第十話 運命を背負う者たち
「ショータ殿。戻られたか。ご無事で何よりだ。」
会議室の扉を開けた瞬間、ノブナが静かに言った。
「ノブナ達も。作業は順調だと聞いたが……悪い、手を止めさせてしまって。」
「何を言う。我らこそショータ殿の話を聞かねばならん。特に――ヒキガはな。」
「暁の環の使命に関わる話だ。ショータ殿、すぐに聞かせてもらおう。」
「分かった。全員そろってるな。じゃあ……サンサーラで見たことを全部話すよ。」
俺とライラは、サンサーラで起きた出来事を一つ残らず語った。“御方”の正体を口にした瞬間、全員の息が止まり、空気が一気に張りつめた。
「それと……マルダから伝言を預かってきた。」
場がさらに静まり返る。
「まずは、ハクへ。
『あなたが準備してくれた場所は、未来へ導く道となりましたね。ありがとう』だ。」
「マルダ様……僕の方こそ……本当は会って、お礼を言いたかった……。」
ハクの声は震え、涙が頬を伝う。ノブナがそっと肩を抱いた。
「次に、リアナへ。
『あなたの想いは必ず未来に届く。信じていきなさい』と。」
「……マルダ、ありがとう。私は信じてる。必ず届く。」
リアナは静かに頷いた。瞳の奥には、揺らがぬ炎が宿っていた。
リオンがもじもじし始める。
「し、ショータ……オイラには……伝言なかったのか?」
「マルダは“お前を通して”俺たちを見守ってるって言ってた。リオンは信頼されてるよ。」
「へへっ! そりゃそうだろ! オイラは大魔法使いマルダの使い魔だからな!」
胸を張るリオンにつられて、場に笑みが戻った。
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「……しかし、ショータ殿が“魔王を斃す者”か。春の戦でシルヴァリス王と対峙する運命……本当に、大丈夫なのか?」
ノブナの目は真剣だった。
「不安はある。黒梟とは必死で戦ったけど、俺は戦いの素人だし、“選択の力”もまだ半人前だ。でも……あれは“信じる力”だ。春までに、自分を信じきれるようになる。」
「ショータ殿! その意気だ!」
ライラがばしんと背中を叩いた。
「春までの間、徹底的にしごいてやるから覚悟しとけ。」
「ショータ殿、ライラは暁の環でも上位の戦士だ。今はイズファル様の力も宿している。暁の環最強の戦士と言っても過言ではない。」
ヒキガが補足する。
「うわぁ……ショータ、頑張れよ……。死ぬ前にオイラんとこ来るんだぞ……。」
祈るように手を合わせるリオン。
「リオン。お前にも修行をつけてやろうか?」
ライラがじろり。
「じょ、冗談です! ライラ姉さん!!」
場がまた和み、沈んだ空気がすっかり晴れていく。
リアナがそっと俺の前に来て、手を差し出した。
「ショータ……私たち、いつの間にか大きすぎる運命を背負った。でも、二人きりじゃない。ここにいるみんながいて、暁の環も、黒梟のみんなも……私たちを支えてくれてる。」
俺はその手を強く握り返した。
「ああ。森を出て、たくさんの人に助けられて、ここまで来た。これは俺とリアナだけの未来じゃない。
この世界に、みんなの理想郷をつくるために――
俺は必ず、魔王を斃す。」
「……お願いします、ショータ。」
リアナはそっと抱きついてきた。細い体が、わずかに震えていた。
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「ショータさん。あの天竜はどうするんですか?」
ハクが尋ねた。
「あれは特別な天竜だ。星牙って名だ。事情があって、ここへ連れてきた。」
俺は星牙の力と、サンサーラに狙われている理由を説明した。
「なるほど……サンサーラも一枚岩ではないわけか。むしろ純粋な人間至上主義国家と見てよいだろう。」
ノブナが腕を組んで考える。
「ショータさん、それなら僕に任せてください。星牙がゆっくり休める家を造っておきます。この谷底でも、あの巨体を伸ばせるようなやつを。」
「助かるよ、ハク。ありがとう。」
「ハク様、私、ターナで乗せてもらったんです! 星牙って本当にかっこいいんですよ!」
メーガンが興奮気味に話す。
「いいなあ……僕も乗ってみたい。」
「ハク、今は無理だけど、落ち着いたら乗せてやるよ。広い空を一緒に飛ぼう。」
「ほんと!? 楽しみにしてます!」
ハクが満面の笑みを浮かべる。
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「さて、オウル。シルヴァリスの状況はどうだ?」
ノブナが問う。
「シルヴァリス全土で蝕人が拡大しています。王が暴動を抑えた都市から順番に、蝕人は“消えて”います。王都と同じ地下施設に兵として封じられているのでしょう。」
「向こうも順調に進めているか……。」
「それと、気になることが一つ。」
「なんだ?」
「ショータ様の報告にあった、サンサーラ政府の間者と思われる者を複数確認しました。」
「どうして分かる?」
「蝕人化の暴動が起きた後に現れ、規模を把握したら次へ移動……。“黒い虫”を避けながら、極めて訓練された動きでした。」
「つまり、サンサーラはシルヴァリスの状況を把握している……。」
「はい。それに、間者は暁の環の“道”を使って移動していました。つまり、各拠点の軍備もサンサーラに筒抜けです。
サンサーラは春の戦に大きく関与する可能性が高いでしょう。」
「こうなると、春の戦は……かつての大戦級だな。」
ノブナは低く息を吐いた。
「ノブナ。やはり鍵は――“第三国家バース”だ。中立国として板挟みになるが、俺たちが止めなきゃ、本当に世界が滅ぶ。
エルファリア女王の奪還、頼む。」
「かしこまりました。
いずれにせよ、我らに“失敗”は許されません。
各々が成すべきことを成すのみです。」
全員が深く頷いた。
その場にいるどの心も、確かな炎を灯していた。




