメージを固める。


 そして――。


 ジョボジョボ。


 両掌から、水が噴き出した。


 丸太のような太さじゃない。


 適度な水流。


 制御できている。


 「やった!」


 喜びの声を上げた。


 藤崎さんが、うんうんと嬉しそうに頷いている。


 「美月の魔法は、必ずと言っていいほど常時発動している風属性の魔法が上乗せになる」


 燈火くんが、的確なアドバイスをしてくれた。


 「初めて別の属性を発現するときは、風を切るイメージを持った方がいい」


 「うん。気をつける」


 私は力強く頷いた。


 風を切る。


 風を抑える。


 意識的に、風を封じる。


 それが、制御のコツ。


 「今日の訓練については、柳瀬に報告しておくわね」


 藤崎さんが微笑んだ。


 「水属性も発現できた。素晴らしい成果よ」


 「ありがとうございます」


 私は深くお辞儀をした。


 訓練を終えて、更衣室に戻った。


 シャワー室に入り、温かいお湯を浴びる。


 訓練着を脱いで、裸身になって。


 シャワーヘッドから流れる、温かなお湯。


 それが、体を流れていく。


 私は、その様子を眺めていた。


 「水の制御って、難しいね……」


 思わず、お湯に話しかけていた。


 掌から出た水が、床に落ちていく。


 それを制御するのは、思った以上に大変だった。


 出力を調整して。


 形を保って。


 方向を定めて。


 燈火くんは、それを完璧にこなしている。


 《水鏡の盾》。


 《水刃斬》。


 《水流鞭》。


 《氷槍投》。


 どれも、精密で、美しい。


 どれだけの努力を重ねてきたんだろう。


 幼い頃から、十年。


 毎日、毎日、訓練を続けて。


 失敗を繰り返して。


 それでも諦めずに。


 今の、完璧な制御を手に入れた。


 「すごいな、燈火くん……」


 尊敬の念が、胸に溢れた。


 私も、そうなりたい。


 水を自在に操れるように。


 そして、固有魔法を開発できるように。


 シャワーを浴び終えて、体を拭く。


 制服に着替えて、髪を乾かす。


 ポニーテールを結び直して、鏡の前に立った。


 「頑張ろう」


 自分に言い聞かせた。


 更衣室を出ると、燈火くんが待っていてくれた。


 「お疲れ様」


 「うん、お疲れ様」


 私たちは並んで、SAMAの玄関へと向かった。


 藤崎さんが、受付カウンターで見送ってくれた。


 「また次回ね、美月さん」


 「はい。ありがとうございました」


 外に出ると、夜の空気が心地よかった。


 少し肌寒いけど、気持ちいい。


 「今日も、ありがとう」


 私は燈火くんに言った。


 「《水鏡の盾》、助かった」


 「いつものことだろ」


 燈火くんが肩をすくめた。


 「美月は、勢い余るタイプだから」


 「うう……」


 図星で、何も言い返せなかった。


 「でも」


 燈火くんが続けた。


 「それが、美月らしい」


 「え?」


 「全力で、真っ直ぐで。だから、好きだよ」


 その言葉に、心臓が跳ねた。


 ドクン。


 「……好き?」


 「魔法のスタイルが、な」


 燈火くんが付け加えた。


 「美月の魔法は、美月の性格が出てる」


 「そ、そっか……」


 少しだけ、残念だった。


 でも、嬉しかった。


 燈火くんが、私のことを見ていてくれている。


 魔法を通して、私という人間を理解してくれている。


 「これから、もっと色んな属性を習得していくんだろ?」


 燈火くんが前を向いたまま言った。


 「どんな魔法を使うのか、楽しみだ」


 「うん」


 私も笑顔で頷いた。


 「私も、楽しみ」


 夜空には、星が輝いていた。


 私の魔法は、まだまだ未熟。


 でも、少しずつ成長している。


 風、火、そして水。


 三つの属性を、発現できるようになった。


 残りは、土、光、闇。


 全てを習得したら、固有魔法の開発が始まる。


 どんな魔法になるんだろう。


 考えるだけで、胸が高鳴った。


 「燈火くん」


 「ん?」


 「私、頑張るよ」


 「分かってる」


 燈火くんが微笑んだ。


 「美月なら、できる」


 その言葉が、力になった。


 私たちは、夜の街を歩いていった。


 明日も、訓練。


 明後日も、訓練。


 そうやって、少しずつ強くなっていく。


 燈火くんと一緒に。


 その未来が、楽しみで仕方なかった。



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