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暁光の勇者と運命の指輪  作者: 茶太郎
第十六章
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第七話 再生と搾取

シバは、とりでの縁から一歩、闇へ踏み出した。

足場はなく、だが身体は落ちない。

まるで世界そのものに抱きとめられるように、ふわりと闇に浮かぶ。


「行ってきます」


振り返らず、ただ一言。

その声は震えていなかった。


次の瞬間、シバの姿は闇に溶けるように消えた。


「シバ……どうか、無事に……」


アマネスは無意識にイズファルの手を強く握りしめる。

その温もりだけが、今は現実だった。


――その時。


闇の奥に、針の先ほどの白い光が灯った。


「あれは……!

あの時の光と、同じだ!」


別の砦で待機していたドウエンが、思わず叫ぶ。


光は、鼓動するように明滅し、やがて急速に膨張していく。


「あの光……シバ……なのか⁈」


イズファルの声がうわずる。


次の瞬間、

世界は、白に呑み込まれた。


目を閉じても意味がないほどの閃光。

だが、かつてのような刺す冷気はない。

頬を撫でるのは、柔らかく、温かな風。


「……違う……」


ドウエンは、確信していた。


「あの時感じた“死の冷たさ”じゃない……!」


やがて、光が静かに収束する。

焼き付いた視界が、ゆっくりと色を取り戻していく。


鼻腔びくうをくすぐる、草の匂い。

そして、潮の香り。


「……この匂い……」


アマネスは、思わず息を吸い込んだ。


「懐かしい……」


視界の先には、果てしなく続く牧草地。

その向こうには、エメラルドグリーンの海が、陽光を反射して揺れていた。


「……なんと……美しい……」


イズファルは、言葉を失っていた。


「イズファル!

シバのやつ……本当に、世界を再生しやがった!」


歓喜のままに、アマネスはイズファルを抱き上げる。


「お、おい!

や、やめろアマネス! 恥ずかしい……!」


「いいじゃねえか!

見ろよ! こんな世界を、あいつは取り戻したんだ!」


壁に沿って建つ砦の各所から、遅れて歓声が湧き上がる。


「……ああ」


イズファルは、穏やかに微笑んだ。


「私たちの子にも……

この世界を、見せてやれるな」


「ほら……シバが戻ってくるぞ!」


闇の上空から、ゆっくりと降りてくる影。


「……今回は、倒れずに帰ってきたか」


ドウエンは、構えていた大弓を静かに下ろした。


「イズファル! アマネス!」


シバの声が、空に弾ける。


「やったぞ!

世界を……戻せた!」


「よくやった、シバ!」


アマネスが、腹の底から叫ぶ。


シバは砦の前へと降り立つ。


「あとは……この“世界を隔てる壁”を、元に戻すかどうかだけど……」


「その必要はない」


アマネスが即答した。


「グラムディルは、もうこの壁を前提に成長している」


「確かに……戻せば、“エル・ドゥラ”が壊れるね」


シバは空を見上げる。


「山脈に雷雲がかかるけど……許してもらえるかな」


「問題ないさ」


アマネスは笑う。


「この壁があるから、誰も侵入できない。

この世界を守る盾だ」


「分かった。ありがとう」


シバは微笑み、イズファルを見る。


「……ところで、イズファル。

顔が真っ赤だけど?」


「……アマネス……」


「いい加減、降ろしてくれ……」


「イズファルのそんな顔、初めて見たよ」


「おい、シバ!

からかうな! 後で体術修行に付き合わせるぞ!」


「ごめんごめん!

そんなに怒らなくても…

ね、アマネス?」


「……アマネス?」


返事がない。


「……シ、シバ……」


声が、微かに震える。


「……お前の……指が……」


「……僕の……指?」


視線を落とした瞬間、

シバの思考は、凍りついた。


白い光が、

シバの右手から伸び、

アマネスの心臓を――貫いていた。


「アマネス!!」


イズファルが、反射的にその身体を引き寄せる。

だが、血はない。傷もない。


「シバ……今のは……!」


「分からない……!

アマネス! 大丈夫か⁈」


「……シヴァ……?」


声が、違った。

ほんの僅かに。


「私は……大丈夫ですが……?」


「……お前……誰だ」


イズファルの声が、低く唸る。


「何を言っているの、あなた?」


「ま……まさか……」


シバの膝が、わずかに震えた。


「アマネスの中にいる者……答えろ!」


沈黙の後、

くすり、と笑う声。


「やっぱり、すぐにバレるわね」


口調が、歪む。


「女言葉って、難しいのよ」


「……“真理の神”……!」


「正解」


微笑みながら、アマネスの口が告げる。


「正確には……

あなたの中に潜り込んでいた、“私の一部”よ。シヴァ」


「アマネスから出ろ!

今すぐ、その身体を解放しろ!

さもなくば!」


イズファルの怒声が、砦に反響する。


「……ふふ。

“さもなくば”、どうするの?」


アマネスの唇が歪み、あざけるように動いた。


「殺すの?

この私を?」


一拍、わざと間を置く。


「――それとも、この女ごと?」


冷たい笑み。


「……いいのかしら?

この女も、一緒に死ぬわよ?」


「アマネスの身体で、何をする気だ……!

真理の神!」


シバの声が、怒りと恐怖をはらんで震える。


「今の私は、シヴァ……」


アマネスの瞳が、異様な光を宿す。


「真の力に目覚めたあなたには、到底及ばない存在よ」


「私の“本体”であれば話は別ですが……」


肩をすくめる仕草すら、どこか楽しげだ。


「あなたを“少し”操るためにね。

ほんの、ほんの少しのエネルギーを、忍ばせただけ」


「だから……」


声が甘くなる。


「あなたが大切に思う、この女か……

それとも、そこの男に乗り移って」


「“きっかけ”を探そうと思ったの」


「……きっかけ、だと?」


「そう」


アマネスの顔で、満足そうに頷く。


「あなたは言ったわね。

“親である私を殺す”と」


「その瞬間を……」


目を細める。


「私は、心から楽しみにしているのよ」


「あなたが、本当に……

私を殺せるほどの力を、手に入れる日を」


「でもね……」


視線が冷酷にシバを射抜く。


「ずっとそばで見ていたけれど……

まだまだ、足りない」


「何かが欠けているの」


「私を殺すための――“何か”が」


「それは……」


声が低く、おごそかになる。


「エルフや人間が、まれに発揮する力」


「私の真理にすら匹敵する力――」


「“愛の力”よ」


「大切な者を守ろうとする時にのみ、発現する力」


「その力をね……」


優しく、残酷に囁く。


「シヴァ。

あなたにも、ぜひ身につけてほしいの」


「そうすれば……」


微笑む。


「あなたの“真理の力”は、

私を超える力になるかもしれないわ」


「……その“愛の力”とやらと、

アマネスの身体に、何の関係がある……!」


シバが叫ぶ。


「だから……“きっかけ”よ」


声が弾む。


「愛とは、大切な者を“失いかけた時”に、最も強く芽生える」


「つまり……」


声が、刃になる。


「あなたの大切な、この女を殺そうとすれば――」


「シヴァ……」


「あなたの中に、“愛の力”が生まれるかもしれない」


「やめろォォォォ――――!!」


白い光が、アマネスの心臓から爆発するように放たれた。


「――ぐあああああッ!!」


悲鳴が、空を引き裂く。


「アマネスッ!!」


アマネスの身体から、

小さな白いエネルギー体が弾き出される。


――シバは、それを逃さなかった。

掴み、最後まで聞かねばならなかった。


「シヴァよ……」


冷ややかな声が響く。


「その女を、助けられるかな?

どうやら、子も宿しているようだが…」


「私の精神体が、深く入り込んでいる」


「並の力では……排除できんぞ?」


「あーはっはっは!」


嘲笑が、風に溶ける。


「私は、このまま消えるけど……」


「本体の私は、いつでもお前を見ている」


「さあ……」


声が、遠ざかりながらも響く。


「大切な者を守れ」


「“愛の力”を、得てみせろ」


「楽しみにしているぞ……」


最後の言葉だけが、はっきりと残った。


「――私を殺す者よ」

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