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暁光の勇者と運命の指輪  作者: 茶太郎
第十六章
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第八話 踏み出す一歩

「イズファル!

アマネスは――アマネスは無事なのか!」


宮殿 《エル・ドゥラ》。

アマネスの私室に、王の怒号どごうが叩きつけられた。


扉が乱暴に開き、グラムディルがドウエンと数人の薬師くすしを伴って踏み込んでくる。


部屋の中央、寝台には意識を失ったままのアマネスが横たわっていた。

そのかたわらで、イズファルはただ黙って彼女の手を握り続けている。


椅子に腰掛けたシバは、落ち着きなく足を揺らしていた。


「グラムディル様……

申し訳ございません……」


イズファルが頭を下げる。


「私がすぐ傍にいながら、“真理の神”の攻撃を防ぐことが出来ず……」


びなど要らん!」


グラムディルは叫び、視線をシバへ突き刺した。


「アマネスはどういう状況だ!

シバ! 答えよ!」


「……全て、僕のせいです」


シバは唇を噛みしめ、言葉を絞り出す。


「僕の中に潜んでいた“真理の神”のエネルギーが……

アマネスの中に、入り込みました」


「真理の神の……エネルギーだと⁈

外傷は無い!

ならば、身体の中で何が起きている!」


グラムディルはシバの胸倉むなぐらを掴み、激しく揺さぶった。


「……今、アマネスは

“真理の神の精神体”と戦っています」


部屋の空気が、凍りついた。


「なんとかしろ!

お主の“真理の力”なら出来るだろう⁈」


「……出来ません」


シバは、首を振った。


「アマネスの身体は正常です。

意識が戻らないこと以外は……

ですが、戦っているのは精神の最深部。

そこは……僕の力が届かない」


「もし……」


グラムディルの声が、震える。


「もし、その神に呑み込まれたら……

娘は、どうなる」


「……魂が消えます。

身体は……真理の神に奪われる」


「そんなこと……!」


グラムディルは寝台にすがりついた。


「アマネス……戻って来い……

私の……私の可愛い娘よ……!」


王の威厳は、そこには無かった。


「もうすぐ……

イズファルとの子も生まれるのだろう……!」


声がかすれる。


「ワシが悪かった……

認める……全て、認める……

結婚も、何もかもだ……!」


長い歴史の中で、人間とドワーフの婚姻など存在しなかった。

だが今、その全てが取るに足らぬものに思えた。


「戦士アマネス……

お前が、こんな下衆げすな神ごときに……

負けるはずがない……!」


必死に言い聞かせるように、グラムディルは叫ぶ。


「帰って来い……

式も、宴も……盛大に用意してやる……

だから……

もう一度……笑ってくれ……」


王ではなく、父の声だった。


一方、イズファルは静かだった。


ただ、アマネスの手を握り続けている。

祈るように、信じるように。


――その時。


アマネスの身体が、びくりと跳ねた。


「……イズファル……いる?」


掠れた声が、確かにそこにあった。


「いる!

ここにいる!

すぐ傍だ!」


「……お願いが……ある……」


その声は、今にも消えそうだった。


「私は……もう……あらがえない……」


「アマネス!

君なら出来る!

必ず戻れる!」


「……駄目なんだ……」


アマネスのまぶたから、涙がこぼれる。


「もう……魂の半分は……

あいつに……奪われた……」


「……なんだと」


「時間が……ない……

最後の……願いを……」


「やめろ……

そんな言葉、聞きたくない……」


「……私の魂が消えた瞬間……

身体を奪われる前に……

私を……完全に消して……」


イズファルの喉が、鳴った。


「……出来るわけがない……」


「……シバ……いるんだろ……」


アマネスの声が、わずかに強くなる。


「お前には……責任が……ある……

私の身体を……

あんな神の……おもちゃに……

させるな……」


「……分かるだろ……

私の魂が……消える瞬間が……」


シバは、目を閉じた。


「大丈夫だ……恨みはしない……

安心しろ……」


「……分かった」


震える声で、シバは答えた。


「君の願い……引き受ける。

全てを消し飛ばした後……

必ず、生き返らせる……」


「……待て!」


グラムディルが叫ぶ。


「腹の子は……どうなる!」


「……イズファル……

すまない……」


アマネスの声は、穏やかだった。


「どうやら……

もう……この子は……」


グラムディルの顔が、蒼白になる。


「……私も……気づいていた……」


イズファルは、唇を噛みしめた。


胎動たいどうが……

感じられなかった……」


「……護れなかった……」


「……違う」


イズファルは、震える手で彼女の手を握り返す。


「守れなかったのは……私だ……」


沈黙の中で、アマネスは微かに笑った。


「……泣くな……イズファル……

私は……強いお前が……好きだ……」


「腕相撲で……

私に勝った男だろ……」


「……愛している……」


「――イズファル!

魂が!」


シバの叫びが、空気を裂いた。


白光が、シバの身体から溢れ出す。

冷たく、無機質な光が、アマネスを包み込んだ。


「アマネス!

私は生涯、お前を愛す!」


イズファルは、天を裂くように叫ぶ。


「安心して待て!

その子と共にな!」


光が、収束する。


そこに――

アマネスはいなかった。


最初から、存在しなかったかのように。


「……ああ……」


グラムディルは、膝を落とした。


「……こんな……」


「安心してください」


シバは、泣きそうな声で言った。


「今すぐ……再生します……」


「やめろ!」


イズファルの声が、鋭く響く。


「アマネスは……

そんなこと、望んでいない」


「……でも……!」


白光が、再び溢れ――


部屋は、純白に呑み込まれた。


やがて、光が消える。


そこにあったのは――

一つの、小さな命。


赤子の、力強い産声。


薬師たちが慌ただしく動き出す。


「……どうして……」


シバは呟いた。


「アマネスと……

子を……再生するはずだったのに……」


イズファルは、赤子を抱き上げた。


「……シバ。

君は、まだ愛を知らない」


「……待って……

もう一度……」


――パシン。


乾いた音。


「やめろ」


イズファルは、はっきりと言った。


「もう、それは……

アマネスじゃない」


シバの肩が、崩れ落ちる。


「……嫌だ

生きていて欲しかった……」


「……だが、これでいい」


イズファルは、赤子を見つめた。


「よく似ている……母さんにそっくりだ…

耳は短いが……」


涙が、頬を伝う。


「……三人の絆が……

生んだ命だ」


グラムディルが、静かにシバを抱きしめた。


「娘は……最後まで戦った……

そして……

その願いを叶えたのは……

お主だ……」


イズファルが、顔を上げる。


「シバ。

共に来い」


「……どこへ?」


「世界だ」


「世界…?」


「そうだ。

愛を探す旅だ」


彼の目は、燃えていた。


「真理の神を……

私は許さない。

君なら出来るはずだ、あの神を斃すことが」


「君こそが、予言の……

二つ目の鍵だと……

私は信じている」


「暁の環、ジュラへ行く。

この子と共に」


シバの胸に、熱が灯った。


――その一歩を踏み出す時が、来たのだ。

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