第一話 禁忌の大罪
五百年前。大戦後のシルヴァリス王都。
王城の一室。
シルヴァリス王は病魔に蝕まれ、ベッドに横たわっていた。
「ファルネウスよ……我は死にたくない。
人間どもからこの世界を守ったエルフの王が、病に蝕まれてこの有り様だ。息をするのも苦しい……」
「シルヴァリス様、お体に差し支えがあります。どうかご安静に……」
「……お前に、一つ頼みたい」
「はい。何なりと」
「我が死んだとしても、必ず復活させよ。若く、力が漲る我を再びこの世に戻せ――」
「復活……⁉︎ そんなことが……」
「奴だ。リオレウスであれば、死者を復活できるやもしれぬ。いや、必ず成し遂げさせよ」
「……王よ。このファルネウス、必ず王を復活させてみせます故」
「……頼んだぞ、ファルネウスよ」
ーーー
「リオレウス。王の直々(じきじき)の命だ。必ず成し遂げよ。
でなければ、ハーフエルフであるお前をエルフの法に基づき処罰せねばならん。分かっておるな? 美しい妻を悲しませるなよ」
「ファルネウス様、肉体を若返らせることや死人を蘇らせる力は、私にはございません」
「ならばせめて、王が生きておられるうちに、その病を癒してみよ」
「それは……何度も試みましたが、私の力では治せぬ、不治の病なのです」
「ふん。天才薬師であり治癒の力を持つお前でさえ治せぬ不治の病か。王も難儀な病に罹られたものだな」
「ファルネウス様。魔法使いマルダ様であれば、死者を蘇らせる方法を知っておられるのではないでしょうか」
「マルダか……あの女は未来が見えるらしいな」
「はい。 しかし、あくまで未来の断片に過ぎず、確定されたものではないと聞きます。
マルダ様は『エルフの弓』の他にも、様々な魔法具の製作に携わったお方です。シルヴァリスでは最高の魔法使い。きっと何か良い方法をご存知でしょう」
「私はあの女が苦手だ。心の中を覗かれているようで気味が悪い。
リオレウス、お前に任せる。マルダを使おうが何でも良い。王を復活させる方法が見つかればよい」
ーーー
天曜院。
魔法使いマルダは王都に招聘されてから、魔法具や様々な魔術の研究を任されていた。
マルダはまだ百歳ほどの美しい容姿のエルフだが、その出自は誰も知らない。
人間の感覚で言えば二十代半ばほどの若さに見える。
研究室の扉が開いた。
「リオレウス、そろそろ来る頃だと思っていたわ」
「さすがはマルダ様。私が来ることも、今からお話しすることもすでに見えておられたのですね」
「はい。断片的な未来ですが、繋ぎ合わせれば何となく見えるのよ」
「話が早くて助かります。マルダ様……死者を蘇らせる方法をご存知ですか」
「……シルヴァリス王が亡くなった後、肉体を若返らせ復活させる――その方法ですか」
「はい」
「世の理に反する蘇りの呪法。方法は一つ。だが、あなたはこの大きな罪に耐えられないと思うわ」
「大きな罪……?」
「悪魔との契約。禁忌の秘術です」
「悪魔……⁈」
「人間の転生者は神から力を授かると言われています。神が存在するならば、悪魔もまた存在するのでしょう」
「悪魔と契約するにはどうすればよいのですか」
「悪魔は等価交換を望む。
一国の王の魂を冥府から呼び戻すために、どれほどの魂を差し出すことになるのか――私にも測りかねます」
「魂ですか……」
マルダは目を閉じ、何かを遠くから見ているようだった。
「悪魔と契約し王を復活させるために必要なものは三つあります。
一つ、王の器となる肉体。
二つ、王の病を取り除き器を若返らせる秘薬。
三つ、王の魂を呼び戻すための『魂の生贄』です」
「私一人では到底成し遂げられそうにありません。しかし、成し遂げられなければ私はハーフエルフであることを暴かれ、ファルネウスに命を狙われる。
妻はシルヴァリスから永久追放されるでしょう。どうすればよいのです……」
「リオレウス。囚われている人間の中に、あなたの助けとなる人物がいるようです。ハクという者を探しなさい」
「ハク……」
「あなたとハク――二人が進むその道は、たとえ過ちに見えても、きっと未来へ繋がる運命の道となるはずよ」
「私とその人間が……未来を繋ぐ運命の道を……?」
「リオレウス。辛く苦しい使命ですが、それはあなたにしかできないこと。私は……未来を覗く者として、語ることしかできません。ごめんなさい。
この世界の未来を、頼みます」
「マルダ様、あなたの言葉なら信じられます。私は知っています。あなたが『エルフの弓』を造ったことを後悔し、心を痛めていることを――」
「辿った道を戻ることは出来ない。それに…望む未来のためには、ときに犠牲も必要よ。だけど、忘れないで。あなたが描く未来を繋ぐのは、あなた自身の選択なのだと」
「マルダ様、ありがとうございます。私は愛する妻のためにも、今、殺されるわけにはいきません。
ハクという人間を探してみます」
マルダは小さく頷き、部屋を出るリオレウスに手を振った。
「私が見た未来の断片が、次々と繋がっていく。
まだ生まれてもいないあなたの娘が、遠い未来であなたの意思を継いでくれます。
私にもできることがあるはず。決して、あなたたちだけに大罪を背負わせはしないわ」




