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第四話 焔と雷

王都北壁付近――。

灰と炎が舞い、崩れた塔の影がゆらめく。


「《炎華斬えんかざん》!」

ヤドクの炎の刀が閃き、ノブナの背を叩き裂く。

甲冑が焦げ、外套が燃え上がった――だが次の瞬間、炎は吸い込まれるように消えた。


「んん? なぜ背中を斬られている? お前は種子島たねがしまで吹き飛ばしたはずだが……」

ノブナは焼け焦げた外套がいとうを捨て、割れた甲冑かっちゅうを脱ぎ捨てる。


「すまない、メレオ……仕留められなかった……」

ヤドクの声がかすれる。視線の先――獣人と化したコウシュが、メレオの腹を爪で貫いていた。

血と臓腑ぞうふが地面を濡らし、彼の瞳から光が消える。


「ノブナ様、幻術使いは――始末しました」

獣の声が低く響く。


「なるほど……我は幻の中にいたわけか」

ノブナは冷笑を浮かべた。

千載一遇せんざいいちぐうの機会を逃して残念だったのう。切り裂けたのは我が甲冑のみとは……そいつも浮かばれんわ」


ヤドクは歯を食いしばる。

畜生ちくしょう……!」


レキルは、メレオの体を貫く爪を見つめていた。震える声が漏れる。

「メレオ……すまない。私の油断だ……」


ノブナはつまらなそうに地竜ちりゅうへとまたがる。

「我はお前らの相手に飽きた。コウシュよ、地竜を借りるぞ。お前はそいつらを片付けてから来い」

御意ぎょい

血に濡れた手を胸に当て、コウシュはうやうやしく頭を垂れた。


そして、狼の顔に不気味な笑みが浮かぶ。

「私はこの姿が大嫌いなのです。先祖が望んだ“獣の力”など呪いに等しい。だが、あなたも同じでは? “ウナギ女”」

「……お前と一緒にするな!」

レキルが叫ぶ。

「私はこの力を誇りに思ってる! 親から受け継いだ大切な力だ!」

「何が違うのです? あなたも化け物ですよ」

「黙れっ!」

「レキル! そいつの言葉に惑わされるな!」

ヤドクの怒号が響く。

「フフ……では、化け物同士、心ゆくまで殺し合おうか!」


地を蹴る。轟音と共にコウシュが消えた――次の瞬間、レキルの目前に。

「《爆炎》!」ヤドクの炎弾が炸裂。しかし、

「フンッ!」――爪が炎を切り裂いた。


「《雷壁》!」

黄金の雷柱が何本も立ち上がる。

だがコウシュの咆哮と共に、爪がそれを打ち砕いた。

「ぬおおおおっ!」

雷光が散り、レキルはヤドクの方へ跳び退しさる。


「レキル、あいつ……ヤベェな」

「……ああ。あの爪、メレオを一撃だった」

「逃げるか?」

「駄目だ。速すぎる。逃げたら追いつかれる」


「そうですね。逃げても無駄ですよ」

その声は、もう背後にあった。


閃光。

レキルとヤドクの身体を赤い線が走る。

「な、なんて速さだ……!」

「うっ!」

ヤドクが叫び、右腕が宙を舞った。


「こんなものですか?」

コウシュがヤドクの腕を掲げ、獣の歯をむき出しに笑う。


「ヤドク!」

「来るな、レキル! 逃げろ!」

「うるさいですね」


――ドシュッ。

爪がヤドクの腹を貫いた。


「ヤドクーー!」

レキルの悲鳴が天を裂く。


鮮血と臓腑が溢れ、ヤドクは崩れ落ちた。

それでも――彼の目は、まだ燃えていた。


「レキル……来るな……!」

「ヤドク……!」

「腹を貫かれても死なないとは。見上げた根性だ」

コウシュがヤドクを掲げ笑う。


ヤドクは血を吐きながらも、レキルに向かって左腕の親指を立てた。

「レキル……逃げろ。こいつは俺が――なんとかする」

「なんとかするだと⁈ この死に損ないが!」


ヤドクは静かに微笑んだ。

「レキル……愛してるぜ――《葬送縛炎そうそうばくえん》!」


瞬間、ヤドクの全身から炎の縄がほとばしり、コウシュを絡め取った。

白光。音が消え、空気が震える。

次の瞬間、天地を裂く爆炎があたりを呑み込んだ。


「ヤドク……!」

レキルは振り返らず、涙を散らしながら走った。

「ヤドクーーーーーー!」


爆風が止み、振り返ると――そこには何も残っていなかった。

ただ焦げた大地と、風に揺れる炎だけ。


「ヤドク……私は……お前を……」


――スバッ。

頬を切る風。血が一筋、流れる。


「よく避けましたね。次は外しませんよ、ウナギ女」

焼けただれたコウシュが、立っていた。

再生した皮膚の下、獣の瞳が憎悪で燃えている。


「うぁああああ!――《雷槍・連》!」

無数の雷槍がコウシュに突き刺さる。

だが、白い蒸気と共に、傷はみるみる塞がっていった。


「さっきの男の自爆に比べれば、カスですね」

コウシュがあざける。

「『レキル……愛してるぜ!』――良かったですねぇ。あなたのような化け物を愛してくれる男がいて」


胸が裂ける。涙がこぼれた。

(ヤドク……!)


「私はノブナ様を愛している。あの方だけが、この醜い私を認めてくださった」

コウシュの体が再生を終える。


レキルは静かに目を閉じた。

(ヤドク……私も、すぐにそっちへ行くよ……)


――だがその時。

コウシュの体が痙攣けいれんした。


「な、なんだ……! 何が起こっている!」

焼けた皮膚の下から、紫の霧が噴き出す。


「ヤドクの……毒だ!」

レキルが叫ぶ。


「ど、毒だと⁈ この私に⁈」

コウシュは超回復を発動するが、毒がそれを上回る勢いでむしばんでいく。

「ぐっ……くそっ……なんだこの毒は!」


レキルはゆっくりと立ち上がった。

「ヤドク……お前のおかげで、私はまだ戦える」


雷鳴が轟く。

レキルの腕が伸び、コウシュの背を掴み取る。


「離せ! この気持ち悪いウナギ女め!」

「やめてくれ! 私はノブナ様のもとへ帰らねば!」


「私たちがそう言ったら、お前は助けたのか?」


「や、やめろ!」


「《雷蛇縛らいじゃばく》!」


黄金の稲妻が走る。

雷蛇がコウシュを締め上げ、肉を焦がし、白煙が立ちのぼる。


レキルはその光の中で、静かに呟いた。

「ヤドク……私も、お前を愛している……」


雷鳴が遠ざかる。

焦げた大地に、一筋の涙が落ちた。

――それが、彼女の誓いの形だった。

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