第二話 蛇光の扉
地下に広がる砂漠を砂竜で半日ほど進み、俺たちは暁の環の本拠地に到着した。
目の前の光景は、俺が想像していたものとはあまりにも違っていた。
そこにあったのは――驚くほど小さく、古びた祠だった。
「ショータ殿……ここが暁の環の本拠地だ。」
「こ、ここが⁈ この小さな祠が?」
「この祠は、五百年前の大戦後、予言者と呼ばれた“御方”が未来を見た場所だ。暁の環はここを聖域として守り続けてきた。」
「ここに何があるんだ? 本当に“御方”がいるのか?」
「今となっては、誰ひとり“御方”を見た者はいない。ただ、暁の環の頭領達と、朧や寿司屋の大将のような一部の幹部にだけ伝わる口伝がある。」
「口伝……?」
ーー迷いの転生者と蛇の光が聖域を開く時、未来への道が示される。
「“御方”が残した口伝だ。それに従って、暁の環はあなたを守り、ここまでお連れした。だが……正直に言えば、私にもこの先どうすればいいのか分からない。」
「迷いの転生者とは……本当に俺のことなのか?」
「ショータ殿が本物なら、この祠の扉を開くことができるはずだ。」
「ライラ、開かなくても恨むなよ……。」
「私はあなたを信じている。」
俺は祠へ歩み寄った。
古びてはいるが、石造りの壁と扉には重厚な荘厳さがある。
扉に積もった砂埃を払うと、蛇のレリーフが浮かび上がった。
「迷いの転生者と、蛇の光が聖域を開く……。このレリーフのことか?」
よく見ると、蛇の眼の一つが小さく凹んでいる。
(この凹み……何かを嵌める仕掛けか?)
「ショータ殿! 左手を見ろ!」
ライラが驚きの声を上げた。
「指輪が……光っている!」
左手の薬指の指輪が、強い緑光を放っていた。
「ショータ殿、それは何だ⁈」
「これは、ルミエールでマルダから買った魔法の指輪だ。本来は二匹の蛇が絡んだ指輪で、リアナと俺に分けて持たされた。」
「蛇の指輪……そして光……! ショータ殿、それが“鍵”ではないのか⁈」
「……蛇の光が聖域を開く……か。」
俺は指輪を外し、扉の蛇の眼の凹みに嵌め込んだ。
緑光が閃き、周囲一帯を照らし出す。
光は徐々に弱まり、やがて消えた。
「……何も起こらない、のか?」
落胆しかけたその時――。
ーーゴゴゴゴ……。
低い地鳴りが響き、岩の扉がゆっくりと動き始める。
「ライラ! 開くぞ!」
「ショータ殿……! やはりあなたが迷いの転生者……!」
ライラは思わず俺に抱きついた。
俺は彼女の肩を抱き返し、開いていく扉を見守る。
ーーガコン……!
重い音と共に扉が開ききる。
奥には細い通路が続き、その先から白い光が走り、魔法灯が次々と灯っていった。
「ショータ殿……。私……胸の鼓動が収まらない。この先に“御方”が本当に……?」
その瞬間、頭の中に声が響いた。
『この世界に再び混沌が始まる時、三つの鍵が現れる。
一つ目の鍵は、導きのエルフ。
二つ目の鍵は、迷いの転生者。
三つ目の鍵は、愛の転生者。
鍵はただ可能性の扉を開くものに過ぎない。
三つの鍵が開く扉を間違えねば、この世界は初めて自由に開かれる。』
「ライラ……聞こえたか?」
「ああ、ショータ殿……。この祠で私たちは、一体何を知ることになるのだろう。……正直、少し怖い。」
「ライラ……。行けば分かるさ。少なくとも、俺が“迷いの転生者”であることは間違いないようだからな。」
俺はライラの手を握った。
「ショータ殿……。手を離さないでくれ。」
その手は、微かに震えていた。




