第一章 転生!遅れた思春期とエルフの森
目を開けると、そこは見渡す限りの森。
空気は澄み、鳥が鳴き、風が心地よい。目の前には澄んだ湖が広がっていた。
(異世界だ。間違いない。)
(来たでぇぇ!俺のハーレム異世界ライフがッ!)
思わず拳を握る俺、久遠翔太。
(どれどれ、どんなイケメンボーイに転生したんかなっ?)
自分の容姿を確認するため、湖面に顔を映す。
(…あれ?
金髪のイケメンボーイとかになるんちゃうんかい…意外と18歳の俺そのまんまやん。)
水面に映る俺の顔は、まだ幼さが残り決してイケメンではないが、まあ、中の上?いや、中の中くらい?
どちらにせよ…特徴のない顔だ。
「なんか、さっぱりした顔してるなあ…」
(そういえば、18歳ってもう、あんなことやこんなことも合法的に出来るお年頃ですよね?
前世では一度も日の目を浴びられなかった股間の天保山くん、待っててな!今回の人生は一味ちゃうはずや!)
「さて、まずはどうしようかな?」
(あれ?声に出すと標準語になってない?
心の声は関西弁やのに…)
(あー、毎度です。俺の名前は久遠翔太言います…
なんでやねん…もうかりまっか?ぼちぼちでんなあ…。)
(……まあ、気にするのはやめておこう)
「よしっ!まずは、可愛いエルフといちゃいちゃ異世界ライフを目指してー!出発進行!」
とりあえず人里を目指して山道沿いに歩く。
分岐点に差し掛かると、杖代わりの木の棒で方向を決め、進む。
「俺には『選択の力』があるんだ。選んだ道はエルフに通じる!……はず」
ーーー
「み、水…、く、食い物…」
三日三晩歩き続けた。
(水すら飲んでいない。湖の水、汲んでおけば良かったよ。どうせ俺なんて、先の見通しがいつも甘いんだよ。
綺麗な川はあったんだよ。でも、水飲もうとしたらさ!上流から見たことない生物が流れてくるんやもん!ヘドロみたいなん!
そんなん見たら、もう飲める訳ないやん。怖いやん!変な病原菌とかっ!
食べ物も、見たことない果物みたいなん、勇気出して食べてみたよ!
めっちゃ変な味で食べられへんやん!
もうっ!腹が減りすぎて……
『選択の力』ってなんやねん!
これもうゲームオーバーちゃうんかい!)
「もう、あ、あ、歩けな……ぃ」
朦朧とする意識の中、綺麗な声が聞こえる。
「まぁ……こんなところで……!大丈夫? あなた、人間の子でしょう?」
うっすらとした意識の中、二次元で何度も拝んだ理想のエルフが、目の前に実体化している。
「あ…、あ…」
(…俺の女神さま…、やっと…。)
声は全く出なかった。
ーーー
「目が覚めたようね!」
目の前にエルフの女性が立っている。
「こ、ここは?」
「心配しないで、私の家よ。私はリアナ。あなたは?」
細く長い耳、白い肌、輝くブロンド。
そして、抜群のスタイル!
歳は…お姉さんって感じで25歳くらいかな?
まさに理想のエルフだ。
「僕は、久遠翔太です…」
(声、カッスカスやん。唇もパッキパキやし。)
「ショータと呼んでも大丈夫?」
「大丈夫です、り、り…」
「リアナよ。見ての通りエルフ。さあ、ショータ、お水をどうぞ。ゆっくり飲んでね」
この世界に来て初めて口にした水。
(美味すぎる!
初めて『桃の超天然水』を飲んだ時の衝撃ほど美味い!)
「助けてくれてありがとう、リアナさん」
「リアナで良いわ。ずいぶん衰弱してたわね、ショータ。気を使わずゆっくりくつろいでね」
(来た!キタキタキタキタキタ!キター!!)
(これは絶対俺の《選択の力》が導いたシナリオが発動してんちゃう?)
(神様あ!
ありがとう!俺、このやり直しチャレンジ、精一杯楽しむから!)
リアナが作ってくれた温かいスープは、カップ麺とコンビニ弁当で出来上がった俺の舌の記憶に、爽やかな夏の草原に吹く涼やかな風を運んだ。
要するに、意味わからんほど、美味かった。
ふかふかのベッド。
(めっちゃいい匂いがする。リアナの匂いかなぁ?)
リアナがお風呂に入っている間に楽しんでおこう。
ーークンカクンカ…クンカクンカ。
ーーガチャ
寝室の扉が開いた。
「ショータ、ごめんなさいね。急いでたから、私のベッドに寝かせてしまって。変な匂いしてる?」
(可愛い!リアナ可愛い!今のはめっちゃツボやわ。)
「全然!すごく良い匂いだったから、思わず」
「それなら、良かったわ。
そうだ、ショータ。服を脱いでくれる?」
「えっ!」
「お風呂はまだ入れそうにないから、私が身体を拭いてあげるわ」
ベッドの傍らの丸椅子にお湯を張った小さな桶を置き、リアナはベッドの端に腰をかけた。
(リ、リアナさん、
あなた、なんて悩ましい格好をしてんのよ!?
あの伝説のネグリジェとかいう奇跡のレアアイテムではござらんか!?)
「……っ!」
(透けてますやん!リアナさん!
綺麗なお尻を包む小さなおパンティが透けてますやーーん!)
ーードックン!ドックン!ドックン!
「ショータ、ずいぶん汚れたから、少しは拭いて寝かせてたんだけど、服の下はまだ拭いていなかったの。ごめんなさいね」
リアナは迷いなく俺の服を脱がし始める。
(な、な、な、目の前にリアナの柔らかそうなおっぱいが、ぷるんぷるんと揺れておます。)
(や、や、や、やばいよ、やばいよー。
エロゲ並みの急展開やん!
やはり、これは、『選択の力』のおかげなんか?)
俺はパンツ一丁で自問自答する。
(選択せよ。リアナに体を拭いてもらう?
YESか、NOか?)
「もちろん!YESだ!」
思わず声が出てしまった。
「何?どうかしたの?」
「い、いえ…リアナ…。
は、初めてなので、優しく、よ、よろしくお願いいたします」
俺はピシッと正座に座り直し、リアナに身を任せた。
「ショータ、何?まだ子供なんだから、あらたまらないで。私が恥ずかしくなるわ。」
(いやいや、遅れてやってきた思春期を絶賛拗らせ中の18歳男子を舐めんでもらいたい、リアナ殿!
ひょろっとしてるとは言え、見た目もまあまあ大人でござるよ!
それに、もう、ワタクシの天保山は立派に覚醒しておりますよ!)
「どう?さっぱりするでしょう?今日はこれで我慢してね」
リアナの透き通るような白く細い指に、濡らした布の雫が伝う。
俺の心臓は高鳴る鼓動が止まらない。
「リ、リアナ、ここは自分で拭くよ。ありがとう」
小心者の俺は、パンツに伸びたリアナの手から濡れた布を奪った。
(これ以上は、無理だ。昇天してまうわ!)
「ごめんなさいね、ショータ。恥ずかしかったかしら。明日にはお風呂に入っても良いからね」
(うぉぉぉ!しまったあ!俺は今、とんでもなく選択をミスった気がする!)
「ショータの服は洗って、破れたところも縫っておくわね。じゃ、ゆっくり休んでね」
リアナは俺の体を拭き終え寝室から出ていった。
人生やり直しチャレンジなのに、また、前世の小心者が出てしまった。そして、後悔する俺。
(中身は50歳まで童貞を貫いた小心者のままなんよなあ。)
俺は悶々(もんもん)とする天保山をなだめながら天井を眺めた。
(めっちゃいいな…リアナ。)
ーーー
リアナの献身的な介抱のおかげで、すっかり体力も回復した居候三日目の夜。
俺は脱衣所の前に立っていた。
そっと木の扉の隙間を覗く。
(見える!見えるぞっ!)
――そこにあったのは、彼女の腰。
(……ッッ!!!)
昨日、風呂の脱衣所の扉に隙間があるのを発見した。
(思ったとおり、ドンピシャで見える!
リアナの無防備な脱衣の瞬間がっ!)
腰から下ろされるスカート。
白く艶めく太腿の曲線が現れ、丸みを帯びた尻が下着ごとあらわになる。
滑らかで張りのある肌は、まるで中国陶磁の究極系、白磁のようだ。
(やばい……この美しさは反則やろ……)
心臓が耳の奥で爆音のように鳴る。
喉がカラカラで息ができない。
頭がクラクラして、脳が酸欠状態。
リアル裸体への耐性がゼロに等しい俺には刺激が強すぎる!
が、しかし!
(今は昔の俺を越えねばならんのだ!)
(選択の力よ!問う!俺はこの後、風呂を覗くべきか!? YESか!? NOか!?)
答えは決まっていた。
(YESや……YES以外ありえへん!)
俺は一旦、静かに家の外へ出た。
昼間、準備をしておいた踏み台の木箱を並べ、洗い場の桶を積み上げ、慎重に風呂場の小窓へ近づく。
目線の先には――湯気に包まれたリアナの背中。
(す、すごいぞ!)
金色の髪が濡れて肌に貼りつき、背中を艶やかに彩る。
胸元は湯の表面からわずかに浮かび上がり、ふくらみのラインを完璧に描いていた。
その双丘は形が整いすぎていて、現実感を疑うほど。
リアナは静かに髪を撫で、胸の谷間へと湯を滑らせる。
湯船から立ち上がるリアナから滴る水滴が乳房を伝い、腹筋を通り、くびれをなぞって腰へと流れる。
(あかん……これ以上は……)
視線が勝手に下へ吸い込まれる。
腰から尻へ。湯の中に再び沈んでゆく白い肌が水を透かして妖しく揺れる。
二つの丸みは重力に負けず、むしろ水に持ち上げられて艶やかに形を変えていた。
(女神やん……これがエルフの女神か……!)
リアナが少し振り返る。
水面に金髪が流れ、胸の形がより鮮明に浮き出す。
(……完璧や。本日は、しっかりリアナの裸体を拝ませていただきます。)
俺は油断していた。『選択の力』をなんとなく過信していた。
桶の上、足がすべる。ぐらりと不安定に揺れた。
「うわっ!やばっ!」
バランスを取り戻そうとするが、踏み台が崩れ、俺は床に尻もちをついた。
同時に、小窓の中でリアナが振り返り――
「誰⁈ショータ⁈何してるの!?」
(やべえええ!バレた!)
ーーー
風呂上がりの超レアアイテム『ネグリジェ』に身を包み、相変わらずの色気を纏いながらリアナは俺の前に仁王立ちしている。
「ショータ、何をしていたの?」
俺は顔が熱くなるのを感じ、口ごもる。
「え、えっと……その……ごめんなさい…」
リアナは眉をひそめ、呆れた目で俺を見つめる。
「……まったく、困った子ね。私みたいなおばさんの裸を見ても嬉しくないでしょ?」
「おばさん⁈リアナは美しいよ!」
思わず言ってしまった。
「リアナは僕の理想の女性なんだ。やっと出会えたんだ。もっとリアナを知りたくて、つい…」
「……。ショータは、両親が亡くなったこと以外の記憶がないって言ってたわよね…」
そう。俺はリアナに嘘をついてる。
なぜあんな森の中を一人で彷徨っていたのか?リアナに聞かれたとき、俺は思わず嘘をついた。
ーー「父さんも母さんも死んだ。僕は、名前と年齢以外のことを思い出せないんだ。
父さんと母さんが事故で死んだことだけは覚えている。でも、それだけ。どこにいたのかも、どこに行こうとしてるのかも、何も思い出せないんだ。」と。
「ショータはきっと、私に愛情を求めているのね。」
(俺が愛情を?)
(確かにそうかも知れん。俺はリアナのことが好きや。恋愛対象として?分からん。
なんせ、俺は恋なんてしたことがないし、漫画やゲームの女の子には『いいなあ、やりてぇなあ』くらいのゲスな感情しか持っていなかったんやから。)
「愛情?そうなのかな、分からない。
でも、何も思い出せない僕が、今一番望むことは、リアナとずっと一緒にいたいってことだよ。リアナの迷惑でなければ…だけど」
「ショータ、私もずっとあなたといたいわ。私があなたといたい理由を聞いてくれる?」
「うん…」
(何やろ?いつものリアナと違う。少し悲しげな、そんな気がする。)