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第五話 魔王を斃す者

「迷いの転生者……あなたをここへ呼んだ“理由”があります。」


マルダは深く息を吸い、まっすぐ告げた。


「それは――未来へ立ち向かう覚悟を、あなたに決めていただくためです。」


「未来への……覚悟……。」


「はい。そして今から――この世界におけるあなたの“役割”を知っていただきます。」


「この世界での俺の“役割”…?」


「私がた世界を救う唯一の道に欠かせない、二つ目の鍵、“迷いの転生者”。

あなたの役割は――“魔王をたおす者”です。」


「ショータ殿が……魔王を……?」


「俺が魔王を斃す……。それは俺自身も望んでいることだ。だが、本当にやれるか自信がないんだ…。こんな俺に、成し遂げられるのか…。」


「あなたが戸惑うのも無理はありません。

ライラさんのように戦いを学んできたわけでもなく、ただ神の気まぐれでこの世界に転生した人間――それがショータさん。」


「その通りだよ。

俺は生まれ変わり、この世界で出会ったリアナと、ただ幸せに生きたかっただけだ……。

まさか、世界の命運を背負うなんて……。」


「私は“転生者とは何か”をずっと考えてきました。

神は私たちをなんのためにこの世界へ転生させたのか。答えはまだ分かりません。

神に目的などなく、本当にただの気まぐれ、暇つぶしなのかもしれません。」


「俺はもう、神と会った記憶が薄れてしまった。」


「転生者は時を経ると前世の記憶を失います。

しかし私は、未来や過去を視続けたことで、前世や転生時の記憶まですべて鮮明に残っています。」


マルダの記憶が水晶玉に映る。

眩い光が画面を包み、真っ白な空間が広がった。

金色の光が人の形を取り、声を発する。


『異世界で人生をやり直せ。』


その瞬間、

――俺の頭の中に、神と出会った記憶が蘇る。


『……《選択の力》か』


『……は? なにそれ?』


『はて……ハズレかもしれんがな。どんな力かは分からん。

これが当たりかハズレかを決めるのは、お前次第だ。』


『なんだよ、それ!』


『仕方あるまい。役立つかはお前の問題だ。

そもそもそれを望んだのは、お前自身の深層意識だ。』


『お、俺が……?』


『そうだ。転生先では“やり直し人生”だ。

せいぜい――エンジョイしてこい。』


――思い出した。

たしかに神は言った。やり直し人生だと。


「大丈夫か、ショータ殿……?」

ライラが心配そうに覗き込む。


「ああ。大丈夫だ……。」


水晶玉の光はすでに消えていた。


「この世界に転生した人間は、前世での強い後悔と果たせなかった夢を実現するための力を持って現れます。

私の“魔法の力”も、あなたの“選択の力”も、人生の目的を成し遂げるために授けられたものなのです。」


「俺の人生の目的……それは……。」


「あなたが先ほど言った通り。

リアナと幸せに生きたいという願い。“人を愛し、人に愛されること”。

それこそがあなたの目的。」


握っていたライラの手が、少し強くなる。


「その目的を果たすために必要な力が、“選択の力”だと?」


「おそらく間違ってはいないでしょう。

私の魔法の力は“死にたくない”と願った前世の私の想い。

そして私はこの世界で、不老不死を得た……。」


「不老不死は魔法の制約ではなかったのか?」


「制約だと思っていたものが、前世の私が望んだ“やり直し人生の目的”だったのです。

今では安らかな死を求めているのに……笑えませんね。」


ライラが静かに目を伏せる。


「ショータさんの力はまだ覚醒の途中。

選択を間違えず、力が完全に解放された時――あなたの願いはきっと叶う。」


「俺の力と目的は分かった。

だが、それがどうして“魔王を斃すこと”に繋がる?

俺より強い人はいくらでもいるだろう。」


「確かに強い者は他にもいます。

ですが――魔王を斃せるのは、あなた以外にはいません。」


「なぜだ! なぜ俺なんだ!」


「それはあなたが、魔王と表裏一体ひょうりいったいだからです。」


「……なんだと?」


「シルヴァリス王は、かつて世界を愛する賢王でした。

しかし人間が出現し、国を護るために弓を取り、そして“力の闇”に呑まれた。

彼もまた、“愛のために生きた勇者”――ただし、道を誤ったのです。」


「俺とシルヴァリス王が同じだと言うのか……?」


「はい。

あなたが護りたいリアナは、この世界のすべてを愛している。

リアナを護るということは、この世界すべてを護ることと同じなのです。」


「世界全部なんて……俺には……。」


「出来るさ、ショータ殿!

あなたは一人じゃない。仲間がいる。私もいる!

もしあなたが道を踏み外しかけたら、私が必ず止めてやる!」


ライラが俺の手を両手で包み込む。


「ショータさん。あなたを導く者はリアナだけではないようですね。

これからあなたを支えてくれる仲間たちの存在が、あなたを本当の勇者に育てていくのでしょう。」


「俺の願いは、リアナと幸せに暮らすこと……ただそれだけだ。

だが、世界がこのままなら、リアナは黙っていない。

リアナが望む世界を創るために――俺は戦う。

……ライラ、手を貸してくれるか?」


「ショータ殿。私はあなたと共に世界を救いたい。

あなたが魔王を斃す勇者なら、私はその仲間だ。

嫌と言われても、私からついて行くぞ。」


「ライラさん。お願いがあります。

迷いの転生者を護り、導いてあげてください。あなたはショータさんに必要な人です。」


「はい、マルダ様! 任せてください!」


マルダは穏やかに微笑む。


「ショータさん。私は使い魔のリオンを通じてあなた方を視ています。

そして、私の思念体をまたルミエールへ戻しておきます。

理由があり、私はここを離れられません。何かあれば、ルミエールの私を頼ってください。

それと…。

ハクとリアナに伝言を…」


俺は姿勢を正した。


「ハクには…

『あなたが準備してくれた場所は、未来へ導く道となりましたね。ありがとう。』 と。


そして…。


リアナには…

『あなたの想いは必ず未来に届く。信じていきなさい。』 と。」


「二人に必ず伝えるよ。」


俺は頷き、そして、続けた。


「マルダ……。こんな所に独りで寂しくないのか?

俺たちと一緒に……。」


「ありがとう、ショータさん。

でも私はここを出られません。未来を視続けるためには――“彼”に見つかってはいけないのです。」


「彼……?」


「いずれ話します。時が来たら。

ショータ殿、必ず魔王を斃してください。

それは“終わり”ではなく、“始まり”なのです。」


――俺は世界を救うために覚悟を決めたわけじゃない。

ただ、愛するリアナと、俺を愛してくれる人たち。

そして仲間たちが幸せに生きられる世界を護るために戦う。


正しい道を選び、進むだけだ。

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